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    ashibe_neta14

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    ashibe_neta14

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    前の続きだけど単体でも読める甘々カフ刃。

    ひとひらの眠り。「刃ちゃん、この間のことなのだけれど」
    「エリオに私が演じるべき『脚本』を確認してもらったの。そうしたらしばらくの間は重要な役割は無いと言っていたから、幾らか好きに動ける時間を作れる事になったわ」
    「何が言いたいって……言い方が回りくどいかしら?」
    「つまりはね、貴方が私の事を好きにしていいと言うことよ。貴方が何を言っても私はそれを拒まないわ」

    次の星間移動の為に待機していた船内のロビーに現れたカフカは、突然、そんな突飛な事を刃に言い出した。
    聞けば先日、あの男に敗れた後にしてしまった事の埋め合わせをしたい、との事らしい。刃からすればあの日の事はもう過去になっていて、された事を忘れた訳では無かったが、お互いの間違いについては精算したつもりでいたのだ。だが、カフカから見た分には同等の罪滅ぼしになってはいなかったらしく、この現状となっている訳だが。
    休息や移動手段でしか使われていない星核ハンターの船は他の移動船に比べて広くは無い。ロビー内もまた同様だ。廊下へ繋がるドアに立っていたカフカが数歩歩けば、刃が座っている革張りのソファへと辿り着く。目の前に立って答えを促すカフカに、刃は溜息で返答した。

    「特には何も、」
    「聞いて:貴方は私にどんな望みを言ってもいい。」

    ……言霊を使ってまで答えさせたいのか、この女は。
    「私ができる事は少ないけれど、そうね……同じだけの痛みを背負わせるなんて事でもいいし、全く異なる別の事だっていいの」
    ソファに座る刃の足を跨いで、刃の膝の上にカフカが陣取ってソファが2人分の重みで軋んだ。顎を掬い取られ、目が合う。至極楽しそうに笑っている女からは満開を迎えた花のような、甘い香りがした。そういえば最近お気に入りのものを見つけただのと、銀狼と話していた気がするから、その類のものなのだろう。

    妖艶な笑みを浮かべたカフカが、ゆっくりと顔を寄せてこようとするのを察知して、細腕を掴んでカフカを止める。見る者が見れば誘う為に体を寄せたのだと思われても仕方ない絵面だ。だが、そんな単純な目的では無い事は刃には分かっている。
    刃が何も望まないと言い続ける限り、言霊を使ってでも望みを吐き出させるつもりなのは、刃はその身を持って既に体験してきた事だ。

    「あら」
    「少し待て。今考える……」

    残念そうに肩をすくめているカフカの腕を掴んだまま、視線を迷わせて何か些細な事でもあったかと思考を巡らせる。普段、欲らしい欲がない者にとって、これは最も手強い敵だった。
    ふと、あの日の事を思い出す。あの月の晩に遭ったこと。この女にするには丁度いい望みが一つあった。

    カフカの腕を引っ張り隣に座らせる。腹を括った刃の望みは何なのかと楽しみにしている事を隠しもしない、喜色の表情だった。
    ……もしやこれは一つの茶番で、この女は俺の反応を楽しみたいだけなのではないだろうか?
    カフカの思惑は彼女自身にしか知り得ない。真実がどうであれ、彼女の望みが何なのかは刃は如何とでも良かった。この女は問うた。この身は答えた。たったそれだけの事で、それ以上の事は何も無い。その筈だ。
    刃は剣を抱え直して、隣に座るカフカへと倒れ込み––正確には女の膝に––頭をカフカに預けると、女の手を取って、己の目元に置かせた。
    呆気に取られて目を瞬かせているカフカの顔を、指の隙間から合間見る。この顔が見られただけでも多少は胸がすく思いだ。

    「少し眠る。魔陰の身が暴走するようなら止めてくれ」

    言いたいことだけを言って瞼を閉じた。暗い世界の中で、衣擦れの音が、自分の呼吸音と鼓動が、そしてカフカの存在が、より鮮明になる。
    カフカが僅かに空気を震わせて笑った後は、指先を一定の間隔で皮膚を滑らせて元の位置に戻ることを繰り返していく。眠りに落ちてしまうまで、そう長くはかからなかった。
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