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    秋🦭

    @glasses03AKi

    成竜とか好きなものいろいろ

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    秋🦭

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    すけべなしの健全なお題をいただいて書いているものです。
    『大きなバスケットに乗せられて散歩中の園児に見つめられる敢高』でした!
    お題、ありがとうございました!!

    キラキラ 真っ青な空に、白い雲が浮かんでいた。まだ陽が低い位置にあるだけマシかと、敢助は額を流れる汗を手で拭う。今朝、ニュースで今季の最高気温を更新すると言っていたのを思い出し、思わずため息が漏れた。
    「おい、高明。そこの公園で一旦休憩するぞ」
    「そうですね……」
     高明の口からも深く息が吐き出されるのを聞き、敢助は足早に舗装された道を進んでいく。隣を歩く横顔に視線だけを向ければ、疲れからか普段から白い顔がより色をなくして見えた。
     仕事とはいえ、この暑さでは気力が著しく削がれてどうしようもない。
     民家の間を縫うような細い道に、敢助が杖をつく音が強く響く。
     聞き込みの道中、何度も通った道はアスファルトの照り返しも強く、足を踏み出すごとに体力を消耗していくようだった。
    「待ってください、敢助君」
    「あ?」
    もうすぐ目当ての公園に着くという時だった。
     不意に声をかけられ、苛立ち紛れに鋭い目つきのまま高明を振り向けば、その指が静かに目的地の前の通りへ向けられる。
     うるさいくらいの蝉の声と、複数の女性が話す声。そこに混ざる、子どもの声に敢助は眉間に皺を寄せた。
     高明が敢助を止めた理由に思い至り、踵を返す。おおかた、暑さで苛立ち、普段より強面に磨きがかかった敢助が子どもを怖がらせないようにという配慮だろう。けれど、ここ以外に休めるところもないと、一瞬迷い足を止めた時だった。
     いくつもの子どもの声と女性の声が近づいてくる。声のする方に視線を移せば、ちょうど大きなカートのようなものに5人くらいの子どもが乗り、公園を出てくるところだった。カートを先導する女性が、敢助と高明に会釈をしながら、横を通り過ぎていく。服装から見て、近所の園児達だろう。散歩なのかなんなのか、カートの中は賑やかで、敢助は反射的にそちらに背を向けた。子ども達の明るい声が後ろを通り過ぎていく。
     もういいだろうと、敢助がそっと後ろを振り向いた時だった。
    「……!」
     カートに遅れて、女性に手を引かれる男の子が敢助の後ろを通り過ぎていく。目を逸らそうとしたちょうどその時、男の子の大きな目が敢助の視線と重なった。まずい、と反射的に顔を背けようとした時だった。
     無言のまま、男の子が敢助に向かってふわふわと手を振る。無表情のまま、左右に揺れる手に敢助は面食らった。そしてなぜか、考えるより早く杖を持たない方の手が僅かに上がる。
     気づけば、その手を同じように少しだけ左右に振っていた。
    「ばいばい!」
     それを見たらしい子どもの顔が一瞬にして満面の笑みに変わり、元気のいい声が敢助の耳に届く。
    「ばいばい!」
    「おひげさん! ばいばい!」
     さらに、カートからも次々に声がかかり、高明に気づいた子どもがそちらにも手を振っているのが見える。
    「あ、ああ……」
    「ふふ……バイバイ、ですね」
     思わず面食らう敢助とは対照的に、高明がにこやかな笑顔で揃えられた手を優雅に振っていた。暑さなど微塵も感じさせない表情と所作に、敢助は思わず自身の頬が引き攣るのを感じていた。
    (様になりすぎだろ)
     なまじ整った顔をしているせいか、手を振る動作と表情が似合いすぎて、なんとも言い難い。
     しかし子ども達にはそんなことは関係ないらしく、元気な声が口々にバイバイと動作を繰り返す。
    「おひげさん!」
    「バイバイ!」
    「ばってん! かっこいいねぇ!」
    「かいぞくさん?」
     高明や敢助を指差して、思い思いの言葉を口にする。
     その目はどれも夏の陽の光を反射して、強く輝いていた。
     しかし同時に、体力が有り余っているのか、カートの上でジャンプする子どもまで現れ、収拾がつかなくなりそうだ。
    「高明」
    「ええ」
     一度視線だけを合わせた2人は、そのままもう一度子ども達に向き直る。
    「バイバイ、な」
     最初に手を振ってくれた子どもに向かって、敢助がもう一度手を振り返すと、高明もそれに習うようにカートに向かって手を振った。
     そして保育士であろう女性たちに対して、笑顔のまま静かに頭を下げる。
     それを合図にするように、カートがゆっくりと遠ざかっていく。未だに元気に手を振り続ける彼らに、最後に一度手を振って敢助は大きく息を吸い込んだ。
     夏の暑さの中、強い風が一瞬2人の間を吹き抜けていく。
     子ども達を宥める女性の声や遠ざかる幼い声が、だんだんと蝉の声に紛れて聞こえなくなるまで、2人は静かに佇んでいた。
     
    「……行くか」
     カートを見送って、敢助が静かに踵を返す。視線はもう公園ではなく、来た道に向いていた。
    「休憩はいいんですか?」
    「十分だろ」
     高明も同じことを思っているはずだと先に歩き始めた敢助に、足音がついてくる。重かった2人分の足取りが心なしか軽くなっているような気がした。
    「そうですね」
     すぐに隣に追いついてきた横顔は、先ほどよりも随分と晴れやかだった。

     
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