僕の秘密の恋人~さあ行け、あなたは私の王子様~ 夏だ!(夏休みは終わったけど)デートだ! 映画だ!
というわけで柳生とめでたくお付き合いを始めた仁王は、今日は近くのショッピングモールにある映画館へ、映画を見に来たのだった。
ふたりで映画を見ることは今までも度々していたが、正式に交際をしてからは初めてだ。つまりこれはまごうことなきデートなのだ。
デートに相応しいかどうかはさておき、内容はアニメだ。ふたりともアニメにはさほど興味はない。そんな中、何故そのタイトルをデートにチョイスしたのかというと、ふたりが出演しているからに他ならない。
その映画がいよいよめでたく公開初日を迎えたのだった。
収録はかなり前だった。出演のオファーはきたものの、どういうストーリーなのかよく知らないまま収録に臨み、そして今になってもわからないままだ。
前代未聞だが、脚本は渡されていない。というのは、出演はするがセリフはなく、収録は歌とダンスだけだったからだ。
「今度はダンスじゃと……?」
「歌って踊る映画らしいですね」
「は? なにそれ」
柳生とそんなやりとりをしたのももうかなり前のことになる。
なぜテニスの映画で出番が歌とダンスだけなのか。まったくもって意味が解らないが、この世界は得てしてそういうものだ。
だが、歌はともかく慣れないダンスには、仁王は四苦八苦した。思い返すと、かなり大変だったという記憶しかない。
そんな収録があったこともすっかり忘れかけた頃、ようやっと映画が公開する運びになった。
せっかくだから観に行きましょうと誘ってきたのは柳生で、仁王も最終的にあの映画がどうなったのか興味はあったからその誘いに頷いた。
決戦は9月3日の金曜日。
「女性ばかりかと思っていたら、意外とそうでもないですね」
公開初日とあってシアターの座席はかなり埋まっていた。観客はおおむね女性だったが、それでも同じく中高生の男子グループや、親子連れ、カップルもちらほら見受けられた。
正体がバレて騒ぎになっても困るので、ふたりとも今日は変装をしてきた。
柳生はトレードマークの眼鏡を外し、いつもは自然に下ろしている前髪を分け目で緩くアップバングにしてから横に流したセット、仁王は仁王の姉にイリュージョンをして。なるべく人目につかないように前方の隅の席を予約した。
「私も女の子ばっかりだと思ってたわ」
売店で買ってきたドリンクをちゅーっと吸いながら、イリュージョンをした仁王も周囲の席をきょろきょろ見渡した。
せっかく出演している映画が初日からガラガラというのも淋しいから、老若男女に盛況なのはそれはそれで嬉しい限りだ。
「仁王くん、そんなに大きく足を広げて座ったらはしたないですよ」
「プリッ、姉ちゃんは家ではこんなもんじゃよ」
「家の中はどうか知りませんけど、お姉さんだって外出先でそんな格好はしないでしょう」
「んもうっ、柳生クンお堅いわぁ……弟の方にイリュージョンすればよかったかな」
「今からでもそうすればいいのではないですか。上映時間は2時間ほどありますし、慣れない姿勢で無理していても疲れてしまいますよ」
「でもほら、弟とだとこんなこと出来ないでしょ?」
持っていたドリンクをホルダーに戻し、代わりにそろえた膝の上に置いてあった柳生の手を取る。
ピクッと柳生が驚いているうちに手のひらをあわせて指を絡ませると、柳生は途端に慌てふためいた。
「……っ! に、仁王くんっ」
「シッ。声が大きいよ、柳生クン。バレちゃうでしょ」
「ですが、こんなところで……」
「何言ってるの、こんなところだからこそじゃない。映画館デートの定番でしょ。あとはコレね」
座席のドリンクホルダーに置いた各々のドリンクの他に、ポップコーンはLサイズをふたりでひとつ。
白くもこもこしたかたちのそれを仁王は開いている手でつかんで柳生の口元にむに、と押し付けた。もごもごと柳生が咀嚼しているうちに、もうひとつ摘まんで今度は自分の口にぽいっと投げ入れる。
目立たない壁際で、ふたりの座っている二席の隣は通路。その席の間でこっそり手を繋いでいても、よっぽどのことが無ければ周囲にはわからないだろう。映画が始まってしまえばシアター内の照明は落とされてしまうからなおさらだ。
とはいえこんな公衆の場所で男同士で手を繋ぐわけにもいかないから、イリュージョンを使ってこそ可能なことだ。
「手繋いだくらいで真っ赤になっちゃって、柳生クンってばウブなんだから」
「初心って、それは……」
「いかにも女慣れしてない感じ、カワイイ」
その言葉に少し目尻を染めて困ったように俯く柳生は、確かにかわいい。けれど。
見た目通りの年上のお姉さんぶって揶揄ったところで、仁王の心にはもうひとつの感情もむくむくと生まれた。なんだ、やっぱり柳生も女の方がいいのか、なんて。しかも仁王にしてみれば自分の姉に触れられて顔を赤くしている柳生の姿なんて、結構面白くない。
自分でこの状況を仕掛けたくせにひどく我儘なことが、仁王の中でポップコーンのようにぽんぽんと弾け飛ぶ。
なんだかおかしな感情にモヤモヤしてきたところで、柳生が「──なにか、勘違いをされているようですが」と控えめに呟いた。
「仁王くん、私にイリュージョンはききませんよ」
「うん?」
「周囲からは今のあなたは女性に見えているのでしょうけど、私にとってはそのままの仁王くんです。だから──」
イリュージョンをしていても、柳生が見ている姿は仁王のまま。
こうして手を繋いでいるのは紛れもなく仁王と柳生なのだ。
「たしかに私はこういったことに慣れてはいませんが、それは女性に対してということではなくて、仁王くんという好きな方に対してということです。いくらか緊張したって仕方ないでしょう」
その緊張を体現するように、柳生は鼻根のあたりに指をやった。おそらくいつものように眼鏡のブリッジでも押し上げるつもりだったのだろうが、あいにく今日は変装のため眼鏡は外している。
普段だったらつい、と眼鏡を押し上げる指は、柳生の眉間にずび、と突き刺さった。
余計に恥ずかしくなったのだろう、ふいっと少し向こうを向いて柳生は頬を更に染めた。
そんなふうになりながらも、柳生は仁王の成すがままだった繋いだ手にきゅっと力を込めてきた。おまけに比較的自由になる親指ですりすりと仁王の手の甲を撫でてくるのだからたまらない。
仁王も、イリュージョンをしているときは半分他人になったような感覚で柳生に触れていた。だからこそ気安く柳生に触れたのに、柳生が100%そのままの仁王の感覚に引き戻してしまった。
「や、やぎゅ……」
緊張は伝染する。柳生と恋人繋ぎしている。その事実に今更ながら照れたのと柳生の緊張が伝染してきて、顔に血が上っていった。
そもそも仁王だって外でこうして好きな相手と手を繋ぐのは初めてなのだ。
「………」
「………」
「仁王くん、映画が終わるまで、このままでいていいですか」
「……ん」
元はと言えば自分が仕掛けたことだから今更イヤだとは言えないし、拒否する気もなかったけれど、ふたりして頬を染めて手を繋いで映画鑑賞なんて、傍から見たら滑稽で珍妙な図だなと思った。
シアターの中は冷房が効いているけれど、繋いだ手と顔が発火しそうに熱かった。
「──そういえば、仁王くん、この映画のストーリーって聞きました?」
「え? いや、収録終わった解放感でそのまま忘れてたから、そのあと気にもしてなかった」
「私も結局聞かされないままなんですよね。だからどこで出番があるのかすらわからないのですが……」
そもそも歌とダンスの収録しかしていないのだ。はて、とふたりして首をひねっていると、いよいよ上映が始まるという開始のアナウンスが流れた。
冒頭のシーンはすでにPVで公開されていた。そこで踊るふたりの姿は一瞬映ったのも知っている。が、しかし、その場面は映画が始まって数分で通り過ぎていった。
その後は待てども待てどもふたりの出番はない。それはそうだな、というのはプロローグが終わったくらいの時点で察した。そもそもストーリー上、越前リョーマ以外のメンバーが出てくるような話ではないのだ。ここで他のメンバーが前触れなくひょっこり出てきたらシナリオが破綻しかねない。
ダンスシーンはテニスコートで収録したのだが、そもそもそのテニスコートがでてこない。なんだろうこれは。映画本編のハラハラドキドキより、だんだんとそちらの方が気になってきてしまった。
「………」
「………」
そうして見たことがある緑の芝生のテニスコートが映ったのは、映画が一時間を経過したあとだった。仁王も収録に参加した劇中歌のイントロが流れる。そして唐突に召喚されるメンバーたち。
ああ、そうそう、こんな感じで収録したっけなあ……っていうかこの導入おかしくないか?
「……?」
なんだこれ、俺たちがここで登場する伏線はどこにあった? 冒頭のアレか? と訝しげにスクリーンを眺めている仁王の視界に映る、綺麗な指先のシルエット。からの。
(~~~~~ッッッ!?)
ブーッ!! と吹き出しそうになるのをなんとか口の中で押しとどめて、そのままごくりと飲み込んだのは我ながらエライとしか言いようがない。
スクリーンで大熱唱している柳生と隣の柳生をキョロキョロ行ったり来たりで見てしまったのは、もうそれくらい驚いたからだが、柳生はスクリーンを眺めたまま微動だにしていない。
どういうことだ、なんだあれは、聞いてないぜよ。歌詞や背景と相まって、まるで越前に宇宙の意思を伝える者みたいな壮大な姿になっとる。
上映中にもかかわらずシアター内はなんとなくざわついた雰囲気になっていたので、仁王の違和感はけして間違いではない。とはいえ上映中だからそれ以上何ができるわけでもない。
努めて冷静に、仁王はスクリーンへ視線を戻した。心臓は衝動を抑えつけた反動でバクバクいっている。
DVDではないから一時停止なんかできるわけもなく、そうこうしている間にも映像は進み続ける。サビを越えると今度は仁王のドアップがスクリーンに映し出された。ほんの一瞬だけだったが画面いっぱいに、バチンとウィンクをしたポーズで。
ああ、そういえばウィンクしろと言われてダンスと別撮りであんなポーズ決めたっけなあと思いだした。どのシーンで使うのかと思っていたが、この劇中歌に挟む用だったのか……。
「~~~~~ッッッ!!」
ハッと気づいたら隣の柳生がバッと口元に手をやって前屈みになっていた。
まるで酔っ払いがリバースする直前の姿だが、仁王にはわかっていた。
あ、これまた悲鳴を抑えているヤツだな、と。
──そんなこんなで映画は恙無く終了した。ああ、恙無い。何も問題はなかった。たぶん、俺たちの世界ではこれが当たり前なのだ、うん。
上映が終わり、暗かったシアター内にほんのりと灯りがともる。途端にほおっ……と張り詰めていたような空気が緩んだ。「いや、なにあれ」「ってか柳生ヤバ…ッ」という観客のざわめきに、仁王も同調するしかなかった。いやまったくだぜよ。
「………」
「………」
「仁王くん、行きましょう」
「う、うん」
すっくと立ち上がった柳生は仁王と手を繋いだまま、それ以降無言でずんずんと歩き出した。
(──え、なんか、怒っとる……んか……?)
せっかくだからこのままモール内で少しショッピングなりお茶なりというコースも考えていたが、むすっと口を結んだままの柳生は一点の迷いもなく出入り口に向かって行く。
「ね、ねえ柳生クン、もう帰るの……?」
「すみません、今日はこのまま帰らせてください。この埋め合わせは後日必ずしますから」
「埋め合わせなんて、それは別に構わないけど……」
手は繋いだままなので仁王ももれなく柳生宅への帰宅の道連れだった。しかもこんな状態ではイリュージョンを解く暇もない。えええ、なんじゃこりゃ?と思いながら、イリュージョンをしたままの仁王は柳生に手を引かれるしかなかった。
パタン。
結局そのままふたり揃って柳生の家へ帰ってきた。自室のドアを閉めたところで柳生がふるふると震えてガバッと手で顔を覆う。
「あああああああ!! なんですかあれ! なんですかあれはあああああ!!」
「ピヨッ!?」
口を手で押さえたとはいえ急に大きな声を出すものだから、その大音量を直撃した仁王も驚いてビクッと飛び跳ねてしまった。
そのはずみでイリュージョンが解かれて、仁王は元の姿に戻った。
「あんなドアップでキラッキラに星飛ばしてウィンクなんて、ファンサしすぎです~~~!! あんなの映画見ている方みんな仁王くんのこと好きになってしまうじゃないですか~~~!! カッコいいからいいんですけど~~~!!」
「別にあれはファンサじゃのうて、やれと言われたからやっただけぜよ」
「あああああなんにしても無理~~~!! もう無理です~~~!!」
「ウィンクしろって言われたけど、俺もまさかああいう使い方されるとは思っとらんかったなあ……」
しかもあんなドアップで、自分とは思えないほどにこやかな笑顔。恥ずかしいことこの上ない。
「っつーか、おまんだってひとのこと言えんじゃろ、なんじゃあれは!」
「──私……?」
柳生が手で覆った指の隙間から、ちら、と目を覗かせた。
「あんなに大勢が参加してる歌でワンフレーズまるまるソロでアップの映像ってどういうことじゃ!」
「いやあ、あれは私も驚きましたね。確かにあの曲はフルコーラス歌いましたし、ソロの部分の最後はどこまで声が続くかとスタッフさんに言われて一分くらい伸ばしたものも別撮りしましたが、まさかあれを使うとは聞いていなかったもので」
「フルコーラス? 俺は収録のときもサビのとこしか歌ってないぜよ」
「おや、そうだったのですか」
「だいたいソロパートなんて、幸村だってあんなちょびっとだったっていうのに、前触れなく急に出てきて越前の目の前であんな長々と……」
「それはほら、私は歌唱力に定評があるからじゃないですか」
「おうおう、シレっと自画自賛しよったのう、いい度胸じゃ」
「というか私の歌はどうでもいいんですよ。それより仁王くんのアレが……あれ……っ……はわわ──!」
「はわわって口で言うヤツ初めて見た」
「不意打ちであんな姿を見たので息が止まるかと思いました。カッコいいのにかわいさ全開ってどういうことですか、もう私にどうしろっていうんです~~!!」
「別にどうもせんでええ。ってか、あんな一瞬なのによく見てたな」
「ご安心ください、一度付けた狙いは外しません」
「コートだと心強いセリフが場面と状況が変わると安心どころか恐怖でしかない」
「それはさておき、仁王くん」
柳生が仁王の服の袖をくいくい、と引っ張った。
「な、なんじゃ……」
「お願いがあります」
「断る。なんかイヤな予感がするぜよ」
「もう一回あれが見たいです。私に向かってウィンクしてください。映画のようにバチコーン☆ってしてください」
「断るって言葉の意味わかっとるか? また映画を見に行って興行収入に貢献しんしゃい」
「それはそれとして、生でして欲しいと言ってるのですよ、生で!」
「おまんがナマって言うとなんか卑猥に聞こえるからやめろ!」
「? ……何故生が卑猥になるんですか。スクリーンの幕越しなんかより生の方がずっといいに決まっているじゃないですか、ナマの方が!」
「おまんわかっててわざと言っとんじゃなか!? それに、おまんだっていきなりあの歌を目の前で歌えって言われたらイヤじゃろ!」
「おや、歌いましょうか? むしろ仁王くんのためなら喜んで。んっん、あ~あ~♪」
「いい! 歌わんでいい! おまんはそーゆーヤツじゃったのう……。ああもうっ、とにかくイヤなもんはイヤじゃ!」
ぷいっ、と仁王が明後日の方を向くと、柳生は柳生でむむむと渋い顔をして「仁王くん……」と少し拗ねたような声で仁王を呼んだのだ。
「うっ……」
しょんぼりと眉を下げて上目遣いに仁王を見つめてくる。そんな声と表情はいつの間に覚えたのか。紳士はそんなキャラではなかっただろうと思いつつ(それを言ったら推しを作ってギャーギャー大騒ぎするキャラでもなかったが)あ、この顔カワイイ、などと思ってしまった恋愛脳の自分を戒める。
なぜ柳生に対してはこうも簡単に絆されてしまうのだろうか。柳生がこんなキャラでなかったのと同じく、自分だってこんなキャラではなかったはずなのに。
「あ、あらたまってやれと言われたらやりづらいし、恥ずかしいんじゃ……。そんくらい、分かれ……」
「それは──……そうですね、ええ、仁王くんはそういう方ですもんね」
わかりました、と静かに告げる柳生は拗ねているわけでもなんでもなく、普段通りのパートナーの柳生だった。
「仁王くん、映画、また一緒に観に行きましょうね」
「そりゃいいけど、この映画だとまた変装していかなきゃならんし、次は柳生が前に観たいって言ってたミステリーの方にせんか? 俺はイリュージョンせずに、俺と柳生とでデートがしたいぜよ」
柳生に向かって手を伸ばして、わしゃわしゃと髪を掻きまわす。「わわっ」と柳生は怯んだが、それも気にせず手櫛でさっさっと前髪を整えた。前髪を自然に下ろした、いつもの見慣れた柳生のスタイルだ。
「うん」
「仁王くん……?」
「柳生はやっぱりこれが一番ええよ」
柳生自身は気づいているのかいないのか、眼鏡を取って髪をセットした精悍で男らしいシャープな顔つきと秀でた額に、すれ違う女性たちがその視線をちらちらと注いでいたことを。
柳生は仁王のことを王子様のようだと言ったが、仁王にしてみれば柳生こそ王子サマなのだ。
普段の柳生はその紳士的な落ち着いた雰囲気と眼鏡のイメージばかりが際立って、仁王の隣に並んでしまうと些か地味に見えてしまうのは否めないが、今日のように少し手を加えただけで雰囲気は180度変わる。──ということを、仁王は知っている。が、自分の恋人がカッコいいのだということをひけらかす趣味は仁王にはないし、仁王以外が知る必要もない。
「さて、もういい時間だし、今日は帰るぜよ。明日も部活があるしの」
なんだかんだと外はとっぷりと日が暮れてもう真っ暗だった。柳生家もこれから夕飯だろうし、そろそろお暇をする時間だ。
「──柳生」
「はい」
玄関ドアを出ていく瞬間、見送りに来てくれた柳生の方を振り向いて。
パチッ☆と軽くウィンクをしてやったら、柳生はおよそ紳士らしくなく、ぽかんと口を開いた。
「また明日な。プリッ」
ひらひら手を振ってトトトッと駆け出した仁王の後方で柳生が「~~~っっっ!!」と悶えていたのはわかったけれど、それを構ってあげられるほど余裕がないのは、仁王は仁王で王子サマじゃないから。たぶん王子サマだったら何の気なしに出来るこういうことに慣れていないからだ。
ぽぽぽ、と熱が上っていく顔に触れていく夜風が気持ち良い。9月に入ってめっきり秋が近づいてきた。
我ながら恥ずかしいことをしたなと思ったけど、油断させといてバン、というのも相手を仕留めるには常套手段だし、それからまあ、俺のオンリーワンの秘密の恋人へ、プレゼントってことでな。
ピヨッ。
*****
「え、入場特典のポストカードですか?
ガチャで仁王くんのSSRカードも一発で引き当てる私ですよ。その私が、確率10分の1を引き当てないとでもお思いですか?フフッ」