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    kaoru

    @aksm_frontier

    CPは【 】で表記しています。
    【D1】は立海D1(腐)の左右の概念がないものです。28でも82でもお好きな方でご覧ください。

    82と28はタグ分けしてありますので↓から絞り込みできます。
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    pivivに再掲したものは順次非公開にしていきます。

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    kaoru

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    【D1】僕の秘密の恋人~仁王くん最推しの柳生さんの話~

    副題そのまんまの話。柳生さんのキャラ崩壊注意。
    現実と同じように🎾👑メンバーのグッズやゲームが発売されているメタを含んだギャグです。
    仁王くんは柳生さんに片想い中。そして柳生さんは……?

    ※Twitter2022.8.14

    ##28
    ##82

    僕の秘密の恋人 ~仁王くん最推しの柳生さんの話~ ──ラケットにかけて誓うが、仁王はクローゼットの中を見る気などなかった。はずみで開いてしまった扉を閉める、ただそれだけの行動にあれやこれやの思いが入り込む余地などない。
     だからまさかそんなものが仕舞い込まれているなんて、これっぽっちも予想していなかったのだ──
     

     休日、たまにはふたりでのんびりDVDを見ようと仁王は柳生の部屋に遊びに来ていた。

    「どうぞ寛いでいてください、私は飲み物を用意してきます」
    「サンキュー」

     部屋を出ていく柳生を見送ってから、仁王が柳生の部屋でお気に入りにしているクッションにぽふんと身をもたれかけさせると、すぐ近くでバサバサッと物音。

    「プリッ?」

     発信源はクローゼットだ。中で物が雪崩れでもしたのか、微かに扉も開いてしまっている。閉めておいてやろうと押すものの、何かがひっかかっているのか閉まりきらない。仕方なく仁王は扉をそっと開いた。

     床にバラバラと落ちていたのは数冊のクリアファイルだった。拾い上げて整える。その時にちらりと中が見えてしまったのは見ようと思ったわけではない、完全に不可抗力。だが、それは別になんてことのないものだった。
    「こりゃあ……」
     強豪テニス部としてその名を轟かせる立海は、専門誌の取材を受けることがある。レギュラーメンバー全員が代表選抜に招集されてからは、そちらの特集でも記事を書かれることもあった。仁王が拾い上げたクリアファイルの中にはそういった記事のスクラップがまとまっていたのだ。
     今年の関東大会や地区大会、その前の公式戦まで全部そろっている。懐かしい、というほど昔のことでもないが、そう思ってしまうのも仕方がないくらいいろいろなことがありすぎたこの1年だった。体感では20年くらい経っているのではないか。まだ中3の仁王がそう思うのもおかしな話だが。

     だから最初は柳生が自分やメンバーの記事を律儀にスクラップしているのだと思ったのだ。それが途中から仁王のものばかりになってきた。時期を見ると日本代表に選ばれたころのものだから、柳生の姿はそこにはない。しかし他のメンバーは同じように代表としてユニフォームを着ていたはず。なのに記事は仁王のものばかりだ。
    「……?」
     こてん、と首をひねったまま、おそらく元々そこにあったのであろう棚の隙間にファイルを戻そうとした。次に目に留まったのは『月刊プロテニス』。
     それはU―17日本代表の特集のひとつとして仁王が表紙を飾ったものだった。…それが、3冊も出てきた。1冊はそのまま、残り2冊はご丁寧にビニール袋に入れたままだ。

    「こんなん、1冊あればいいじゃろ」

     ──と、呆れたような声を出して独りごちたのは、照れ隠し。
     仁王は内心、これ以上ないほどてれてれしていた。ペアの相手である仁王の記事を丁寧にスクラップし、仁王が掲載されている雑誌をこうして大切に保管している柳生に、だ。パートナーとして柳生が仁王のことを誇らしく思っているのは知っている。それが具現化したのがこれらではないのだろうか。

    「ハハ、俺って結構、やぎゅさんに愛されてるのう」

     それがペアとしてであっても親友としてであってもいい。博愛主義の紳士の愛情を──それが友愛という範囲を越えないものだとしても──少しでも感受できるのなら、仁王にとってはこれほど嬉しいことはなかった。

     なぜなら仁王が柳生に向ける感情はそれよりももっと大きな愛情を含んだ好意だったからだ。柳生が自分に対して親友以上の感情を持つことはないだろうと思いながらも、仁王はひとり、報われない片想いをせっせと育んでいた。いつか柳生に彼女ができるまでは、こうして休日に一緒に会って遊べるだけでもいい、と思いながら。

    「ん?」

     そんなほこほことした気持ちと甘酸っぱい切ない気持ちを半々に抱えてクローゼットの扉を閉めようとしたとき、クローゼットの中にある透明な衣装ケースが目に留まった。引き出しの中が微かに透けて見える。
     これは────


     
    「仁王くん、お待たせしま……──っ!!」

     扉の開いたクローゼットの前で仁王が呆然と立ち尽くしているときに、柳生が飲み物とお菓子を用意したトレーを持って部屋に戻ってきた。

     ①カシャン、トレーをテーブルに置く、
     ②スッ、仁王とクローゼットの間に素早く入り込む、
     ③バタンッ、音を立ててクローゼットを閉ざす。
     四天宝寺中の部長も称賛するだろう一切の無駄な動作なく、柳生はそのスリーミッションを完遂させた。そうしたところで仁王が見てしまった事実は消えないのだが。

    「すまん、勝手に中を見るつもりじゃなかった。物が落ちる音がして扉が少し開いたから、閉めてやるつもりだったんじゃ」
    「──……っ、っ」

     クローゼットの扉を握りしめたまま、柳生はふるふると肩を震わせている。

    「と言っても、信じられるわけないか。ほんにすまん。柳生が怒って当然じゃ」
    「私があなたに対して怒るわけないでしょう!」

     振り向いて珍しく声を荒げた柳生に仁王はぴゃっと驚いた。

    「……怒っとるぜよ」

     しょぼん。もしも仁王に猫のような耳としっぽが付いていたなら、情けないくらいへたりと力を失くしてしまっていただろう。

    「あああ、違うのです、そうではなくて……」

     クローゼットの扉に背をあずけて、柳生は両手で自分の顔を覆った。ふぅ、と大きく息を吐く。

    「中、見ましたよね」
    「おん、ちょこっとだけど」
    「気持ち悪いですよね、こんな……」
    「キモチワルイ?」

     仁王にとっては別に気持ち悪いものなどは置いていなかった。だってそこに保管してあったのは。

    「俺のグッズって気持ち悪いの?」
    「────~~~~~!!」

     仁王が見たクローゼットの中。の、衣装ケースの中。
     そこには仁王のグッズのアレコレが綺麗に整理整頓されてギッチリ詰まっていたのだ。

     透明な引き出しをちょっと覗いただけでも、新品のカレンダーやポスター、綺麗に束になったクリアファイル、箱に入ったままのマグカップ、缶バッチ、キーホルダー、アクリルスタンドのような小物類。大きなクッションはご丁寧に圧縮収納袋に入っていた。それらの棚の上にまるで見張り番のようにちょこんと並んで座っていたのは、ぬいぐるみたち。

     芸能人でもないのになんだかわけのわからないグッズが次から次へ発売されて、仁王にしてみれば「誰がこんなもの買うんじゃろか?」と不思議でしかなかったが、慈善事業ではないのだから売れる見込みがなければ発売されるわけがないのだ。まさかこんな身近に熱心なユーザーがいるとは思わなかったが。

    「別に気持ち悪いなんて思わん。柳生さんがパートナー思いなのは知っとるけえ」
    「パートナーというだけでここまでするわけないじゃないですか……」
    「んん?」
    「だって、私、私は──……」

     顔を覆った手の隙間から見える、紅潮した頬。こんな柳生は初めて見る。これはまさか、もしかして、もしかすると、柳生も俺のことを──

     
    「私は、仁王くん推しなんです!」
     

    「──……おし?」
    「仁王くんのファンということです」
    「ピヨ?」

     仁王の姉も最近男性アイドルグループに夢中になり、その中の誰か(よく知らない)を推しだなんだと騒いでいる。グッズを買ったりコンサートへ行ったり大忙しで、部屋ではなにやら友人と電話でもしているのか「○○今日も顔がイイ~! 大好き~! 結婚したい~!」と大声で話しているのが聞こえてくる。あれか。しかし、ということは、だ。

    「柳生、俺のこと好きなの?」
    「うっ……それは、大好き、ですよ。ファンですから」
     ダイスキ。柳生は俺のことがだいすき。
    「それって、友達以上の意味で好きってことか?」
    「どうしてそこを掘り下げてくるんですか! もういいでしょうっ」
    「いいから答えて」
    「うう……ただの友人なら推しだなんて言いませんし、こんなにグッズを集めたりしません……」

     柳生は俺のことが好き。そして俺は柳生のことが好き。これを世間一般では両想いというのではなかろうか。いや、それ以外に何があるというのか。

    「柳生!」
    「はっ、はいっ」
    「俺も好いとうよ。付き合ってくんしゃい」
    「え、この話の流れでどこへ行くというのですか」
    「……おまん、わざと言ってる?」
    「わざと?」
    「ンなわけないか。柳生だもんなぁ」
    「?」
    「柳生比呂士くん、俺は君のことが好きです、交際してください。って告白しとんの、わからん?」
    「そ、れは、恋愛の意味で?」
    「ウン」

     仁王の決死の告白に、柳生はいつもきりりと上げている眉をへにゃりと下げて、しばしぽわんとした表情をしていた。それから、はっとしたようにふるふる首を振って、いつもの紳士へ戻る。

    「だ、駄目です……」
    「柳生の好きって恋愛の意味じゃなかった?」
    「いえ、私だってそういう意味で仁王くんのことが好きで、恋愛してることを夢見たことはあります。けど、仁王くんと私がお付き合いするなど、駄目です。だって、だって──」
    「だって?」
     
    「解釈違いです!」
     
    「……はい?」
    「仁王くんは不思議ちゃんで孤高の一匹狼みたいなイメージじゃないですか。それなのに猫を可愛がっていたり、可愛いものが好きだったりというギャップがいいんです」
    「お、おん。そう、なの?」
    「誰か特定の方と恋仲になるというイメージがないんです。まあ、逆に女性をとっかえひっかえ何股もするといった詐欺師が先行したイメージもなくはないようですが」
    「何じゃそのクズ男は。俺ってそんなイメージ持たれてんの? 結構ショックナリ……」
    「私が調べたところ仁王くんファンの中にはそういう背徳的でオトナな雰囲気の仁王くんに遊ばれたいという方もいるようです。まったく、そういう方は仁王くんのことをわかっていない。実際の仁王くんはそんなことをするわけないですし、そもそもできないでしょう。あなたは見た目に反して意外とシャイですからね。とはいえ、仁王くんの本質を誰も彼もが知っているわけではないですから、見た目やある一面からそういう印象を持つ者がいるのも致し方ないのかもしれません」
    「じゃあ、俺のことをよく知ってる柳生は?」
    「私?」
    「俺と付き合ってる夢見てたんじゃろ? それなのに解釈違いってどういうこと?」
    「それは、その、妄想で仁王くんと恋愛しているのはいいのですが、現実に自分がお付き合いするのは違うというか、私はただ仁王くんのことを推していればそれでいいので……」
    「それって結局、柳生も他のヤツと同じように、俺のことイメージの中で自分の都合よく動かしたいだけってことにしか聞こえんぜよ」
    「違います! そんな失礼なことするわけありません」
    「じゃあなんでダメなん? 好きなのに付き合うのはダメって、俺は理解できん」
    「仁王くん……」
    「それに、柳生にフラれたら、俺は他の女のことが好きになるかもしれん。そのときは解釈違いだなんだって柳生に言われても、俺はそいつと付き合うぜよ。柳生は俺が他のヤツと付き合った方がいいんか……?」
    「他の方と、つきあう……」
     
    『つき―あ・う〔―あふ〕【付(き)合う】
     読み方:つきあう
     ・その人と親しい関係をつくる。交際する。
     ・恋人として交際する。』
     (デジタル大辞泉から引用)
     
     推しの仁王くんが
     特定の相手と(※自分以外)
     交際する。

     
    「それは私が悲しくなるからダメです~~っ!!!!!!」
    「おまん、自分が何言っとるかわかっとるぅ!?!?!?」
     
     ぶわっと今にも泣き出しそうな柳生に、仁王の方こそ泣き出したい気分だった。こんな不毛な告白あるか? これでも人生で初めての告白だったんだが!?

    「俺は一体どうすればいいんじゃ! 柳生と両片想いのまま一生恋愛禁止か!? クソッ」

     柳生の腕をひっつかんでベッドの方へ連れていく。ソファ代わりにぼよんと腰を下ろして柳生を足の間に座らせた。そのまま背中からハグすると案の定柳生はジタバタと暴れようとしたが、仁王もここで引く気はない。ぎゅうっと思いきり抱き締めた。

    「あわわわわわっ! ににに仁王くん、ちょっと、顔が近いです、目が潰れてしまいますっ!」
    「いいから少し静かにしんしゃい! 近所迷惑じゃ」
    「うっ……」

     いつもと逆の立場になったように仁王が叱ると、柳生は俯きがちになって大人しくなった。もともと声をあげて騒ぎたてるような性格ではないのだ。まあ、一連の流れはそんな紳士がここまで慌てるくらいの出来事だったのだろうけれど。

     告白なんて緊張することをしたせいで、というよりはコントのような大騒ぎをしたせいで、コートにいるわけでもないのに仁王の心臓はバクバクとおかしな鼓動を鳴らしている。戯れのようにハグしたり、肩を組んだりということはしていたが、柳生とここまでぴたりと密着したことはない。柳生を落ち着かせるためにしたことだけれど、冷静になってみれば心臓の音が聞こえやしないかとひやひやしてきた。けれど、柳生はきっとそれどころではないだろう。柳生に体に回した腕がその鼓動を伝えてくる。それは仁王のものよりもハイスピードだった。栗色の髪の毛先がさらさらかかる耳たぶが、赤く染まっている。

     ぽて、と柳生の肩にあごを乗せると、びくっと反応した柳生がおそるおそる視線を向けてくる。これ以上ない至近距離でばちっと視線が交わると、口をあわあわとさせて、耳だけでなく白皙の頬までぼんっと赤くして、サッと顔を背けてしまった。なにこれカワイイ。
     さっき「目が潰れる」なんてヘンなことを言い出したと思ったが、つまり柳生はこの顔に弱いんだな。こういうことの勘は鋭い仁王はそう判断した。

    「やーぎゅ、なあ、こっち向いてくんしゃい」
    「む、無理ですっ。推しの顔が良すぎ問題で、現在柳生の思考回路はショート寸前です」
    「どっかで聞いたフレーズ」
     やっぱり。
    「俺の顔なんておまんが一番見慣れてるはずなのに、おかしな柳生さんじゃ。今までそんな素振り見せなかったくせに」
    「何事も我慢と忍耐ですので」
    「我慢なんかしとんの?」
    「仁王くんの顔を見るたびにいちいち悲鳴を上げるわけにはいかないでしょう」
     ふはっ、と仁王は思わず失笑してしまった。

     朝の風紀チェックで仁王のだらしないネクタイを締めるときも、休み時間に忘れた教科書を貸してくれるときも、昼休みに一緒に昼食を食べているときも、自転車でこっそり二人乗りして帰宅するときも。

     仁王の顔が良いと騒ぎ立てたいのを必死に我慢していつもの紳士然としていたというのだろうか。だとしたら柳生こそ本当に詐欺師だ。

    「じゃあそっち向いてていいからおしゃべりしよ」
    「この体勢のままですか」
    「そ」

     もじもじとしている柳生を抱えたまま、さてなんと切り出そうかな、と思っていたところに、柳生がぽつりとつぶやいた。

    「あの、誤解しないで欲しいのですが」
    「ん?」
    「顔だけが好きなのではないですからね」
     仁王くんのこと。

    「仁王くんがテニスをしているところが好きなんです。試合を見ているのもいいですが、やはり一緒にコートに立つときの高揚感は何物にも代えがたいものです。すぐ側で仁王くんの動きを感じられる」
    「俺も、柳生と一緒にテニスするの好き。楽しいけえ。けど、テニスだけじゃなくて、普段の紳士的なところもかっこいいなって思うし、俺のイタズラにぷりぷりしてるところもかわいくて好き。俺の詐欺に一緒に乗ってくれるところもいいし、たまに俺のこと詐欺にかけようとするのも面白い。そんなの柳生だけじゃき、ホント好いとうよ」
    「ファ、ファンサしすぎですよ、仁王くん!」
    「ファンサじゃなくて本気で言ってるんじゃけど。つーかおまんの中で俺って一体どうなってんの。どこぞのアイドルみたいに見られてる?」
    「その辺のアイドルより仁王くんの方が断然かっこいいです」
    「お、おう、言い切ったのう……」
    「そうですね、王子様のように思ってます」
    「は? 詐欺師なのに?」
    「ええ、仁王くんは詐欺師の名を持っていますが──」

     仁王の方を微かに振り向いた柳生。今度は視線が合わさっても柳生は目を逸らさなかった。

    「でも、それだけじゃないでしょう」

     柳生はそれ以上何も言わなかったが、私は全部わかってますよという顔をしたのだ。
     馬鹿みたいに大騒ぎした柳生ももじもじと所在無さげに照れている柳生もそこにはなくて、堂々と自信に満ちたいつもの紳士がそこにいた。たぶんそれは柳生の自惚れでも何でもなくて、柳生はきっと仁王よりも仁王のことを知っている。
     そういうところ。柳生のこの自信家なところも仁王は好きだった。柳生は真実から目を逸らさない。

     ふっと口角を緩めた微笑みが端正な柳生の表情を彩って、柳生の方がよっぽどキラキラしてて王子サマに相応しいと仁王は思った。声も王子サマっぽいしな。

    「なあ、よくわからんけど、柳生が俺を独り占めできたらウレシイとかはないわけ? それとも皆の王子様だから抜け駆けしちゃダメってこと?」
    「他の方のことは私には関係ありませんが、しかし……」
    「唯一無二のダブルスパートナー、それから親友。柳生はこの先もそれだけでいいって?」
    「それだけ、とは?」
    「そこに恋人って肩書きも欲しくない?」
    「……」
    「俺は欲しいなー。柳生の秘密の恋人って肩書き」
    「秘密の、恋人──」
    「そ。俺だって柳生さんは俺のもんじゃーって言いたいけど、あんまり公にもできないじゃろ。だから俺と柳生の仲はふたりだけのヒミツ。他の誰が何を言おうが、もし他の俺のファンがあーだこーだ言おうが関係ない。だって本当の恋人は柳生だけだし」
    「私だけ……」
    「俺らそういうの好きだし、得意じゃろ」

     入れ替わりだってずっと隠して仕上げたのだ。
     ふたりだけの秘密──その魔法の言葉は図らずも柳生のこころをとろとろと溶かしていった。
     

     仁王くん推しの他の誰も持ち得ないもの。
     仁王くんの秘密の恋人の肩書き。
     他の仁王くんのファンが今までの自分のように妄想で恋人になっていようが関係ない。真実、本当の恋人は私だけ──

     
    『パートナー』も『親友』も、仁王との関係で柳生だけが持つ優位性だった。けれど、この先もし本当に仁王に別の恋人ができたら『恋人』には敵わないだろう。
     今、仁王がその『恋人』のカードを差し出している相手は柳生だった。柳生はそれを受け取ればいい。仁王が差し出したそのカードが詐欺師のジョーカーではなくて、真摯に柳生を想う仁王雅治のハートのエースであることを柳生は知っている。
    『パートナー』『親友』そして『恋人』のスリーカード。
     解釈違いがなんだ、推し活をしていてこれ以上の手札があるだろうか。

    「ほしい……です」
    「プリッ! やったぜよ、じゃあ今からやぎゅーさんは俺の秘密の恋人じゃ!」
     
     
     
     仁王はもちろん知る由もなかったし、それから柳生自身もこのときはまだ自分のことをきちんと認識していなかった。
     柳生は単に仁王推しというだけではなく、同担拒否でもあったのだということを。

     
     
     ~仁王くん最推し同担拒否ガチ恋の柳生さんが推しの秘密の恋人になる話~



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    kaoru

    DONE【D1】僕の秘密の恋人~さあ行け、あなたは私の王子様~
    仁王くん推しの柳生さんが仁王くんと自分たちの出演した映画を観に行く話。
    シリーズ4話目としていた途中まで書いてたのですが、せっかくリョ!公開1周年なので2,3話を飛ばしてこちらを先に仕上げてみました。
    キャラ崩壊、メタ注意。

    作中の二人の映画に対する感想はほぼ私のリョ!初見時のものです。

    ※Twitter2022.9.3
    僕の秘密の恋人~さあ行け、あなたは私の王子様~ 夏だ!(夏休みは終わったけど)デートだ! 映画だ!

     というわけで柳生とめでたくお付き合いを始めた仁王は、今日は近くのショッピングモールにある映画館へ、映画を見に来たのだった。


     ふたりで映画を見ることは今までも度々していたが、正式に交際をしてからは初めてだ。つまりこれはまごうことなきデートなのだ。
     デートに相応しいかどうかはさておき、内容はアニメだ。ふたりともアニメにはさほど興味はない。そんな中、何故そのタイトルをデートにチョイスしたのかというと、ふたりが出演しているからに他ならない。
     その映画がいよいよめでたく公開初日を迎えたのだった。


     収録はかなり前だった。出演のオファーはきたものの、どういうストーリーなのかよく知らないまま収録に臨み、そして今になってもわからないままだ。
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    kaoru

    DONE【D1】僕の秘密の恋人~仁王くん最推しの柳生さんの話~

    副題そのまんまの話。柳生さんのキャラ崩壊注意。
    現実と同じように🎾👑メンバーのグッズやゲームが発売されているメタを含んだギャグです。
    仁王くんは柳生さんに片想い中。そして柳生さんは……?

    ※Twitter2022.8.14
    僕の秘密の恋人 ~仁王くん最推しの柳生さんの話~ ──ラケットにかけて誓うが、仁王はクローゼットの中を見る気などなかった。はずみで開いてしまった扉を閉める、ただそれだけの行動にあれやこれやの思いが入り込む余地などない。
     だからまさかそんなものが仕舞い込まれているなんて、これっぽっちも予想していなかったのだ──
     

     休日、たまにはふたりでのんびりDVDを見ようと仁王は柳生の部屋に遊びに来ていた。

    「どうぞ寛いでいてください、私は飲み物を用意してきます」
    「サンキュー」

     部屋を出ていく柳生を見送ってから、仁王が柳生の部屋でお気に入りにしているクッションにぽふんと身をもたれかけさせると、すぐ近くでバサバサッと物音。

    「プリッ?」

     発信源はクローゼットだ。中で物が雪崩れでもしたのか、微かに扉も開いてしまっている。閉めておいてやろうと押すものの、何かがひっかかっているのか閉まりきらない。仕方なく仁王は扉をそっと開いた。
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