後にも先にも君だけだ孫堅様を、心から敬愛していた。
乱世に立ってその眼は確かに天下を見据えながらも、地に足を付け、家族を愛するその姿は、
一人の将として、当主として、人間として素晴らしい方だと思った。
父への挨拶に訪れた彼に初めて会った時、家柄の高低などに関らぬ確かな威厳に、
自分はいつか友と共にこの方の下で天下を目指すのだと子供ながらに悟り、信じて将来を思い描いた。
そしてそれに必要なあらゆる能力を得るための努力を惜しまなかった。
勇猛かつ思慮深い江東の虎に、「策を頼むぞ」と言われることが誇らしかった。
孫権様を、心から尊敬している。
混迷した世にあってその目は慧眼の輝きを持ち、広く意見を聞きながらも自らの意思で決断するその姿は、
孫呉の君主として、主君として、人として頼もしい方だと思う。
治国の才、守ることに長けた彼は、決して彼自身が思うような平凡ではなく、
若くして国を継ぎよく己を律して成長していく彼を支えることが私の使命だと悟り、全力で己の能を揮った。
そしてその自信と秘めたるしたたかさを呼び覚まし伸ばすための助言を惜しまなかった。
誠実かつ賢明な次代の光に、「兄と思っている」と言われるのは得がたきことだ。
ああ、だが、それでも。我が心の主はただ一人。
遥か夢を語るのも、きらめく情熱を燃え立たせるのも。
領地で隣を歩くのも、戦場で背中を預けるのも、義兄弟の契を交わしたのも、
裸の本心でぶつかり合ったのも、みっともない激情までさらけ出したのも。
同じ未来を見たのは、魂を重ねたのは、互いを半身と繋がり合ったのは、叶わぬ永遠を願ったのは、
恋に落ちたのは、愛を知ったのは、その全てを求め求められたのは、
私が、親友と呼ぶのは、
後にも先にも君だけなのだ、孫策。