お題のやつ1(むの視点)雨が降っている……

こんな夜は決まってあの時の夢を見る。
記憶を取り戻してからは、彩華ちゃんが殺されるところではなく、僕の代わりに機密警察に自身の身を捧げる姿が声が目に耳に焼き付いて離れない。

クーラーをつけて眠ったはずなのに酷く暑い。
まるでSPXに切りつけられた時の傷のようだ、
重い筋肉痛のように痛む傷痕を朦朧とした意識の中思わずシャツを掴む。

苦痛にしばらく耐えていると、
いつも誰かにやさしく頭を、傷を、撫でてくれる感覚がして痛みが引いていくそんな夢を見るのだ。

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今日も雨が降っている。
雨の多い時期だし仕方がないとはいえ少しだけ寝る時のことを考えると気が滅入る。

眠る準備をしていた被虐君が心配そうな目を僕に向けていた。
被虐君本人は否定するけど凄く優しい性格だ、
きっと僕の体調の事を知ってしまえば、自分のせいだと思い詰めてしまうに違いない。

僕はそんな彼に気取られないように適当に話を誤魔化し、おやすみの挨拶を交わして
それぞれの寝室へと足を運ぶのであった。

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また、あの夢だ……

いつもの様に僕は切りつけられて血溜まりに沈んでいる。

近くで悲鳴のような彩華ちゃんの声がする。
でも今日は酷く視界が暗くて顔までは見えない。
？？？「…くん…くん、ごめんなさい……ごめんなさい……」

高い少女めいた声が僕に向けて謝罪を続けている。

「大丈夫だよ。彩華ちゃんのせいじゃないよ、
君は君の人生を生きていいんだよ」

そう言ってあげたいけど、血溜まりの中に倒れている僕は声も身体も動かすことができない。
それはまるで彼女の自由と引換に何もかも忘れて今まで生きてきた自分自身を表しているようだった。

どうして、動かないんだ…せめて夢の中だけでも、彩華ちゃんを救うことが出来れば……
そういくら願ってもいつも結果は同じで

せめて目覚めを願って動かない身体を必死に動かす、握られた拳に力だけが込もっている事が分かった。

何処か遠くで扉が開く音がして
優しく頭を撫でられる。
冷たい手が頬を掠めるのが気持ちいい。
やっと、酷い悪夢から目が覚める、縋るような気持ちで動かない身体は救いの手にすがろうとする。

？？？「……ごめんなさい」

けれど、救いの手はいつもと違って謝罪の言葉を口にする。
まるで彩華ちゃんのように…僕のように
そこで気がついた。

あぁ、そうか。
この部屋に入ってこれる人間は1人しか居ない。

僕の名を呼んで謝っている目の前のこの子は
彩華ちゃんじゃ無い…。

被「無能君…ごめんなさい……」

無「被虐君……」

そこまで気がつくとようやく顔の見えない人物の輪郭がハッキリと見える。
いつの間にか声が身体が動かす事が出来る事に気がついた。

泣きそうな声で謝っている被虐君に手を伸ばした。

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うっすらと目を開ける。
いつの間にか雨は止んだようで、
窓から入り込む朝日は雨粒を反射してキラキラ光っていた。

目線を落とすと、ベットサイドでうっすらと目元に涙を浮かべながら眠る被虐君の姿が目に入る。

無「僕を助けてくれたのは君だったんだね…」

僕が被虐君の罪を許す事が出来なくても、
それでも、彼の幸せを、救いを、願わずにはいられないのだ。
けれどその幸せは、きっと、それは被虐君の望む形では無いのだろうけど……。

そっと、僕の服を少しだけ掴む白く細い手に自らの手を重ねた。