かつての話、出会いと この世は理不尽に満ちている。
少数を排斥し、多数のものはそれを無視して笑い、そうして世界が回っていく。
──私は、それを許すことができない。
いつか世界を変えると決めたのは、一体いつだっただろう。産まれた時には母親が死んでいて、父親は母体を"殺した"私を憎んだ。そんな環境だったから、私はきっと、人より世界の認識が遅かっただろうに。
息が詰まる家から逃げ出して、路地裏に潜み続けた。弱者を食らう者を殺すための業だけを磨いて、明日すら怪しい生活をして……。
そんな折、私に手を差し伸べたものがいた。当時のヴィクトリア家政の人間。
私は一度、断ろうと思っていた。詳しく聞けば、「上流階級の方々にサービスを提供する」というものだったから。上流階級なんて、弱者を食い物にする筆頭だろう。
けれど、それを見透かしたように私を勧誘した人は言った。「誰かを守ることもできる仕事です」と。それがいやに引っかかって、私の足を止めた。
「本当に?」
「はい。貴方の技術は、人を殺すためだけに使われるには惜しい。人を守り、人の命を救うことだってできるはずです」
などと言われると、きっぱりと断ってしまうのも惜しい。「……嘘だったらすぐに辞める」と言い訳をして、彼の手を取ったのだった。
その後。立派に『執事』としての実績を重ね、ヴィクトリア家政にも慣れてきた頃。私は、本当の意味で"人生が狂う"ということを知るのだ。
──あの、フォン・ライカンのせいで!