兄弟の告解 スカイワープはメガトロンとのキスを忘れられずにいた。400万年の眠りから醒めて、スカイワープが先ず視界に入ったのは倒れ伏すメガトロンだった。助けなければという一心で駆け寄って、抱き起こしたメガトロンの顔を覗き込む。普段こんなに近くで見ることはない、それ程距離が近い。オフラインのオプティック、苦も楽も表さないフェイスパーツは、スカイワープに神聖さすら感じさせた。しかし彼は、彼自身それと気づかぬままメガトロンの唇に吸い寄せられるようにキスをしていた。とても自然でスムーズな動作だった。
世界にただひとり、彼だけがいてて、そして意識のないメガトロンがいる。彼にとって現実味のない一時だった。まるで世界がスカイワープとメガトロンだけの空間であるかのようなリアリティを欠いた感覚に、スカイワープはブレインが痺れるようだった。
唇と唇が少し触れて、そっと離れる。あるかないかの束の間の接触だった。
「え、あっ!? え、うそってか、ちがっ」
我に返ってスカイワープはとてつもない焦燥にかられた。そうしようと思っての行動ではなかったからだ。自分自身の行動に驚いていた。
「ちがう……くはねぇけど」
フェイスパーツに熱が集まり始め、ブレインサーキットは状況整理にヒートアップする。兎にも角にも彼にはメガトロンをこのままにしておく選択肢はなかった。彼は体格差のあるメガトロンの両腕を掴むと、ほとんど引きずるようにして移動させた。自身の飛行に特化した軽やかな機体について、少しでも歯がゆい思いをしたのは彼にとってこれが初めてだった。
さて、地球において目覚めたデストロン、サイバトロン両陣営はやはり争いを続けていた。母星との交信が繋がり、スペースブリッジが建設されたのがつい先日のこと。今日も今日とて、サンダークラッカーとスカイワープはスペースブリッジの見張りに駆り出されていた。
所謂いい天気である。乾燥した大地と空気。見渡す限りの赤っぽい岩と砂の中、動くものといえばほとんど彼らだけだった。
スカイワープはメモリーにしっかりと刻み込まれたあの永い一瞬をことあるごとに反芻していた。そして思い返すたび、彼はジリジリと回路が焼けるような気がした。彼もまたデストロンだ。奪うことに抵抗はない。ただ、自身のブレインの中に、胸の内に、秘めておく焦れったさを彼は持て余していたのだった。
「なぁ、サンダークラッカー……俺、俺さぁ……メガトロン様に……はぁ……」
「なんだよ、遂に愛の告白でもしたのか」
スカイワープの心境など知りはしないサンダークラッカーはデタラメな軽口を叩く。どうせイタズラがバレたとかそういったことだろうと彼は思っていた。
「キスした……」
「は?」
サンダークラッカーは思ってもみない言葉が飛び出してきてオプティックをチカチカさせた。完全に想定外だった。サンダークラッカーはまず、有り得ない、とそう思った。
「……いつ」
サンダークラッカーは訝しげにスカイワープを見遣る。いつどんなタイミングでそんなことをし得たのか、サンダークラッカーは首を傾げた。
「地球に墜ちた後に……ってぇか……なんてぇか……メガトロン様ステイシスロック状態だったから……」
サンダークラッカーはスカイワープに、見直したぜとでも言いたげな視線を向けた。
「誰かに言ったか?」
「言ってねぇよ」
「じゃあ、これ、俺たちの間での秘密にしとけよ」
サンダークラッカーは空を見上げた。カラッと晴れた空はやたらと澄んでいて青かった。