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    野暮用で過去作の手直し。

    ##小説
    #小説
    novel

    仇であるKへの恨みを思い出すも忘れる猫人 ──はぅっ……! Kさんを殺さないとっ……!
     
     ここ最近の楽しい珍道中ですっかり忘れていたが、そういえば同行者であるKという男はLの故郷の仇であった。
     10数年前に、猫人がひっそりと暮らしていた島に突如ふらりとやってきて島の大半の猫人を殺害した黒髪赤瞳。
     そいつに報復せし、と単身、島を旅立ち帰ってこなくなった彼氏……。彼氏が行方不明になり、そして、自分がこうやって島を出て彼を探す旅に出るはめになったのは、全てその殺人鬼のせい……。
     
     朝、宿での一泊から目覚めてすぐにそんな恨みを久しぶりに、唐突に思い出したLはベッドの中で「うにゅ!」と気合いを入れた。
     気合いを入れてベッドから出て、顔を洗い、着替えてから階下の食堂に向かう。
     ──食堂でKさんに出会ったら、すぐにでもこの爪で引き裂いてやるです……! と、そんなどす黒い恨みを心中、抱えながら。

    ******

    「あっ。おはようございます、Lさん~!」
     Lのどす黒い決意は、何の淀みもない“Kの爽やかな笑顔”によって圧倒され、しおれた。
     
     ──ホラ、これだ。
     Lは苦虫を噛み潰したかのような歪な笑顔で「おはようございます」と村の仇であるKに返した。
    「……どうしましたか? Lさん。顔がこわばってメチャクチャ不細工ですけど……?」
    「ん、にゃあ……」
     この柔らかな物腰の”上の下じょう げ”のイケメン青年が、あの“眼光鋭い、瞳孔が開いた殺人鬼”だったとは到底思えない。今だに思えない。
     
     むしろ、一緒に旅をする日々が積み重なっていけばいくほど、頭の中で相違して、乖離してくる。
     昨日、街中で“1番高額なクレープ”をおごってもらった事を思い出して、更に殺る気が失せる。余談だが、中に入っていた桃のバニラアイスが絶品であった。
     
     Kとは腐れ縁の仲であるRとの会話中に割とあの“凶悪顔”がちらほらと見受けられる事があるが、自分やBが近くに寄るとKはすぐさま態度を変える。Kは、ほんわか穏やかヘタレのお兄さんになる。
     Lはまどろっこしい事が嫌いなので、また正直に「Kさんに報復したいのですが」と言いそうになったが、その言葉をぐっと飲み込む。
     
     以前、そうハッキリとバカ正直にKに伝えたら「フム。では、どうやって殺しますか? また刺しますか?」と、親身になって一緒に考えようとしてくれて一気に殺る気が失せたことがある。
    “裏事情を知ってしまって、同情から仲良くなったR”を悲しませる or 怒らせる事はもうしたくないので、こっそりと秘密裏に殺害の再チャレンジをしたいのだが、なんか、もう。
     
    ******
     
     Bに「Kさんのこと、もういいんですか?」と訊いてみたことがある。
     彼は、故郷の村で姉をKに惨殺されている。その仇をとるために1人旅をしてきたはず、なのだが。
     彼は「イメージと違かったから、いい」と苦笑した。
     
    「『ぎゃはははは! 俺に報復ゥ? 上等じゃねぇか、かかってこいよぉ!』……みたいなキ●ガイとのシリアスな対決希望だったのに、アレはねぇよ」
     Kに言ってもらいたかった『理想の悪人台詞』をわざとらしく演技しながらBが呟く。
    「…………アレはねぇよ」再度、呟く。
     
     Bの顔は切ない表情を浮かべているのだが、手元を見ると卑猥な本を堂々と大っぴらに広げており、それがここまでのマジメな空気を台無しにしていた(話しかけるタイミングを誤ったLが悪い)。
     
     同様、Lも「思っていたのと違う」ので調子が狂ってしまっている。
     何故、憎みがいのあるキャラのままでいてくれなかったのか。
     と、いう事も該当者であるKにがっつり面と向かって訴えたLだったが「はぁ、どうもすみません」と申し訳なさそうに謝られて終わった。
    「LさんもBさんも面と向かってそうハッキリ仰って下さるから、いいですねぇ」
     逆に、にこやかにそう褒められた。
    「僕に何かイラッとする事がありましたら、別にいつでも何しても大丈夫ですからね」
     そう言われて、一体何をしろというのか。

    ******

     なんだかもう、自分も報復なんて別にどうでもよくなっている気がする。
     黒髪赤瞳に報復を誓った過去の自分には申し訳ないが、気兼ねなく「ムカつく、殺したい、許さない」と直接本人に言ったらスッキリしてしまった感があった。
     
     そうモヤモヤと思案を巡らせていたLだったが
    「あ。Bさん、おはようございます……寝癖がすごいですよ?」
     食堂に来たBの頭を、そう言いながら撫で始めたK、不快感を隠そうともせず「やめろやめろ」と連呼するB……。
     
     長身優男のイケメンが、やんちゃな青年の頭を無邪気に撫でる……野郎共のその姿を見て、Lはとても幸せな気分になったので「まぁ……いっかぁ」と喜色満面になった。
     先程まで考えていたことは、完全に忘却の彼方へと捨て去った。
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