甘いあまいsweets「ゲンイチローくんはパンケーキって食べたことある?」
「?」
パンケーキ。
パンなら、ケーキなら食べたことはあった。
だが、パンケーキ?
どのようなものかいまひとつイメージできない真田弦一郎6歳は、よく分からない、とばかりにコックリと真横に首を傾げた。
「食べたことない?なら食べにおいでよ!」
きゅるるんと大きな瞳で見つめられ、光り輝く笑顔で言われたら、
「うん」
なぜ突然そんなことを言い出したかという理由も聞かず、反射的に頷いてしまっていた。
幸村精市、まだ5歳。
彼の笑顔に、弦一郎はとても弱かった。
幸村に誘われるまま、お家にお呼ばれした弦一郎の前に鎮座するパンケーキ。
想像したものと全然違っていた。
ホットケーキみたいなものかと思っていたが、それ以上にふわふわしている。黄金色の雲みたいだと思った。キュルキュルとツノが立つホイップクリームの塔がお皿の四方に飾られ、2枚に重ねられた1番上では弦一郎少年も大好きな苺が飾られている。
真田家ではあまりお馴染みではない、苺より濃い赤色のつぶつぶしたもの、紫色の丸いものも周りに飾られている。
可愛いな。何でこんなに可愛いんだろう、この食べ物は。そして
美味しそう。
じゅるりと唾を飲み込んだその時。
「ゲンイチローくん、ほら、食べて!はい、アーン!」
「?」
突如左横にいた幸村少年が、満面の笑顔で真田少年に黄金色の雲の一部をすくって差し出してきた。
どうしたものだろう??
食べてと言われたから食べれば良いのだろうか?
でも、これは。
食べさせてもらうべきものなのだろうか?
口を開けるべきか戸惑っていると
「ほら!アーンしてよ!」
どうして口を開けないの??と己の行動に何ひとつ矛盾を感じていない幸村は、キョトンと首を傾げ、さらに雲をすくったスプーンを真田の口にクイクイッと差し出してくる。
その、対象を遊びに誘うねこじゃらしのような巧みな仕草に
「あ、あーん」
なぜかゆきむらくんに頼まれると断れないゲンイチロー君はついに口を開けてしまった。
「!」
口いっぱいに広がる雲。
しかも、ちょっと舌で押しただけでふわっと溶けてしまった。食べたことのない感触だった。しかも甘い。
舌も目もとろんと溶けそうになるくらいには。
「おいしい」
しみじみ味わうように口から感想が出ていった。
「良かったー!」
あーんが成功し、しかも好感触な感想に、仕掛け人は飛び上がって喜んだ。
「この間、ゲンイチローくんお誕生日だったでしょ?だけどボク、その日にお祝いできなかったから、ゲンイチロー君にもこの美味しいものどうしても食べてもらいたかったんだ!」
このパンケーキはね!
といかにこれを食べた時に感動して、美味しくてたまらないものかを切々と語り始める幸村少年
なるほど。それで突然のお呼ばれ。
目の前の天使がコロコロと鈴が鳴るように、どこで食べたとか、そこでのフルーツの配置が可愛いとか、それで母さんにおねだりして作ってもらったらそのお店よりも美味しくて、と話し続けるのを聞きながら、はむっと自分のスプーンで二口目を放り込む。
美味しい。ふわっと溶けてしまうなんてすごい。
歯を鍛えるような固い煎餅をよく食べるけれど、こんなのも悪くない。
「最初は自分で作ろうとしたんだけど、まだせいいちには早いからって言われて」
幸村母が作ってくれたらしい。
「遅くなったけど、お誕生日おめでとう!ゲンイチローくん!」
「ありがとう、幸村くん」
花のように笑う幸村くんにつられて、ゲンイチローもおもいっきり顔が緩んだのを感じた。
2025.5.31
おさなゆき5月のお題「パンケーキ」
お借りしました。
パンケーキを食べる2人を描きたかったけど描けなかったので、勢いだけで書いてみました。