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    診断メーカーのフェルオベです。閣下生存IF

    休日結婚「今世紀最大の一大事だ!」
    グスマン少将が新聞紙を片手に仮眠室へ怒鳴り込んできた。
    叩き起こされたフェルナーは瞼を手で押さえつけながら「皇帝がまた崩御されたのか?」と呻いた。
    「卿が何某かの不敬罪に問われないのは軍務省最大の謎だ」
    「確かに転向時に罪に問われなかったのだから帝国は小官を尊重して下さっているな。で、何が一大事なのだ?」
    フェルナーのペースに乗せられていたグスマン少将ははっとした様子で、新聞を大きく開き、この写真を見ろとフェルナーに迫る。
    そこには見慣れた半白の頭髪の人物が人込みに紛れて歩いている様子が写されている。視線を少し上にすれば『オーベルシュタイン元軍務尚書、生存か!?』の大見出しである。

    「その後は大変でしたよ。慌てて新聞紙を奪い取って記事を舐めるように読む私の演技、閣下にご覧頂きたかったです」
    フェザーン周辺にある別荘地として需要が高い植民星の、フェルナーの別邸である。休日はいつもここで過ごす。実は密命を帯びているためフェルナーにはもはや休日などというものは人生に存在しなくなったのだが、その密命の内容が休養としか言えないので実質的には休日なのである。
    密命、生存していたオーベルシュタインの定期的な連絡役。苦虫を嚙み潰したような表情のミッターマイヤーより命じられた。
    「閣下におかれましてはこのような軽率な行動を取られるとは思いもよりませんでしたが、何かお考えがあっての事だったのですか?」
    「異分子の炙り出しに生存説を流す必要があったのだ。お陰で地球教シンパの地下組織を特定できた。今頃ケスラーの手柄になっているだろう」
    バケットにバターを塗るオーベルシュタインの髪は白い。黒く染めた方が手が掛からないのでは?とも思うのだがフェルナーはその白い髪はオーベルシュタインによく似合っているので何も言わない。
    死に掛けたオーベルシュタインを病院へ搬送するよう指示を出し、結果救ってしまったミッターマイヤーと、医療関係者だけがオーベルシュタインの生存の事実を知っている。オーベルシュタインは一命を取り留めたが、激務に耐えられる肉体ではなくなり、ミッターマイヤーとの密談で軍務尚書の座を退き、退役し、私的なシンクタンク…というよりは諜報機関を組織する許可を取り付けた。あくまで帝国の利益となる組織ではあるが、オーベルシュタインを警戒するミッターマイヤーには諸手を上げて賛同できる事案ではなかったため、監視役としてフェルナーが抜擢されたのだった。なおミッターマイヤーは二人の深い仲を承知しているが、それを加味しても最適と言える人材はフェルナーしか居なかったのである。
    朝食の席である。これから尋問という名の結婚生活が始まる。
    オーベルシュタインの生活はさほど変化に富んでいるわけではなく、地道な政策立案と帝国に仇なす地下組織の調査報告と、そして医師とのやりとりの話が大部分を占める。フェルナーはそれを聞く。オーベルシュタインの話は簡潔ながらフェルナーの好奇心を大いに満たし、それは軍務省時代と何ら変わりはなかった。
    二人の睦言は小難しいのである。
    フェルナーにとって一つ、大きな不満があるとすれば、それは現在の軍務省の機密の一切をオーベルシュタインに話せない事だった。意見が欲しい案件はいくらでも出てきた。しかしオーベルシュタインはすでに軍人ではない。それは時代が変わったとはっきり言える事だった。フェルナーたちが帝国の軍部を支えて行かなければならない。オーベルシュタインもそれを承知で何も聞かない。フェルナーはそれは吾々に対する信頼であると解釈していた。閣下が磨き上げた軍官僚たちへの評価がこうして見えてくる。
    こうして、フェルナーは休日に大きな肯定感を得て軍務省へ戻るのである。
    休日は一日しかない。あっという間に終わってしまう。昼が巡り夜を過ごしまた朝になればオーベルシュタインはまたここから旅立ってしまう。
    しかしそれは己にも言える事なのだ。この休日結婚のような生活をフェルナーは気に入っていた。そしておそらくオーベルシュタインも悪く思ってはいないはずなのだ。
    時代は変わり、立場も環境も変わったがフェルナーとオーベルシュタインの核は変化しない。また必ず会えると知っているから。具体的には、来週の休日に。
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