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    reika_julius

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    reika_julius

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    海ハミの序章
    これからめっちゃ続く

    海ハミルツ序章燦々と輝く太陽の光を吸い込む大海原。それを横切る帆船の上でその会話は行われた。

    「これまで何度も奴隷船を沈めてきたけれど……君のような子は初めて見たねぇ。」

    甲板に横たわる肢体は轡をされながら肩で息をしてこちらを睨みつけていた。毛先にかけて濃くなる金の髪に美しいトパーズのような瞳は見る者の目を惹き付けるような麗しさであったが何よりもその背中に生えた翼に視線は集まる。あいにく今はその翼に鎖が巻き付けられているので全貌は拝めないのだが。

    「絶滅寸前のハミングバード。売り飛ばせばこの先働かずとも一生暮らせる大金が手に入るとも言われている代物を手に入れたのは幸か不幸か……」

    そして肢体を見下ろす長身の男、彼は海賊─それもこの船の長という立場にあった。『海上のペテン師』と呼ばれる彼はこの近海では負けなしの海賊として商船からは特に恐れられていた。本日もとある大国の奴隷船を襲い金目のものを奪っては沈めたばかりだ。その船の中多くの奴隷がひとつの区画に隙間なく詰め込まれているのに対して1人だけ船長室で鎖に繋がれていた青年が目の前の翼を生やしたそれだった。
    ハミングバードと呼ばれた横たわる青年は目を逸らすことなくこんな状況にも関わらず毅然としたままだった。その姿に『海上のペテン師』、ルイはぞくりと背筋を震わせる。

    「今この子を大陸の方で売ったとしても仲介料が惜しいなぁ。どうしようか?」
    「………………」

    ルイは考える。
    ハミングバード─それは絶滅寸前の滅多に見ることの無い幻の種族だ。見た目こそ人間そっくりであるが背中には大きな翼が生えており足が少々小さいので区別は容易である。その外見の美しさに遠い昔から人間に狙われ続け隠れて生きてきたという。ルイ自身たまに噂で貴族が丁重に飼っているらしいとは聞いていたが実際に目にしたのは初めてであった。市場に出回っているのを見たことすらない。もしかするとオークションには出ずにそのまま秘密裏に出品されているのかもしれない。
    初めて故にルイにはハミングバードの相場というのが分からなかった。まず彼は男だ。売買目的から推測するにどちらかと言うと女の方が高く取引されるイメージがある。しかも歳は既に15歳を超えていそうだ。これが値段にどう影響するのかが予想出来ない。

    「船長、どうするんですか?」
    「ハミングバードなんて本当に居たんですね……!!」

    部下の声が背後から聞こえる。ルイだって考えあぐねているのだ。ただの一海賊が持つにはそれは高価過ぎる宝だった。売り飛ばすとしてもなかなか上手くいくとは思えない。商人にパイプがないのはルイの弱味といえた。正直こんなものを奴隷船から持ち去れたのは完璧に誤算だった。
    しかも、ルイにとっては誤算がさらにひとつ。

    ─どうしよう、手元に置いておきたいな……

    ハミングバードに対してどうしても手放したくないという気持ちが芽生えていた。人を惑わせる魔の種族とかつては呼ばれていたハミングバード。そしてその魔力は確かにルイにも波及した。胸に湧き出る庇護欲は果たして青年のその鎖に巻かれた哀れな姿に呼応しているのか。
    口々に話す部下を控えたままルイは青年の轡を外した。背後から凍りつくような緊張感。
    ハミングバード。唄う鳥。彼らがそう呼称されたのはその特性にある。ハミングバードは歌に不思議な力がある。命令を歌に乗せれば人はそれに従う。よって通常ハミングバードと会話をする際は耳栓をして筆談が求められるのだ。
    だと言うのに─ルイは躊躇うことなくその力を解放した。青年が歌えばこの船を沈めることだって出来るかもしれない。ルイ以外の船員は戦々恐々だった。

    「やぁ、僕はルイ。この海賊船の船長をしているんだ。酷い目にあったようだね、大丈夫かい?」
    「…………」

    なるべく人の良い笑顔でルイは膝をついて青年と対峙する。青年は厳しい視線を崩すことも口を開くこともなくこちらを見つめたままだった。唄うことも無い。

    「君は元々どこに居たの?」
    「…………」

    やはり返事はない。ルイは彼の声を待ちながら慎重に鎖を解く。翼は柔らかく滑らかな触り心地だった。思わず顔を埋めたくなるのを堪えて最後の一巻を解く。歪な形を取っていた翼は自由な空気にはためいた。

    「はい、取れたよ。」

    敵意はない。その意志を込めて彼の前で両手を上げてみせる。彼はそんなルイをチラリと横目で確認するとやはり一言も発さず起き上がると甲板をよろよろと歩き翼を動かす。ハミングバードは飛ぶのが得意な種族故に足は未発達で歩くことは困難らしい。しかし翼は空を切るが全く飛び上がる様子がなかった。それどころかそのまま人間より遥かに弱い足が甲板に崩れ翼を地に寝かせながら肩で息をしている。
    ルイは手出ししても良いのか分からず黙ってそれをただ眺めていたがやがて力尽きたように動かなくなってしまった彼を放置する訳にもいかず急いで駆け寄った。

    「──っ、大丈夫かい?!」
    「ゔ、ぐ……は、はぁ……っ……」
    「!!き、み、酷い熱じゃないか……!!」

    あまり考えられないが奴隷船に乗せられる前に大きな傷を付けられたのかもしれないとルイは彼を抱き起こそうと身体に触れる。するとその身体は太陽に日中晒された岩肌のような熱を持っていた。荒い呼吸を繰り返し無抵抗の彼を背中に乗せてルイは船員に向けて声を張り上げる。

    「とりあえずこのハミングバードは一旦この船で保護をする、熱を出しているようだから水と食料を用意してくれたまえ!」

    船長であるルイの一言に甲板に集まっていた50人程度の船員が一斉に動く。
    かくしてこの周辺の海域最大─一度出会えば海軍ですら逃げ出すと恐れられる海賊船にて一人のハミングバードは舞い降りる。海軍提督だってこの男なら難なく率いてみせるだろうと謳われたルイと、見る者を惑わせる絶滅寸前の種族の生き残りの青年はこの出会いを経て互いの人生の歯車を狂わせるのだった。
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