2日間の休暇 1日目ー1日目 8:00 オーブ首長国連邦 港ー
「貴方達には今から2日間休暇を取ってもらいます。ミレニアムには帰ってこない事。これは上官命令ですからね」
そう言われて俺とノイマンはミレニアムから追い出された。
この命令を下したラミアス艦長曰く俺たちは働きすぎらしい。2人ともそんな事はないと思った。
だって、ちゃんと6時間ぐらい寝て3食健康的な食事を摂っているから。
しかし、勤務外の時間にブリッジに居たりシミュレーターに居たり、細々とした艦の仕事を手伝ってたのがダメだったらしい。
「それだと休息になっていないのよ」とラミアス艦長に叱られてしまった。ミレニアムのクルーからもあの2人なんかいつも働いてるなんて言われたりしてたらしく、コノエ艦長とも相談した結果、艦内にいるから仕事をしてしまうのだ、だったらとりあえず艦から下そうとなったとの事。
そうして俺たちはオーブに寄港するタイミングで2日間の休暇を言い渡されのだ。
「これからどうするよ、ノイマン」
「…とりあえず官舎に寄って着替えるか?」
丸2日、フリーである。
俺とノイマンは完全に行き場を失っていた。
ー1日目 9:00 官舎
港からほど近い官舎に向かう。
チャンドラとノイマンの部屋は入居時期が同じなので隣同士だ。パルとトノムラに部屋も近いのでコンパスで長期任務に出る時は偶に部屋の風通しと掃除をしといてくれと頼んである。
部屋の前に着きノイマンと別れ部屋に入る。今回もちゃんとやってくれていた様で部屋に入っても埃っぽさは感じなかった。
(とりあえず服…)
探して出て来たのはグレーのデニムカーゴパンツと黒のプルパーカー。とりあえずこれで良いかと着替え、下駄箱からスニーカーを取り出しノイマンの部屋へと向かった。隣なのですぐだ。
ノックをしながら声を掛けた。
「ノイマンー、入っていいかー?」
いいぞ、と聞こえたので部屋に入ればノイマンも着替え終わっていた、が、
「…何でスーツ?」
「…これしか無かったんだ」
ノイマンの格好はワイシャツにライトネイビーのスーツであった。
「どうする、服買いに行くかぁ?」
「そうだな、流石にこれで2日過ごすのは疲れるだろうし…」
とりあえず、予定が一件出来た。
ー1日目 10:00 国民的衣料品店ー
そうと決まれば早い方がいい。2人はオーブで有名な衣料品の店にやって来た。手頃な値段で品質も良い服を売っている人気のチェーン店である。
ミレニアムから追い出された時ラミアス艦長から渡されたクレジットカードがあるので(一般用の携帯端末も渡された)お金の心配はいらない。まぁ、引き落とし先は俺たちの口座なのだが。せっかく店に来たのだからと色々と見て回り、部屋着や下着やらも買い揃える。
ボディバッグは気に入った物が同じだったので、結局色違いで、と言う事になった。
ノイマンはスキニーパンツにシャツ、カーディガンを2、3着ずつ、それにスニーカーを購入し、チャンドラも今着ている服と同じ様な服を何着か購入した。
2人ともおしゃれなんて分からないのでこれで良いかとなれば同じ様なデザインの服ばかり買ってしまう。会計まで済ませれば結構な時間が経っていた。
「昼時だし何か食べ行くか」
「そうしますかね」
そう言いながら衣料品店を出た。
ー1日目 正午 街中のカフェー
「これからどうするよ?」
昼食に頼んだサンドイッチをかじりながらノイマンに問う。うーんと言いながらノイマンはハンバーガーにかじりついていた。
咀嚼をし終えたのかノイマンが話し出した。
「キリシマが教えてくれたんだが、オーブは魚が美味いらしい」
「魚」
「生で食べるととても美味しいらしいんだ」
「生の魚って食べれるのかぁ?」
「鮮度が良ければ食べられるらしいぞ」
そう言うと携帯端末で画像をみせてきた。“お造り”と呼ばれているらしいそれは色鮮やかで確かに美味しそうである。しかし“お造り”が今でも食べられているのはオーブ国内でも一部の地方だけらしい。確かに約2年オーブに滞在していた事もあったが首都近郊ではこの料理は見た事がない。
「確かに美味しそうだけどさ、これ遠くないか?」
その地方への移動手段は船の定期便と言ったところか。発着時間もあるだろう、休暇の残り時間で行って帰って来るのは厳しそうである。
「移動は心配するな、チャンドラ。俺に新兵器あり、だ」
ノイマンはとても良い笑顔で、自信あり気に何かよく分からない言葉を口にしながら一枚のカードを俺に見せてきた。
「…小型船舶免許?」
「部屋で見つけて思い出したんだが、2年ぐらい前に取得したんだ。俺が船を運転して向かえば、行って帰って間に合うだろ?」
そう言いながらノイマンは携帯端末で地図まで出し航路を説明し出した。
(こいつ、昔から変なところで行動力があるんだよなぁ)
自分より立場が上の者も、後輩もいない時のノイマンは結構な自由人だ。
「まぁ行けそうではあるけど、船はどうするんだ?」
「一つあてがある。それがダメだったら諦める」
「あて?」
「船舶免許を取った時の教官に何故か気に入られて、いつでも船貸すからなって言われたんだ。俺のこと覚えていれば貸してくれるかもしれない」
「なにそれ」
そう答えながらも、きっとその教官もノイマンの操舵に脳を焼かれてしまったんだろうと思った。うちのキリシマとかミレニアムのマグダネル中尉みたいに。
船舶免許の教習場まではこの辺りからバスが出ているので、昼食を終えたら一度荷物を置きに官舎に戻り向かう事になった。
ついでにノイマンはスーツからスキニーパンツにシャツ、カーディガンという服装に着替えた。
ー1日目 14:00 バスの車内ー
「…大型免許も取ろうかな」
ぼそっとノイマンが呟いた。
ー1日目 15:00 船舶免許の教習所ー
教習所に着くと目的のノイマンの操舵に脳を焼かれた教官はすぐに見つかった。当然の如くノイマンの事は覚えていたので小型の船はサクッと借りる事が出来た。しかも緊急時の物資なども積んでおいてくれるらしい。高待遇である。
その後、ノイマンは小型の船の操縦は久しぶりになるからと軽く船の運転までさせてもらい(教官は一緒に乗っていて楽しそうにしていた)明日の約束をし帰路に着いた。
ー1日目 18:00
官舎近くのスーパーマーケットー
明日も早いので適当に夕食と明日の朝食を買い官舎に帰る事にした。
料理は2人ともあまり出来ないので弁当やらパンやらを買う。
「チャンドラは酒飲むか?」
「飲みたいけど、お前は飲まないんだろ?」
「明日、運転があるからな」
「うーん、だったら俺も辞めようかなぁ」
1人だけ酔っ払って楽しくなっても相手は素面であるし、明日のちょっとした旅の事を考えたら体調は万全にしたい所である。
「それだったら明日、帰って来てから2人で飲もう。その方が楽しいだろうし」
「それが良いな」
ノイマンの提案を了承し、酒の缶を何本かカゴに放り込んだ。
ー1日目 19:00 官舎・ノイマンの部屋ー
2人でノイマンの部屋に戻る。とりあえず酒を備え付けの冷蔵庫に入れた。
なんとなくテレビを付けて、主にニュースを取り扱っている番組にチャンネルを合わせ、弁当をテーブルの上に出し食事を始めた。
明日の話をしながら、時折テレビで流れているニュースの話題に触れたりしてダラダラと弁当を食べ始める。
「明日は何時に出発するんだ?」
「8時には行くって教官に言ってあるから、7時のバスに乗るぞ」
「そしたら6時には起きなきゃじゃん」
「せっかく遠出するんだからちょっと観光もしたくないか?」
「確かに」
思ったより早いが、でも確かにせっかく遠出をするのだ着いた先ではゆっくりしたい。
ノイマンは最初の目的であった“お造り”の他に何か有名な物があるかも調べ始めて「名物の甘味とかもあるらしい」とか「景色が良くて有名な海岸がある」とか楽しそうに話している。
「ノイマン、めっちゃ楽しみにしてるじゃん」
「最初はどうしようかと思ったけど、休暇も案外悪くないな。チャンドラも楽みだろう?」
「結構楽しみ」
弁当も食べ終わり、大体の予定が立てば今日はもう解散である。
「じゃあ、また明日」
「おう、おやすみ」
ー1日目 21:30 官舎・チャンドラの部屋
ノイマンの部屋を後にし自分の部屋に戻る。
シャワーを浴び、明日の準備を軽く済ませればあとは寝るだけだ。
(早く寝よ)
明日寝坊する様なことがあればノイマンにドヤされてしまう。きっちり目覚ましをかけベッドに入り、目を閉じると年甲斐もなくワクワクしている自分に気がついた。旅なんて本当にいつ振りだろうか。
(休暇もたまには悪くないなぁ)
そうしてチャンドラは眠りについた。