たまの長期休暇を2人で合わせて、チャンドラの居住地であるオーブで落ち合った。
ちょうど昼食の時間帯であったので近くにあったカフェで済ませ、その足で買い物をし、チャンドラが借りているアパートメントに向かう。
アパートメントに入り、買ってきたものを片付ければもう午後3時過ぎであった。
ひと段落ついたので2人でソファーに座る。当然の様にコノエはチャンドラの腰に手を回し体を密着させた。恋人になった当初はそれだけでも体を硬くさせ恥ずかしがっていたが今ではコノエに体を預けてくれる様になった。
他愛無い話をしながらTVを見ていれば、チャンドラはコノエの腕の中でうとうとと今にも眠りそうなっていた。
長期休暇の数日前に起きたテロの後処理にチャンドラ含めAAのクルー達が駆り出されていたので疲れているのだろう。予定通り休暇に入れただけで僥倖であるので、彼の頭を撫でながら眠っても良いよ、と声をかける。
「…せっかく貴方に会えたのに、すみません」
チャンドラは申し訳なさそうにしたが、眠気には抗えなかったのだろう、そのまますぐに瞼を落としてしまった。そっと彼のサングラスを外し、サイドテーブルへ置く。目の下にはうっすら隈が出来ていてそれを見コノエは今日の夜は添い寝だけにしておこうと思った。本当は体を重ねたいが、休みはまだ1週間程あるのだ、疲れている恋人に無体を働くのも気が引ける。
そんな事を思いながら、コノエはチャンドラの頬をそっと撫で、髪を手で梳く。満足すると手元にあった端末で気になっていた論文を読みながらゆっくりとした時間を過ごした。
※※※
「休んでても良いんだよ?」
「大丈夫です、すっかり元気になりましたよ!」
1時間ほどうたた寝をした事で少し元気になったのだろうチャンドラはそう言ってコノエと一緒にキッチンに立った。
一緒に作業をしていると知らないチャンドラの一面が見られて面白い。
彼は調味料の類は計量スプーンできっちり計るたちであったり、レシピに強火と書かれていても慎重になるのか中火ぐらいになっている事が多かったりした。新造艦ができる前、ミレニアムのブリッジで一緒に勤務していた時は場を和ませる為もあるのだろうが少し適当な事を言ったりもしていたが、根は真面目で慎重なのだろうと思う。
無事に出来上がった夕食を2人で食べる。2人とも料理をそれほどしないので味はほどほどであったが、チャンドラと一緒と言うだけで満足度はいつもの食事と比べて数倍にも跳ね上がる。今日の料理の出来栄えだとか、明日は何を作るかを相談しながら食事を進めればあっという間に食べ終わってしまった。
夕食の片付けを終えれば後はシャワーを浴び寝るだけである。先にシャワーを終えたコノエはソファーで寛ぎながらチャンドラを待っていた。
シャワーを終えてリビングに戻って来たチャンドラはキッチンで冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲む。そして、ソファーに座っているコノエの隣に座って頭を肩に預けてきた。
これは珍しいな、とコノエは驚きながらも喜んだ。コノエからのスキンシップをチャンドラが拒否する事はないがチャンドラからコノエにくっついてきてくれる事は自分からというのが恥ずかしいのかあまり無いからだ。
ドライヤーで乾かして来たのだろうふわふわの髪を撫でる。何時もなら安心したように体を預けてくれるのだが、しかしチャンドラは少し落ち着かなそうにしていた。
「どうしたんだい?」
声を掛けるとチャンドラはコノエをじっと見つめ、一旦視線を逸らしたがまたコノエを見つめた。そして目を少し伏せ小さな声で言った。
「ア、レクセイさん。あの俺、今、据え膳なんですけど。…どうです?」
あまりの発言に言葉を失ってしまった。
チャンドラはしばらくこちらの様子を伺っていたが、コノエがあまりに反応しなかったからだろう、コノエの肩口に顔を埋めてしまった。
「何か反応してもらえないと、居た堪れないのですが…」
肩口に頭をぐりぐりと押し付けながら先程よりも小さな声でチャンドラは言った。
その仕草にすぐにでも押し倒したくなる衝動に駆られるが、今日のチャンドラは疲れている。その衝動をグッと堪え、意識して穏やかにチャンドラに話しかけた。
「ダリダ、顔をあげて?」
あげられた顔は真っ赤で瞳は潤んでいる。
「…でも今日は疲れているだろう?」
「…確かに疲れてはいますけど。でも、それでもアレクセイさんさえ良ければ、その、……したいです」
最後の方は本当に消え入りそうな声だった。
コノエは今度こそ堪えきれずにチャンドラをソファーへ押し倒した。
「僕は我慢していただけだからね、食べて良いのなら美味しく頂かせてもらうよ。良いんだね?」
チャンドラの耳元に顔をよせ囁く。
そうすればチャンドラは恥ずかしさが増したのか呻き声を上げながら両手で顔を覆ってしまった。
最後に確認はしているがコノエとしてはもう、一つ残さず食べるつもりである。
その準備として部屋の照明をオレンジ色の間接照明残して落とし、顔を覆ったことで額の方へずり上がったチャンドラのサングラスをそっと外しサイドテーブルへ置いた。
コノエのその行動で覚悟を決めたのか、チャンドラは顔を手で覆うのをやめ、コノエを見つめる。
「最初に据え膳って言いましたよ。…最後まで残さず食べてください」
チャンドラからの返事を聞いたコノエは彼の空色の瞳を少しの間堪能したあと、唇に噛み付いた。