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    nanndemo_monyo

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    ディミアネ(NL)/五年後大樹の節、グロンダーズ直前くらい。/結構人の心がある殿下。ディミアネ未満と言う感じ/タイトルは作業中聴いていた曲

    自虐家のアリー 夜もすっかり更けると、ようやっと、いくらか活気のあった大聖堂に静けさが訪れていた。夜が一番、何者にも遮られることなく、己の為すべきことに思い耽ることができた。本来ならばそうして憎しみを、遂げるべきことに常、意を向けていなければいけないのに。このところは、死者の声よりも生者の声の方が時たま大きく、煩わしいほどだった。それでも、どうしようもなかった。自らの力で動けるとはいえ、生者がまるで無価値だと思っているわけでも無い。そうでなければ、とっくに自分なんぞに着いてくる彼らなど殺してしまえただろう。等しく命は有価値で、その中でもとりわけ、生暖かい記憶の中にいる彼らを、意図して害することは難しかった。手折るならほんの一瞬で、きっと抵抗することはない連中ばかりだとわかっていたので、尚更。
     取り止めのない思考の合間、ふと人の気配がした。もう随分夜も更けて、星の明かりさえ遠い頃合いだ。振り返るつもりはなくとも、静かな足音で女性だろう、とわかった。今こんなことに気を取られている場合ではなかった。グロンダーズにはきっと、エーデルガルトが来る。あの唾棄すべき、何千人の命を奪った悪辣な女が。次こそは絶対に取り逃がしたりなどしない。どう戦場で奴の元へ辿り着き如何様に苦しめて奪い殺してやるかを、
     不意にぱた、と音がした。人体が意図せず倒れた時の重さに近い感触があった。ぱっと振り向いてしまうと、聖堂の長椅子の上に横たわる人影があった。昔より狭まったの視界の中でも目立つ夕焼け色の髪、小柄な体格には見覚えがありすぎた。上半身を長椅子に横たえ、手のひらから滑り落ちたらしい紙があたりに散らばっている。学生時代ならメルセデスが、聖堂で祈りにきたついでに、腰掛けて寝入ってしまうことがあったのは知っている。しかしアネットはそうではない。常に何かしらで動き、学び続け、誰かのためにと走り回る人だ。その姿がかつてはどこか好ましかったが、当然、五年が経った今どうなのかは知らない。崩れた女神の像と死者の声以外に意識を向けていなかったこともあるが、聖堂で見たことは一度もなかった。だからだろうか、五年前に先生に言われたことが頭を過った。
    『アネットは、頑張りすぎるのをなかなか辞められないらしい』
     茶会の最中に交わす言葉は、静かに木陰の合間に落ちていた。味のしない茶菓子を摘みながら、せめてもと祈るように耳を傾けたことを覚えている。
    『君もそうだけど、少し気をつけて見てあげてくれ。無理しすぎていないかを』
     音を立てずに近づいた。ふらふらとした頼りない足取りは、それでも紙を踏みつけることなく彼女の目の前にたどり着いた。夜間に帝国兵に囲まれ、草葉の影に隠れた時よりずっと、妙な緊迫感があった。ちょうど数日前に、ふと近づいてきた子どもにせがまれ、言われるがまま頭を撫でた時と似た心持ちだった。簡単に潰してしまえるだろう柔らかい子どもの頭部を、あれほどまでに恐れたことはなかった。かがみもせず目を細めて覗き込んだ姿に、取り立てて外傷があるようには見えなかった。瞼を閉じ、衣服越しに胸部が上下する様に、ようやっと寝ているだけだと確信する。しかし月明かりの下、薄い隈と、やややつれた頬を見とめて、どうするでもなく立ちすくんでいた。ここにいる誰もが痛みを抱えている。今も耳元で自分を駆り立てる亡者たちと同じように、彼女も、他の皆もきっと、戦火を乗り越えて安寧を得ること、本懐を遂げることに必死なのだった。止むことなく考え続けていても、アネットが目を覚ます様子はない。このまま朝まで眠りこけてしまうのかもしれないとさえ思った。深く、息を吐いた。それから、散らばった紙を拾い集めて小脇に抱える。震えそうになる手を叱咤して、小柄な身体を両腕で抱える。足音を立てないように、静かに歩く。生きた人間を運んだのなんて、何年ぶりだろうと思った。聖堂を出ると。夜風がぶわ、と伸びさらし髪を混ぜっ返した。久方ぶりに、月を見た。夜間の戦場のどこかで、漂っていたはずの雲間にあったそれではない、煌々とした光だった。あたりは奇妙なほど静かで、誰もここにはいないのではないかと思わせる。部屋割りなど知らないので、手近な空き部屋の寝台に体を横たえた。相変わらず穏やかな寝息だけが乾いた空間に響いていた。
    『お兄ちゃん、みたいな……』
     いつか、彼女がそう言った日があったことを思い出した。
     獣が兄の、人の情の真似事など。
     どこかで誰かがそう嗤った。その通りだった。自分は一つも笑えもせずに、ただ静かに、部屋を後にした。それでも、戸を締めるその時まで、彼女が起きだしてしまわなかったことに、不思議なほど安堵している自分がいた。
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