忘れた頃に温室をふらりと訪れたベレトは赤いくす玉状の花の前で佇むリンハルトと行きあった。
屋台で売られている棒付きの飴のようにぴょこぴょこと地面から突き出ている可憐な花々をベレトも横から見つめながら聞く。
「この花が好きなのか?」
幾つもの小さな紅い花が一塊に集結して玉房(たまぶさ)を成している。うろ覚えだが品種名はアルメリアと言ったか。視線を花からベレトへ移してリンハルトは言う。
「いえ特別好きってほどでもないんですけどね。旅に出る前にカスパルが置いていった種が育って今頃開花したんですよ。それでちょっとその時のことを思い出して」
時期はずれに咲いた花がリンハルトの中に眠っていた記憶を刺激した。
あれは確かカスパルが旅に出る直前の事だった。道ばたで露天を開いていた老婆がごろつきに難癖をつけられて商品を奪い取られそうになっていたところを偶然通りがかったカスパルがぶちのめして助けたらしい。その時に礼としてもらったのがこの種だと言っていた。だが当のカスパルにとってはありがた迷惑だったようで……。
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