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    さまなし

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    「愛し方なら知っている」って台詞を思いついた結果。

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】書記官様は人の愛し方を知らない アルハイゼンがいつもと変わらず読書に勤しんでいると、突然目の前にコーヒーカップが差し出された。豆を挽く音と香りがしていたのには気付いていたが、淹れて欲しいと頼んだ覚えのないアルハイゼンが顔を上げて側に立つ男にこれは何だと視線だけで問えば、アルハイゼンに凭れ掛かり眠る少女にチラリと視線を向けて男――カーヴェは答えた。
    「君の為じゃない。彼女を起こさない為だ」
     もう長い時間アルハイゼンがそうしていることをカーヴェは知っていた。だから少女の眠りを妨げないようにその場から動かないアルハイゼンの献身に、自分のついでではあるが差し入れることにしたのだ。
     必要ないと一蹴されることも想像していたが、アルハイゼンはそれを黙って受け取り、それを見届けたカーヴェは向かいに座って自身のコーヒーを一度口に含んだ。

    「知っているかい? 学生の間じゃ、書記官様は人の愛し方を知らない、なんて噂まであるんだ」
     何の脈絡もない切り出しにアルハイゼンは少しだけ眉を顰める。
    「今の学生は随分と暇なようだ」
    「忙しくてもそういった噂に興味がある者は一定数いるさ。それで? 書記官様のご意見は?」
     カーヴェからすればアルハイゼンがいかにこの少女を大切にしているかを既に知っている。だから噂自体を信じているわけでは無かったが、そういった噂が立つこと自体が珍しいためアルハイゼン自身がそれを聞いてどんな反応をするのか少しばかり興味を持ったのだ。ただ大方、くだらないと一蹴されるのが落ちだろうと返答に期待はしていなかった。
    「愛し方なら知っている」
     それなのに思いも寄らない返答に、思わず吹き出しかけてカーヴェは慌ててカップを机の上に置いた。ダンッと大きな音が響き、アルハイゼンはカーヴェをねめつける。
    「カーヴェ」
    「今のは君が悪い……!!」
     咎めるように名を呼ばれるがそれどころではない。大きな咳が出てしまわないようと口を押さえるが流石に何度か咳き込み、はぁ、と呼吸が落ち着いたところで少女が起きてしまっていないか視線を寄越すが、幸い変わらず眠っているようだった。
    「まさか君からそんな言葉を聞くとは思わなかった」
    「事実を言っているだけだが」
    「それはまぁ、よく知っている」
     この男が少女に向けるそれを、愛と言わないなら何と言う。
     そんな風に言いたくなるくらいには、アルハイゼンが愛情をもって少女に接していることは近くに居て知っていた。その上で。
    「愛し方を知っているなら、もう少し他人に優しく出来ないのか」
    「愛し方を知っているからと言って優しくすることは違う。それに俺は君と違って博愛主義者じゃない」
     これに関してはどれだけ話し合っても平行線だろう。今は討論する気にならず、また一口コーヒーを流し込んで一息置く。
    「……君が誰かを愛するとは思わなかった」
     愛せるのは、先の通り分かっている。それでも愛するとは思わなかった。ずっと一人でいるのだろうと、どこか頭の片隅では思っていたのだ。それほどまでにこの男の隣に立つ女性の姿を思い浮かべることが出来なかったから。学生たちも同じように感じているが故に噂をしていたのだろうと、カーヴェは思っている。
    「今まで愛したいと思う者がいなかった。それだけだ」
    (恋をすると人は変わると言うが)
     今まで恋をしたアルハイゼンを知らない為、元からこうなのかは判断しかねた。それでも普段の彼を知る者なら熱でもあるのではと疑う者が居てもおかしくないくらいには思いもしなかった発言をしている。少女がいなければ見ることなどなかったであろう、アルハイゼンの一面。
     少女が小さく身じろいだ。アルハイゼンが凭れ掛かる少女を片腕で抱き込む形にすればすぐに寝息が聞こえてくる。そのまま小さな頭に唇を寄せるアルハイゼンに、カーヴェは少しだけ視線を逸らした。気まずいというよりは、視線ですら邪魔をしてはいけないような気がして。
     先に飲み終えたアルハイゼンが再び本を開く。空いた手はしっかり少女に回されたまま、大きな手が少女の手をすっかり隠した。

     書記官様は人の愛し方を知らない。
     一体誰が言い出したのか、あくまで噂は噂と言う言葉がここまで当てはまるものも他にはないだろう。例えそれがこの少女の為だけの愛だとしても。確かに愛し方を知っているのだ。
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