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    さまなし

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    【ゼン蛍】答えは最初からそこにいた

    付き合っていないけれどキスをしているので一応注意。大丈夫です。この後ちゃんと付き合います。

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】答えは最初からそこにいた ふっと、視界を影が覆った。
     視線が交わった時にはもう、私の唇は塞がれていて。
     そして瞬きの間に解放される。
    「……どうしてキスしたの?」
    「したいと思ったからだな」
    「そっか」
     何の前触れもない、突然のキス。けど心中は思っている以上に静かだった。
     でも私たちはそういう関係ではない。個人的にはそういう空気になったこともないと思う。けれど彼の顔が近づいてきたとき、避けるという選択肢はなく、私は当たり前のようにそれを受け入れた。
    「もう少し動じるかと思ったが」
    「それをあなたが言うんだ?」
     動じて欲しかったの? 問えばあっさり否定される。
    「それで、してみた感想は?」
    「想像通りというべきか。君の反応の方が意外だった」
    「ふーん……」
     酷い人だ。こちらは初めてのキスだったのに。
     人の唇を勝手に奪っておいて、想像通りなんて呆気ない感想。三十人団に突き出されてもおかしくないことをした自覚があるんだろうか。
     そんなことを考えていたら少しずつ苛立ちを覚えて、自分でもバカなことをしたと後になって思う。ここで終わっていれば、何も始まることなんてなかったはずなのに。
     彼の頬に両手を添えて、彼の唇を塞ぎ返す。今度は視線が交わらなかった。だって私が目を閉じていたから。流石に自分からするのにじっと見たままは恥ずかしかった。離れると同時に目を開けると、こちらをじっと見ていたと思われる彼と目が合った。
     あ、と思った時にはもう遅く。あっという間に私は彼に抱き寄せられ、先ほどとは比べ物にならないキスで唇が奪われる。
     苦しかった。けれど嫌悪感は少しも無かった。
     漸く解放されたときには息も絶え絶えで、彼に抱きしめられていなければその場に倒れ込んでいたかもしれない。
    「なんで……」
    「君が仕掛けたんだろう?」
    「それは、ッ」
     違うという言葉はまた唇ごと奪われた。なんで、と頭の中は疑問だらけだ。先にキスしてきたのは彼の方で、ちょっとした仕返しのつもりだったのに。何故私のせいになっているんだろう。
     再び解放されたときには、もう言葉を発するのも億劫だった。
     彼の指が私の唇を拭う。
    「……満足した?」
    「あぁ、とても」
     彼の表情が豊かだったなら、きっと今は満面の笑みだ。そんな風に思えるくらい声が上機嫌そうだったのは勘違いじゃないと思う。
     そしてもう一度言っておくが、私たちはそういう関係ではない。それなのに最後まで拒まなかった。抵抗らしい抵抗もしなかった。
     じわり、と一度も考えたことのなかったことが思考を埋める。
    「――好きなの?」
     私の問いは一体誰に何を投げかけたのだろう。
     彼は答えなかった。その代わりじっと私から視線を外さない。
     だからこれだけは分かった。私が答えてしまったが最後、私たちは、いや少なくとも私は、もう逃げられないことを彼は分かって黙っている。
     そのうえで待っているのだ。
     ……彼がキスをしてこなければ、気付くこともなかったのに。
     ――違う。彼の言う通り、私が仕掛けてしまったのだ。例えるなら彼は鍵の閉まった扉に鍵を挿しただけ。そのままなら扉が開くことはなかったのに、私は自分で鍵を開けてあろうことか今その扉を全開にして立っている。
     最初からそこにいた。ただ、見ないようにしていた。私でさえ自覚していないそれを、彼は知っていた。
     でも。
    「……いきなりキスは無いと思う」
    「君にはこれくらいしないと効果がないだろう」
    「したいと思ったからしたんじゃないの?」
    「それらは両立すると思うが」
     つまり。したいと思ったからしたし、ついでに自覚すればいいと。この人は本当に。
    「それよりも言うべきことがあるだろう」
     言葉を失った私に続きを促す。どうしても私に言わせたいらしい。素直に答えることも出来たけど、全部彼の思い通りになるのが悔しくて。彼が私にしたように、彼の唇に指を添えて形をなぞる。
    「まだ、教えてあげない」
     それはもう、答えているようなものだとは思う。それでも気付いたばかりのこの気持ちを胸に、一歩踏み出すのは本当は少し怖くて。
     まだ逃げ道を残しておきたかった。だからこれは精一杯の強がりだ。
     彼の瞳が少しだけ細められた。行き場を失っていた手を取られ、手の平に口付けられる。
    「いいだろう。待つことには慣れている」
     そう言ってフッと口元を緩めた彼を見て、悟る。例え逃げたところで、逃がす気なんてさらさらないことに。逃げ道だと思っているそれは、全て彼に通じているのだ。
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