付き合ってるはなし忍足は向日との想い出を、どんな細かいことだって、上質なワインレッドの革の手帳に濃紺の万年筆で、一文字、一文字、大切に書き込んで記録していた。これは現実に存在するものではなく、あくまで忍足の心の中に存在するモノであり、誰かに見せたりとかはできないけれど、忍足がちょっと元気がない時とか、うれしいことがあった時とか、そういう時にこっそり読み返してはそっと閉じて、表紙をやさしくなでたりしていた。向日のまんまるの頭をなでる時くらい、とびきりやさしく。もとより、誰にも見せてやるつもりもないのだが。ちなみに、結構ゴツめの鍵付きです。
この手帳、びらびらと結構な数の付箋が貼ってある。すべて向日に言われて特にうれしかったことが書いてあるページ。はじめの頃は向日がくれたきれいな羽根やお気に入りの栞、向日葵と蒼い鳥が書いてあるやつ………とかを挟んでいたのだが、あまりにもぶ厚くなってしまうので途中から諦めて付箋に移行していた。想像上のモノなので、別に気にしなきゃいいじゃんなんて、向日に言われそうだったが、その辺り、忍足はこだわるタイプだったのである。