あつくて、あつい窓を見ると、嫌になる。9月だって言うのに、蝉は元気に騒いでる。9月だって言うのに、太陽も元気すぎる。秋を感じるのは、一瞬の風だけだな。いつもとは違う窓からの景色に、彼はそんなことを考えていた。ここは小学校だし、彼は児童だ。そう、児童…にしては、大人びていて、今だって保健室のベッドに腰掛け、足を組んで、頬杖をついている。
ふと彼が廊下に続くドアに目をやる。遠くから走ってくる足音がする。段々と音は大きくなり、こちらに向かっている。彼はニヤリと口許をゆがませた。
「ガラガラガラ!」
「いた!はあはあ やっぱり!はあはあ
ここにいた!はあはあ」
言葉の合間に息をしてるのか、息の合間に話しているのか、とにかくドアに立っている彼は、いわゆる先生というやつだ。ベッドの上の児童は、そっと口許を直した。
「何?」
「何じゃないだろ!急にいなくなって!探し回ったんだぞ!」
児童は返事をせず、肩で息をする先生を見ていた。まるで小鳥を見るかのように、優しく、目許を歪ませ、見つめていた。
「さぁ、戻ろう。皆待ってる。」
手を差し伸べたそのとき、腹部を両手で抱え込み、ベッドの上で疼くまる子どもを見た。瞬間彼は走り、子どもと同じ目線になるようベッドの隣に跪いた。
「お…おい!大丈夫か?どこが痛いんだ?…あぁ!くそ!養護の先生がいないな!」
頭の後ろを少しかきながら、部屋を見回すも、大人は自分しかいない。と、誰かが彼の腕を掴んでひっぱった。
「っと!」
バランスを崩し、ベッドの方に向き直る。目の前には彼の受け持つクラスの子どもが、いた。ただ、いただけではない。子どもが先生の頭を持って、顔を見合わせていた。あと数センチどちらかが動いたら、唇がぶつかってしまう。それくらいの距離だった。一瞬わけがわからない先生だったが、ハッと我に返った。
「放しなさい!」
手を掴んで離れようとするが、まっすぐこちらを向いている、小さな手を解けないでいた。大人でもない、どちらかと言うと背も低い、小さな子ども。だが、その眼差しは大人のそれと変わらない。なんと、魅力溢れる、美しい瞳なのだろう。
どのくらいだろう。体感時間はかなりあったが、実際には1分とかかってはいない。見つめ合うその行為は、それくらいの長さに感じた。
児童は吹き出し、先生を放した。クスクス笑いながら、ドアに向かって歩く。あっけにとられた先生はポカァンと口を開いて、まだベッドの横に座っていた。ドアから廊下に出た彼は、
「先生?何してんの?僕もう戻るよ?じゃあね?」
ひらひら手の平をバイバイと言うようにしながら、彼は姿を消した。最後に、あの瞳をこちらに向けながら。
ベッドの横の彼、廊下を歩く彼、それぞれが自分の顔の熱さに気付くまで。あと10秒。
——-終わり——-