初夏 梅雨の晴れ間というやつか、とてつもなく暑い日。今日はいつもよりサンドイッチがよく出る。サンドイッチ用の食パンが無いから、小さなロールパンにハムや、トマト、レタスを入れたミニサンドが定番になりつつある。妹達からのアイディアもあって、最近では自家製レモンチーズクリームを入れて冷やしたものも出している。クリームの上に小さなカットレモンを置く。見た目も涼やかで食べても美味しい。最高だな、と頷く。店の外に出ると日傘の女性とぶつかりそうになった。もう夏が来たのか。かまどパン、臨時店長はそう思った。
パン屋はズバリ熱い。涼しいのはレジがある商品棚の周りだけ。厨房はなかなか熱い。うちは具材も手作りだから、ずっとずっと火がついてるようなもんだ。涼しく感じるのは商品を出しに行くときと、冷やすパンを冷蔵庫に入れるときだけ。熱中症も怖いから、時折水分を摂るために外に出るけど、まぁ外も暑い。だけど、実家のパン屋に戻ってきてから俺の楽しみは、この外に一瞬出ることなんだ。たまたまだけど、店の厨房出入り口とキメツ学園の職員室用出入り口が道を挟んで向かい合ってるんだ。車が1台通れるかな?くらいの狭い道。つまりまあまあ学校に近い。学生の頃は遅刻しなくて良かったけど、やたら親が見てくる学生生活は微妙なものだった。と、今日も自分の水筒を持って俺はドアを開けた。
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本当に暑い。生徒は夏服に替わったが、それでも暑い暑い、と小さい扇風機を首や顔に当てている。ひと昔前は下敷きをパタパタしていたのに、今はそこら中からブーンという機械音がする。高3の授業が終わり、次の授業まで少しの時間がある。…少しお茶でも飲むか。敷地内にある自販機でお茶を買い、職員室に戻…お、今日もいるな。体の向きを直し、手を大きく振る。建物に背中を預け座っている白衣の若者に手を振った。相手もこちらに気付き、スクッと立ち上がり、手を振りかえす。彼によく似合う、満面の笑顔が俺に元気をくれる。
(続く)