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    Enki_Aquarius

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    「Scent Command」+寄り道作品です。

    ##ScentCommand

    Scent CommandーDetour 入学式翌日の朝。
     住処として与えられている軍施設内にある自室にて目を覚ました達也は、いつも通りのトレーニング用の衣服に着替えた後、必要最低限の貴重品だけを身に着け、軍施設を出た。
    「精が出るね」
    「習慣ですので」
     門番との変わらない会話を繰り返し、達也は走り始める。
     とはいっても、普通に走っているわけではない。加速術式を用いた、訓練である。ただの体力トレーニングならば不要なものではあるが、これは達也にとっては体力ではなく魔法の使用を鍛える訓練であった。
     一歩一歩のスライドが十メートルを超えているジョギングとは、なんとも想像できない光景である。しかし、時速六十キロにも届くスピードで走っているとも考えれば、何となくわかるだろう。
     達也はこれを、路面を蹴ることで生じる加速力と減速力を増幅する魔法と、路面から大きく飛び上がらないように抑える魔法で実現している。
     朝早く、まだ日も登っていない時間だからこそできる訓練ではあるが、魔法力のない達也には重要な訓練であった。
     向かう先でも訓練を行うのだから、生き帰りくらいは楽にすればいいのに、とはどこぞの技術士官からのお言葉だが、達也がそれに従うようなことはなかった。

     なにせ、己の未熟さを一番呪っているのは、己の恐ろしさを一番知っているのは達也だからである。

     向かった先は、達也が許されている数少ない移動先の一つ、旧東京と府中の小高い丘の上にある寺院‐九重寺。天台宗総本山である比叡山の末寺を標榜としている寺で、九重八雲を住職としている。
     この九重八雲という住職。天台宗の僧侶であり、八雲和尚で知られているのだが、対人戦等を長じた者には高名な、忍術使いの一人である。
     由緒正しい忍びであり、忍術を昔ながらのノウハウで現代に伝える古式魔法の伝承者。出家した世捨て人で、俗世には関わらないことを戒めとしているの。
     が、綺麗に髪をそり上げた細身の体。見た目は三十代だが、実年齢は五十五歳という何とも釣り合わない見た目。それから法衣を纏っても胡散臭さが残るそれは、
    「似非坊主」
    「君、実は僕のこと嫌いでしょう?」
     多くの弟子を倒し、師匠である八雲へとたどり着いた達也は、長い格闘の末に地へと伏せられた。受け身を取り損ねたために背中を強く打ったのは己の未熟ではあるが、
    「いやぁ、もう体術だけなら達也君には敵わないかもしれないね」
     の一言が気に食わない。
     達也は深いため息を吐き出し、起き上がった。
    「それじゃあ、朝食にしようか」
     八雲はそう言って、起き上がった達也に縁側を示した。恒例行事と化してきているこの朝食だが、達也はその小さな気遣いに随分と助けられている。仕方がない、とばかりの笑みを浮かべているが、それは一種の照れ隠しでもあった。
     縁側に座り、弟子の入れた茶と朝食を受け取り、達也は一息つく。
    「初めて(・・・)の学校はどうだい?」
     八雲はそう言って茶を啜った。達也はその意外な質問に目を丸くしたが、特別抵抗をする訳でもなく、答えた。
    「面白いですよ。友人、という奴もおそらくできました」
     達也はそう言ってクスリと笑った。
     達也が思いだしたのは、昨日行われた入学式にて知り合った二人の生徒である。
     一人は西城レオンハルト。レオと呼んでくれ、と自己紹介をしてきたクォーターの青年。彼いわく、硬化魔法を得意としており、大柄で骨太な体格をしている。客観的にはゲルマン的な彫りの深い顔立ちをしており、ドイツ系の血筋なのだろう。
     もう一人は吉田幹比古。レオと同じように、幹比古と呼んでくれ、と自己紹介をした青年。レオとは正反対に、神経質そうな外見をしている生徒で、おそらく精霊魔法の名門‐吉田家の生まれだろうと達也は推測している。
    「随分と、面白い縁に好かれたね」
    「えぇ。俺も驚きでいっぱいですよ」
     全くそんな素振りなど見せていないが、これは達也の本心であった。
     生まれ、育ち、十二で初陣してから、平和な時というものをあまり感じることのなかった人生であったが、此処に来て随分と腑抜けた時間である。
     これから多くの縁を結んでいくことになるだろう。
    「けれど、君がそう動乱から離れられることはできない・・・君は、そういう人間だからね」
     悲しきかな。そういう人生が予め仕組まれてしまっているのだろう。彼はおそらくトラブルを愛さない人間だが、トラブルは彼を愛してしまっている。それも盲目的に。
    「どうか、ひと時でも君の道が安らかであることを」
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