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    eve_nya0

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    eve_nya0

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    ワンライで元々書こうと思っていたネタ。
    オッドアイ日向さんと、ジュンコちゃんの左腕を外さない狛木支さんの話。

    嫉妬 右手だけで生活をするというのは存外不便らしい。
     新世界プログラムで平穏な日々を過ごしたアバターを上書きされた結果、絶望の残党であった時の記憶はすっかり失われてしまったものだから、この忌々しい左腕をつけた時の自分がどのように生活をしていたのかはわからない。けれど、毎日不思議に思う。その時の自分はどうやって着替えや食事、入浴を済ませていたのだろうと。徹底的に破壊されてしまった世界ではそれらの健康的な生活を送ることはできなかったかもしれないが、目覚めて向き合った自分の肉体は特段痩せ細っていたわけでも不潔なわけでもなかった。そこから推察するにある程度の水準の生活は取っていたはずなのだ。シャワーを上から被るだけならまだしも、食事ということになれば、犬死にするわけにはいかないからと、地に這いつくばって犬食いでもしていたのだろうか。そんな無様な自分の姿を想像すれば、思わず微かな笑い声が漏れた。
     目覚めてすぐ、真っ先に感じた違和感。反応を感じられない部分。動かないのにだらりとした重みを感じた左側の先端。そこには、自分よりも少し健康的な明るさで、赤い付け爪の主張するほっそりとした明らかに女性のものとわかる腕が佇んでいた。話によると、この腕は超高校級の絶望と呼ばれ、世界を混沌に陥らせた江ノ島盾子という女子高生──ひと学年下の後輩の死体の腕らしい。もちろん、神経を繋げるような処置を施したわけでもない、ただくっついているだけの他人のものだ。それでいて、何かを掴むような形のままかちこちに死後硬直をしている。要するに、自分の意思で動かすことなど到底できやしない正真正銘のお飾りの腕だった。普通であれば腐乱するはずのそれは、硬直こそしていれど、まるで今も生き続けているかのような血色の良さを残していて。生物の理に反して、今も美しいままこの世にあることで、超高校級の絶望と呼ばれた女の異常性を知らしめているようだった。
     自らの左腕を切り落とし、この女の腕をつけた時、はたして自分は何を考えていたのであろうか。絶望の象徴である女の一部を体内に取り込むことで、希望に淘汰されてしかるべき絶望になれると思ったのだろうか。そうして、自分は絶対的な希望の礎になれると考えたのだろうか。
     ある程度の憶測こそできれど、自分がそんなことを考え、実行していたなど、想像するだけで身の毛がよだつ。なにより、絶望の残党と呼ばれていたときの自分など、そんなものを自分だとは到底思えない。
     なんて言ったって、自分は絶望を憎み、希望を愛しているのだから。あの修学旅行で過ごした平穏で退屈な日々をきっかけに、ずっと外側に探し求めていた朧げな希望が、自分の中にはじめから存在した不確かなものだと気付かされても、その気持ちは変わらない。少し、自分の中での優先順位が入れ替わったりはしたけれど。今、自分が最も関心を寄せているのは在処を見つけられた希望ではなくて──

    「……狛枝。朝飯持ってきたぞ」
    「やぁ、日向クン。おはよう、希望の朝だね! 今日の朝ごはんは、パンにしてくれたんだね!」
     新世界プログラムにそれなりの日数かけられていたこともあり、現実のジャバウォック島内に打ち捨てられていた病院施設のベッドの上、横たわっているだけの日々は退屈なことこの上ないのだけれど。定期的に彼が見舞いに来てくれるのは悪くない。
     病室のスライド式のドアが自重でしまっていくのを背後に、近づいてくるボクの友達──日向クン。目覚めて、現実で出会えた彼は、左右の瞳を色違いにしていて、共に修学旅行を過ごした相手とはその内に秘めるものも変化させていたのだけれど。ボクにとっては、はじめてなりたいと願えた友達に他ならなかった。
     そんな彼が、両手で持っている鈍く光る銀のトレーの上には、二つのお皿とマグカップがのせられている。まだあまり言うことの聞かない身体をどうにか起こして、すんと鼻を鳴らせば、日向クンが近づくまでもなく、ふんわりと香る焼けた食パンのいい匂い。そこに混じり合うようにコーヒーの独特な芳しさが感じられて、思わず顔が綻んだ。
    「お前がパンが食べたいって言うから焼いたんだよ。ジャムとか苦手だろ。だから今日はコーンスープも用意したんだ。せめて、これにつけて食べろよ」
    「わぁ、嬉しいなぁ。ボクのために作ってくれたの? キミに気を遣わせてばかりで、なんだか悪い気がしちゃうな」
    「……友達なんだから、それくらい当然だろ」
    「……それなら、友達ってすごくあたたかいんだね」
     どうやら、匂いではわからなかったもう一つのお皿の中身はコーンスープだったらしい。ボクのことを考えて作ってくれたらしい朝ごはんに、なんだか胸の奥がじんわりと温かくなる。この気持ちはどこからくるものなのだろう。日向クンに優しくしてもらえた嬉しさ?友達という関係性への尊さ?
     日向クンと向き合うたび、話すたび、込み上げてくる感情にボクは、いつも名前がつけられなくて。在処を見つけられた希望より、ボクの関心を惹くはじめての友達をついつい、じぃっと見つめてしまうのだった。
    「……先にコーヒー飲むか? それともスープからにするか?」
     ボクの視線にお構いもなく、日向クンは運んでいたトレーを病室の端のベッドテーブルの上にことりと置いて、尋ねた。ガラガラと引きずられて、こちらへ向かってくるそれをぼんやりと眺めながら口にする。
    「うーん、一口めはスープがいいかな。日向クンがせっかくボクのために作ってくれたんだから」
     目覚めの一杯にブラックコーヒーというのもありきたりでいいものだけれども、大切な友達がボクのことを考えて作ってくれたのなら、今日はじめて口に含むのはそれがいい。
     そんな気持ちで問いかけに答えれば、日向クンがボクの背中をゆっくりとさすった。
    「今日はもう一人で起きていられそうなのか? 辛かったら言えよ」
    「大丈夫だよ、この間みたいに食事中に起きていられなくなるほどじゃないから」
     数日前、起き上がり続ける体力もなく、日向クンの目の前でベッドテーブルへ崩れ落ちて蹲ってしまった失態を恥じながらひらひらと右腕を振れば、日向クンは少し安心したようだった。
    「それならいいけど。……今日も自分でスプーン持てなさそうか?」
     おずおずとした様子でボクによこされるお馴染みの質問。それに対して、ボクは本当のことを言わなくちゃいけないのに。
     きっと、もう一人でスプーンを握って食事を終えられる程度には回復しているという真実を告げるべきなのに。
    「……ちょっと、自信ないかな。左腕はご覧の有り様だし、起き上がれるのがやっとって感じだから、右手もおぼつかなくて。こんなことばかり頼んで申し訳ないけど、今日も食べさせてもらってもいいかな?」
     本当は申し訳がないだなんてつゆほども思っていないくせに。へにょりと眉毛を下げて、困りきった様子を取り繕って、今日もキミからの施しを願った。
    「……わかった。じゃあ、今日も俺が食べさせるな」
     ボクの言葉をいつも疑うことなく、すんなりと信じてくれるキミに悪いことをしてるとは思ってる。でも。
    「狛枝、口開けてくれるか」
     ほんのりと湯気の立つコーンスープの中に潜らせたスプーンに、ふぅふぅ……と穏やかな息を吐く姿を見ると、そんな気持ちは吹き飛んでしまうんだ。熱すぎるものが不得意なボクを気遣う仕草をしてくれる。キミが、ボクにご飯を食べさせてくれる。その程度に好かれているんだって今日も知りたくて、やめられないんだ。
     そうして、口元に近づけられたものをぱくりと口に含んで飲み込んでしまえば。
    「……美味いか?」 
     才能に溢れたキミが、あまつさえボクのためだけに作ってくれたものが美味しくないわけないのに。不安を抱えた様子で尋ねてくるのだから、堪らない心地になる。
    「うん、おいしいよ」
     きっと今のボクは随分と間抜けな顔をしていることだろう。へにゃりとした下手くそな笑顔をキミに向けて、本心からの言葉を口にすれば、「……よかった」とキミが安堵するのに、得体の知れない、それでいて穏やかでささやかな感情が今日も生まれた。

     日向クンの差し出してきたスプーンを受け入れ、一口大にちぎられたコーンスープ漬けのひたひたの食パンを咀嚼し、ねだった結果、口元で傾けられるコーヒーを飲み込んで。トレーの上のお皿の中身をきれいに平らげた時。満腹感からふぅ……と息を漏らしたボクは、左頬を伝う汗を拭おうと反射的に左腕を持ち上げた。ぺとりと頬に触れたそれの冷たさ、硬さを感じた途端、ぴくりと小さく身体が跳ねた。
     ああ、またやってしまったと思うよりも早く、日向クンが口を開く。
    「……なぁ。左腕、どうして義手にしないんだ?」
     目覚めてから何度も耳にした質問だった。それでいて、いつもはぐらかし続けていることだった。
    「別に、ボクなんかが自分の身体をどうしようが、日向クンには関係のないことでしょ」
    「……友達だから心配くらいするだろ」
    「……心配してくれるのはありがたいけど、余計なお世話ってやつだよ」
     嘘だ。本当はそんなこと、微塵も思っていない。キミが気にかけてくれていることが嬉しいし、一秒でも早くこんな腕とはおさらばしたいと思っている。今までのボクなら、目覚めてすぐに手術を願い出ていたことだろう。でも──
    「俺の才能を使って、義手だってもう作ってあるんだ。いくら江ノ島の腕が腐敗しないからって、そのままでいるのが、衛生的にも良くないことくらいお前にもわかるだろ」
    「日向クンが才能を注いで作ってくれた義手なんて、きっと素晴らしい出来なんだろうね! けど、ボクはこの腕を外したいとはあんまり思えないんだよね。そもそも、この腕をくっつけた状態で今日まで元気なんだし、すぐに外さなくても困らないんじゃない?」
     いつもなら、外すつもりはないと頑なな意思表示をすれば、「……わかった」と渋々病室を出ていく日向クンは今日に限って諦める気配がなくて。
    「……お前は、絶望を憎んでるんだろ。なんで、その腕にそんなに固執するんだよ」
    「ボクが絶望を憎んでることは変わらないよ。固執してるわけじゃないさ。外したいと思えない、それだけだよ」
     本当は、今、こんな腕をつけている自分も、それをつけようと思った自分も否定してしまいたい。なかったことにしてしまいたい。過去に決別して、キミの作ってくれた義手をつけて、また左手を動かせるようになりたい。キミがボクのために作ってくれた腕で、キミと握手がしたい。だけど──
    「外したいと思えないってことは、固執してるってことじゃないのかよ」
    「したくないと思うことを、キミは執着と捉えるんだね。うーん、ボクとは意見が合わないなぁ。今度、本の感想会でもしてみようか? 楽しい時間を過ごせそうじゃない?」
    「……ふざけるなよ」
    「あれ? 怒らせちゃったかな?」
     日向クン、頼むから。これ以上、キミを傷つけるようなこと、ボクに言わせないでよ。ボク、キミのことがすごく大事なんだ。嫌われちゃいたくないんだ。でも、それでも──
    「……お前、超高校級と認められた才能が好きって言ってたよな? 俺の作った義手は素晴らしい出来なんだろうなとも言ったよな? じゃあ、なんで。なんで、そいつの腕のほうが、俺の才能を費やした義手より優先されるんだよ……! 俺は、俺の才能は、希望ヶ峰学園の悲願だったものなのに……!」
    「……っ、それは……っ、」
    「……なんで、友達の俺の頼みより、死んだ女の腕が優先されなきゃいけないんだよ……! そんなものより、俺の作ったものがお前の一部であってほしいって、思っちゃいけないのかよ……!」
     才能に溢れているはずのキミが。真っ赤にした顔を隠すように、勢いよくボクに抱きつく。ベッドテーブルが、キミの運んでくれた食器ががちゃんと音を立てる。
    「……俺、嫉妬してるんだ。俺に友達を望んでくれたくせに、俺の才能を褒めるくせに。俺の作った腕があるのに、あの女の腕をつけたままでいるお前を見るたびに堪らない気分になるんだ……。なぁ、なんでだよ、狛枝……」
     日向クン。キミ、いつもそんなことを考えていたの。ボク、キミの気持ちなんて全く考えもしなくて。そんな感情を向けられているなんて思いもしなくて。
    「なぁ……、友達の俺よりも、あの女が気になるのか?」
    「ち、ちがっ……!」
     咄嗟にはぐらかそうと思った問いかけに上がった否定の声。言い切る前に口をつぐんでも、ボクのすぐそばにあるキミの耳には届いてしまったようで。
    「じゃあ、なんでだよ……」
     いっそ、恨みがましいとでも言うような声がボクにまとわりつく。
    「……答えてくれよ」
     先ほどのように優しく背中をさすりながら、それでいて決して逃すつもりのないと言うような、地を這うような声が耳元で囁く。
    「……っ、……」
    「……俺とお前は友達だろ? 今更、何を言われたって嫌いになったりしないから。……だから、頼むよ、こまえだ」
     それでいて、ひどく優しい声でずるいことを言う。ボクが友達という関係性をどれだけ大事にしていて、キミに嫌われたくないとどれだけ願っているかを知っている口が、的確にボクの柔らかいところを突いて。終いには甘ったるい声で名前を呼ばれて、頭がふわふわとする。一定の間隔でぽんぽんと背中を叩かれているうちに、触れ合っている部分からじんわりと伝わる体温を感じているうちに、心も身体も蕩かされていって。
    「……こまえだ」
     ダメ押しのようにもう一度名前を呼ばれてしまえば、身体を襲う酩酊感が強まって。はくと口が息を吸う。
    「……そ、それは」
    「それは? 続きをゆっくり教えてくれ。大丈夫。嫌いになったりしないから、な……?」
     赤子をあやすように頭をかき混ぜられて、耳元にキミの声が注がれて、頭がふわふわとしてきて。気づけばするりと言うはずのない想いが溢れていく。
    「……保険なんだ。超高校級の絶望の腕がついているなんて、ひどい不運だろ? だから、この腕がついているうちは、現実でも誰も死なないんじゃないかって。平穏な日々が送れるんじゃないかって。……ボクのはじめての友達のキミが、不運に殺されないための保険なんだ……」
     ああ、言ってしまった。なんでこんなことを口にしているんだろう。なんだか思考がまとまらない。あれ?あれあれあれ?
    「俺は、幸運の才能だって持ってるのに?」
    「……キミが死んでしまう可能性を少しでもなくしたくて……」
     希望ヶ峰学園の悲願であったカムクライズルの才能をそのまま引き継いでいるキミが、ボクなんかの才能に負けてしまうわけがないってわかってる。でも、やっぱり、キミがいなくなってしまう可能性が少しでもあるのが嫌なんだ。ああ、なんでだろう? 日向クンの問いかけに答えられると、なんだか気持ちがいいような。
    「憎んだ絶望の腕をつけ続けることよりも、俺と一緒にいられる保険を優先するくらい、俺のことが大事ってことか?」
    「……自分の中にあった希望に気づかせてくれたキミのこと、ボク、すごく大切にしてるんだ……」
     一定のリズムでとんとんと叩かれているからなのか、次第に瞼が重くなる。おかしいな、さっき起きたばっかりなのに、すごくねむくて──
    「俺のこと、そんなに好きなのか?」
    「……? ……すきだよ……?」
     なにをきかれてるのかよくわからない。日向クンのことはすき。なにをいまさら。好きじゃなかったら、ともだちになってほしいなんて、言わないのに。
    「……なら、俺の作った義手、つけてくれるよな?」
    「……?」
    「一回だけ、うんって言ってくれ、こまえだ」
    「……うん……?」
     ひなたくんが、うんと言ってほしいことだけはわかったから、こくりと首を縦に振って望まれた言葉を口にする。
    「……いい子だな。おやすみ、こまえだ」
     遠い昔、両親が眠る前に言ってくれたのと同じような響きの言葉に温かいなにかがこみあげる。その正体をつきとめるよりも先に、どぷりと眠りの海に落ちたかのように身体から力が抜けていって、ボクは──

    ✳︎✳︎✳︎

     狛枝をゆっくりとベッドに横たわらせ、優しく布団をかけた後、綺麗に食べ終えられた食器を乗せたトレーを持って病室を出た。
     スキップをしてしまいそうなほど、浮き足立つ気持ちを抑え、なるべく平静を装って廊下を歩く。
    「……日向さん、何か嬉しいことでもあったんですかぁ?」
     すると、通り過ぎた病室のドアから呼び止める声が聞こえた。はたと振り返れば、点滴スタンドを引きずりながら、修学旅行の時よりも少し伸びたざんばら髪の女子──罪木が、不安気に俺を見つめていた。
    「あぁ、すごくいいことがあったんだ」
    「それならよかったですぅ……。最近、日向さん、落ち込んでたから……」
     思いもよらぬ言葉をかけられて、表情に出てしまっていたのかと驚く。
    「心配かけてたのか、わるいな。前に話してた狛枝の手術の件、狛枝も手術を受けたいって言ってくれたから、もう少し容体が安定したら、手伝いを頼んでもいいか?」
    「わ、私なんかでいいんですかぁ……?」
    「罪木にしか頼めない仕事なんだ」
    「ふ、ふゆぅ。お役に立てるように、わ、私、せいいっぱいがんばりますぅ……!」
    「ああ、体調が安定してきたらまた声をかけるから。その時はよろしくな。今はゆっくり休んでくれ」
     きっと自分が何を言っているかもわからないまま、うんと頷いてくれた姿を思い出しながら、手術の予定が立ったことを罪木に伝え、話もそこそこに切り上げて、洗い場へと向かった。

     蛇口を捻り、ざあぁっと勢いよく流れる水に食器をくぐらせていく。洗剤をスポンジへ少量垂らし、ぎゅっぎゅっと右手で軽く握って泡だてたあと、食器の上を滑らせて行く。
     本当はお前の考えに全部気づいていて、それでも嫉妬していたのだと言ったら。狛枝はどんな顔をするだろうか。
     お前のためだけに作った食事に、特製の自白剤を混ぜていたと知ったら。お前の口からいじらしい言葉が聞きたかったのだと知ったら。狛枝は、俺と友達でいるのをやめようと言い出すだろうか。
    「……まぁ、気づかせる気なんてさらさらないけどな」
     今の狛枝は覚えていない、アバターに上書きされなかった幾多の修学旅行。その中で、唇を触れ合わせるどころか、身体を重ねたことすらあるのだと、いつか狛枝に教えてしまおうか。
     自分ばかりが、狛枝に振り回されているようで、好きでいるようで。友達という関係性を大切にしている狛枝のあどけなさに、時折暴力的な願望が顔をのぞかせることもある。
     けれど。やはりそれらよりも、狛枝を大切にしてやりたいという気持ちが上回っていくから、俺は今日も狛枝の友達でいることをやめられない。

     水切りかごに乗せたぴかぴかの皿。磨き上げられ、きらりと白く光るそれは、何も知らずに友達を大切にする狛枝のようだった。
     
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