大佐×羊飼い幻覚妄想ツイートまとめ 小説ではなくツイートのまとめです。時代考証も特に出来ていないので雰囲気で読んでもらえるとありがたいです。一人称等、ツイート時のものから修正した部分があります。今後もツイッターで気が向いたら更新していく予定です。
ちょっとした設定はこの次に投稿しているイラストの方で軽くまとめてあります。
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【切っ掛けの会話】
「羊たちはなぜ今生きているのかなどは考えない。今を生きることで精一杯だ」
「……俺に家畜と同じになれ、と?」
「嫌だな、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ……そうだな、過去や贖罪から一度離れて、今何がしたいかを考えたっていいんじゃないか、とね」
「そんなこと……許されるものか」
「うん、そうか……。なら、君の生きる意味が見つかるまで、私の牧場の手伝いをしてくれないか。ちょうど何頭か産気づいていて人手が欲しかったんだ」
「見ず知らずの拾った男を置いておく気なのか?」
「名前も事情も聞いた。もう見ず知らずじゃないさ」
「……恩は必ず返す」
「私も話し相手が出来て嬉しいんだ。あまり気にしないで……というのも君の場合難しそうだね。そのぶんたくさん働いてくれればいいよ!」
「ああ、俺にできることなら」
「うん。きっと仕事は山積みだ。……長く居てくれると、私が助かる」
【雑談チャレンジ】
夕食の最中に会話が無くなりシン……としてしまったので
「街の話が聞いてみたいな。たまに収穫物を売りに行くくらいで流行りや暮らしぶりは知らないんだ」
と大佐に振ってみる羊飼い。
「生憎だが俺も戦場と執務室の往復ばかりでね。民が何を好むのかも知らないつまらない男だよ」
と素っ気なく返されてそうか……すまない……ううん話題選びを間違えたなあ、とシュンとしながらパンをモソモソ食べる羊飼いと、気を利かせて話かけてくれたのにこんなことしか言えないのか……俺は本当につまらない男だ……と顔には出ないがそこそこ落ち込む大佐の、同居始めたて頃の下手クソコミュニケーションを延々と眺めていたい。
【大佐と子羊】
大佐の手伝いもあってか例年よりも死産が少なく子羊が多く生まれた牧場。これなら上手く育てば何頭か肉にして売って新しい防寒具や毛布が買えるな、暖かい冬が過ごせそうだ…子羊の肉は柔らかくて美味しいからな……と脳内で勘定していた羊飼いだったが、大佐に子羊たちの世話を任せていたところ、すくすく育つうちに大佐に懐き、
「……いかに効率良く敵を制圧するかばかり考えていた俺のような人間が、今は何かを育てているだなんて、変な気持ちだ」
と足元で跳ねて遊ぶ子羊を見ながら眦を和らげて呟いたのを見て、思わず
「君……冬の寒いのは平気なたちかい……」
と大佐に聞かずにはいられなかった羊飼いなのであった。
その年の冬は冷え込んだが、大佐がめちゃくちゃ薪を割って用意していたおかげで2人は暖かく過ごせたらしい。
【猟銃の話】
牧場の納屋を掃除していたら古い猟銃を見つけた大佐。羊飼いに尋ねたところ
「牧場の前の管理者の物だね。私は使えないからしまっていたんだ」
とのことだったので、ならば質素な食卓を彩るために、と猟銃を担ぐ。
羊飼いの
「古いし手入れしていなかったものだから気をつけてね」
の声を背に森に入って行く。夕方頃、放牧していた家畜たちを畜舎に戻していると、兎と大きい鳥を何羽か仕留めて帰ってきた大佐をわあ、と感嘆と共に迎える羊飼い。解体と保存法を大佐に教えながら作った夕飯はいつもより品数も増え、豪華な物になった。
それから時折森に入っては獲物を仕留めてくるようになった大佐。一度教えたら要領よく肉の処理は出来るようになった。初めは新鮮な肉が食べられることを喜んでいた羊飼いだったが、狩りをしてきた日の大佐は顔色がいつもより悪く口数も減り、ぼうっとしていることが増えたと気づく。すぐに彼の来歴に起因するものではと思い当たる。
大佐に心配の言葉を向けても
「集中力が要るから疲れてしまったんだろうな」
とはぐらかされる。深い詮索を厭う口ぶりに
「……そうか、無理はしないでおくれよ」
としか返せなかった羊飼い。何も言えない、言葉の響かない距離の遠さに歯噛みする。彼が言い出したことだから、本当に無理が来ないように見守りつつ任せようと、大佐の眉間に刻まれた皺を眺めながら決める。
ふと、彼が子羊と戯れていた時の笑顔を思い出し、こんな風じゃなくてずっとあんな顔だけしていればいいのにな、とぼんやりと思った。
【ふたり、街へ行く】
羊毛や収穫物、加工品を売りに街に降りる日を決める羊飼いと、荷物運びを手伝わせてくれと申し出て着いていく大佐。郊外の丘の上にある牧場だから街に着くまでは時間がかかる道のりの中、何をいくらで、誰にどこで売りたいか、そんな必要最低限の話をひとつふたつ終えると会話は止まってしまった。
ぎこちなさを感じながらも並んで歩きしばらく経つと、賑やかさのある小さな街に到着する。早速馴染みの商店をまわり交渉や取引を始める羊飼いを、深めに被った上着のフードの隙間から眺める大佐。柔和な口調と笑みで話術巧みに円滑に事を進める姿に関心する。
街の人たちは目隠しにフードの怪しい風体の男である羊飼いの来訪にも慣れているようで、特徴的な外見を気に留めていない。むしろ見慣れない人物である大佐の方が気になったようだったが、深くフードを被ったまま黙々と荷車から積荷を運んでいる姿に、手伝いの者だと納得したらしく詮索はされなかった。
ある程度荷物が片づいたので一度ひとり離れ、用を済ませてから待ち合わせ場所に戻る大佐。邪魔にならないように路地裏の近くに停めていた荷車を遠目からみとめるも様子がおかしい。待たせていたはずの羊飼いが、余所者だろうか、難癖をつけているように見える男に絡まれているのを見つける。何やら言い募ろうとした羊飼いの腕を、男が怒鳴りながら掴んだ。まあ羊飼いも日々を自然の中で揉まれながら過ごす己よりも上背のある男だ、自分が出るまでもなく振り払うくらいわけ無いだろう…と警戒しつつも少しの楽観を交えて歩を進める。しかし羊飼いは慌てたようにへたくそに身を捩るだけで掴まれた腕は離れず、なんなら路地裏に連れ込まれそうになっている。嘘だろ?!と驚愕しながら慌てて駆け寄り、間に入って男を引き剥がし追い払った。
「あんた、何してるんだ」
「いやあ……私が盲いた者だと思い込んで荷車と売上金を奪おうとしていたようでね、諭そうとしたら逆上されてしまった」
「そうじゃなくて、振り払ってどうにでも出来ただろ」
「しようとは……していたんだが……」
「……」
力なく笑う姿に呆れながら、もしかしてこいつは体の使い方が下手なのでは……?と思い至る大佐。またこんなことが起きてはたまらないと、
「帰ったら護身術を教えてやろう。なに、上背と筋力はあるんだ、すぐに物にできるだろう」
と羊飼いに提案すると、少し考えてから芳しくない様子で
「……いや、遠慮するよ」
と断られる。
「何故だ?なにかあった時に自分で対処できた方がいいだろう」
「問題ない、心配ないよ」
「だが……」
何度言っても断るばかりだが、その頑なさの理由がわからない。口調が強いものになりそうなのを一度呼吸を整えて堪えて
「……断る訳を聞いてもいいか」
と尋ねる大佐。踏み込んでいいものか迷ったせいか、思いの外弱々しい声が出てしまった。それを聞いてばつが悪くなったのか羊飼いは小さくうう、と唸ってから閉じていた口をようやく開いた。
「……だって、護身術って……君が、軍で身につけたものだろう」
「? ああ、そうだが……」
「それを私に教えていたら、君、……軍に居た頃のことを、思い出してしまわないかい」
思いもよらぬ理由に目を瞬かせていると、堰を切ったかのように羊飼いはまくし立て始めた。
「わかってるんだ、君が銃を使って獲物を仕留めて来た日、君は昔のことを思い出して具合を悪くしているだろう。君の壮絶な経験がどんなものだったのか、私には想像できない。でもなるべく思い出さず、出来るなら穏やかに過ごしてほしいんだ」
ぽかんとして聞いている大佐を気に留めず、羊飼いはさらに続ける。
「共に暮らすひとが、顔色を悪くして過ごすのを放っておけないし、そんな顔で食卓につかれてもご飯が美味しくない。君が大丈夫だと言うから看過していたが……だから、護身術もいいんだ。なんとかできる、君の手は煩わせない」
思いの丈を吐き出しきったようでやっと口を閉じた羊飼いをまじまじと見つめる。気づかれているとは思っていたが、そんな風に考えているとは……じわりと胸が暖かくなり、思わず口を開く。
「……その、銃のことは、確かに過去を思い出して体調を崩していたし、俺もそうなるだろうとわかってやっていた」「……が、護身術は……ただ、お前が心配で……」
そんなことは頭から抜けていた、と言外に告げると、目の前の顔がえ、と口を開いたまま微かに頬を染めた。お互いに中々に恥ずかしいことを言っていると気づき、気恥ずかしさから己の頬も熱を持つのを感じた。
「……お互い、心配してただけ、かあ」
羊飼いは気の抜けたように笑って肩の力を抜いた。
「……護身術は、確かに軍で会得したものだが、それで過去を思い出してどうにかなることは無い、と思う、多分……だから、お前さえ良ければ、身を守る術を教えさせてくれないか」
曖昧になってしまった物言いに一瞬険を含んだ視線を感じたが、羊飼いはまたいつものように穏やかな笑みを顔に戻した。
「……無理は絶対にしないでくれ。あと、お手柔らかに頼むよ」
「…善処しよう」
それなりの時間を共に牧場で過ごしていたはずなのに、初めて互いにきちんと向き合ったように感じた。
「私たち、もう少し互いの話をした方がいいのかもしれないね」
もちろん無理のない範囲で、と朗らかに笑いながら告げた羊飼いに倣って、帰り道は来た時よりもたどたどしくも会話が増えた。そのぎこちなさは嫌なものではなく、家までの道程は往路に比べて短く感じた。
【マッサージしよう!】
だいぶ打ち解けてきてしばらく経った頃の二人の話。
疲れが溜まりすぎて上手く眠れず体が辛いな……と腰を撫でていたところを大佐に見つかる羊飼い。
「体が痛むのか?」
「ああ、いやこれは……疲労だと思う」
「そうか、無理はするなよ」
その場はそんな簡潔な会話で終わり、その後は日課の農作業へと互いに戻った。その晩、早めに寝てしまおうと床に入るも上手く寝付けずにいると、寝支度を終えた大佐が
「少しいいか」
とこちらの寝台に乗り上げてくる。驚きつつもなんだい、と伺うと目隠しを外した目元を少し見つめてから
「眠れていないだろう」
と確信を持って尋ねられる。隠す必要も無いかと
「実は、体が強張るようで、あまり……」
と答える否や、肩を掴まれくるんと寝床にうつ伏せにひっくり返される。わあ、と呆けていると
「昼間も庇うような足取りだった……怪我に繋がるといけない、少しほぐそうと思うが構わないか?」
そこまでわかりやすかったのか、と少し恥じながらも、触れてもいいかと問う言葉にああ、と首肯する。
正直眠れないのも体が辛いのもかなり堪えており、彼も疲れているだろうに、とは思いながらも藁にも縋る心地で彼に頼ることにした。人から按摩を受けたことは無いが、人体への理解が深いであろう彼なら悪くはしないだろうと期待もある。委ねられたことへ安心したのか彼がほっと息をついたのが横目に見えて、言動や雰囲気はぶっきらぼうで冷たいようだけど表現が下手なだけで優しい人だよな……と微笑ましい心地になった。
殊勝に力を抜いてみせると彼もそれがわかったのか、揃えて閉じたこちらの足の上に、体重をかけぬよう跨いでいた体を前傾させて
「触れるぞ」
と前置いてから両手を背中に載せてきた。申し出てきただけあって筋肉を揉みほぐす彼の手はかなり具合が良く、固く軋んでいた体がじわじわ温かく綻んでいくようだった。冷えていた体の末端にも熱が通っていく心地にとろとろと睡魔が襲ってくる。このまま寝てしまおうか……なんて考えていると、ふいに彼が落とした
「本当にこっているな……」
という独り言がかなり近くから聞こえたことにどきりとして目を開く。よく考えたら護身術を習っている時よりも長い時間近くで、普段は触れることのない大きな手が自分の体にたくさん触れている。街から離れた牧場で長く一人で暮らしていた身には慣れぬ、他者の体温が己に密着している。男同士、ただの同居人のはずなのに意識してしまうと妙に気恥ずかしくて
「もうかなり楽になったよ、ありがとう」
と中断を求めた。もう少しやってもいいんだが……と渋りながらも体を引いてくれた彼には内心で平謝りしつつ、体が楽になったことへの謝辞を告げた。
「俺が勝手にやっただけのことだから気にするな……睡眠不足が少しでも解消されるといいが」
本当によく眠れそうだしありがたいのだが、悪いが早く寝台から降りてほしい。距離の近さが居た堪れない……!勝手にどきまぎしているこちらには気づかずに自分の寝床に戻った大佐の背を見つめて安堵の息をつく。
よく揉んでもらった体は軋むような痛みはなくなり、温まった手足を寝具に埋めれば吹き飛んだ睡魔はすぐに帰ってきた。彼になにかお礼をしないとな……と考えているうちに、久方ぶりの心地よい眠気に意識は攫われていった。
翌日、すこぶる快調で目が覚め大佐に賛辞を並べ元気いっぱいで仕事に励むことができ1日をご機嫌で過ごした羊飼いなのであった。
しかしハマったのか思いの外楽しかったのか、今日もするか?と大佐が頻繁に按摩を提案してくるようになり羊飼いが頭を抱える事態になるのはまた別の話……。
【寝室と悪夢の話】
元の牧場主である老夫婦から譲り受けた母屋は、広過ぎはしないが一人で暮らすには余裕のある造りになっている。寝室もそのひとつで、夫婦のものであったそこは簡素なベッドが横並びで二台備えられており、今は大佐と羊飼いの二人で使っていた。
一人暮らしが長かった羊飼いは二人で寝室を使うことに慣れず、はじめは大佐一人で使うように薦めたが、きょとんとした顔の大佐に
「寝台は二つあるのに?」「何か気がかりなら、俺は床でも馬小屋でも構わないが」
とまで言われたので結局折れて二人で寝室を使っている。羊飼いが大佐の存在にすっかり慣れた頃、隣のベッドで眠る大佐の睡眠がとても浅く、時に魘されていることに気付く。心配して
「魘されているようだが、私になにか出来ることはあるかい?」
と尋ねると、大佐はしまったと言うように額に手をやりながら
「……眠りを妨げてしまったのなら悪かった。気にしないでくれ。やかましければ俺は別室で……」
などと言い出すので
「私は君を心配しているのだけれど」
と思わず言葉を遮る羊飼い。閉口して息をついた大佐は少し考え込んでから口を開いた。
「……何もしないでくれ」
「でも」
「迷惑という訳ではない。心配をかけてすまない。ただ……夢見が悪くてね。魘されている時の俺が夢うつつであんたに危害を加えないとは言い切れない」
「そんな、大丈夫だよ。君には筋力では及ばないが私だって男だ。寝ぼけた君に」
「頼む」
今度は羊飼いが言葉を遮られる番だった。
「あんたに何かしてしまったら、俺は……」
膝の上で握られた拳は震えている。懇願されてしまっては「わかった」と頷くほか無かった。
それからは、大佐が魘されて脂汗をかいている時は窓を開けて空気を冷やしてやったり、苦しそうな呼吸のある時は名前を呼んでやったりしていた羊飼い。眠れないのは辛いだろうから何かしてやりたい一心だった。
ある日深夜に目を覚ますと、がたがたと震える大佐が目に入る。近づきすぎなければ……と、毛布をかけ直してやろうと立ち上がって寝台に近付くと、大佐に強く手首を掴まれた。腕を引く力にたたらを踏んでそのまま大佐のベッドの上に倒れ込む。あれだけ言われていたのに、と内心で大佐に謝りながら、来るのは暴力か、と姿勢を崩したまま身を固くする羊飼い。
しかし降ってきたのは重くて熱い何かで、気付くと大佐に半ば乗り上げられながらきつく頭を抱かれている体勢になっていた。慌てて離れようとするも掴まれた手首は外れる気配がない。
目を白黒させながら、どうにか彼に起きてもらおうと声を出しかけた時、頭上から微かな水音がして動きを止める。耳を澄ませるまでもなく近くから聞こえるのは
「すまない」「俺のせいで」「もう死なないでくれ」「すまない」
という繰り返される弱々しい懺悔と啜り泣く声だった。
普段は見せることのない涙と彼の苦痛の片鱗に、衝撃と共に胸が苦しくなる。かつて、こうして同じように誰かの亡骸を抱いていたことがあるのだろうか。想像もできない惨状の中にまだ彼が囚われていると知る。彼の中の戦争がいつか終わる日が来ますように、と高い体温に包まれながら居もしない神に願った。
翌朝、大佐の「うわーーっ」という大声で目を覚まし、繰り返し謝罪を受ける羊飼い。
「本当にすまなかった」
「言われていたのに近づいた私が悪いよ」
「何か……しなかったか?」
「大丈夫だよ。ほら、手首だってちゃんと動…あっ」
「手首……?」
すかさず腕をとられ、手首についた指の跡を見つけられる。すぐに顔を真っ青にした大佐が大慌てで重ねて詫びながら水で冷したタオルを作って持ってきた。
「なんてことを……今日の仕事は俺が全部やる」
「えぇっ」
「あんたは安静にしていてくれ。何かあったらすぐ呼んでくれ」
弱ったような声を出しながら部屋を飛び出していった大佐の背を見送りながら
「私……余計なこと言っちゃったね」
と零すと、傍らの相棒に「ホウ……」と呆れたように鳴かれた。