俺は、ベランダの隅に座って煙草を吸う先生に声をかけた。
「先生。それ、一本貰っていいですか」
「ん、君煙草なんてやってたっけ」
「いや、吸わないですけど」
「は? 吸わないヤツがなんで煙草が欲しいとか言うんだよ」
「なんとなく……興味が湧いたというか」
「興味本位ならやめとけ。ロクなことにならんぞ」
「……先生はなんで吸ってるんです?」
「僕のこれは習慣みたいなもんだから」
「でも、吸うきっかけがあったんでしょう?」
「きっかけ、ね……さあ、なんだったかな」
先生は誤魔化すように空中に視線を逸らした。