「…で、ここでスキルを使って、宝具でフィニッシュ……と。これでいいか?」
ロビンフッドがクエストに同行していたサーヴァントに問いかける
「いいんじゃない?特に無理も無さそうだし」
と斎藤一
「僕もそれで良いと思います」
と太公望
「おじさんも今の案でいけると思うから……あとは、マスターの了承か。マスター、この案で良い、か………………」
とヘクトールがマスターに問おうと振り返るも、そこにマスターの姿は無し
周囲を見回し、声をかける
「マスター?」
しばしの環境音
返事が無い
4人の頭に「誘拐」という単語がよぎるが、すぐに打ち消される
4人もいれば敵の接近に誰かしら気づくだろうし、マスターに危害が加わればカルデア側がバイタルサインの変化に気づいて何かしらアクションを起こすはずである
ということは…
というような声が聞こえてきそうな程ピッタリ同じタイミングでヘクトール、ロビンフッド、斎藤一が顔を見合わせる
3人の答えはおおよそ一致していた
何故って、過去にも似たようなことが複数回起きているから
「…もしかして、マスターって、放浪癖とかそういうのがあるんですか…?」
まさかというような声で新入りの太公望が問いかける
明確な答えは3人から返ってこない、が、3人の渋い顔を見れば自ずと答えは分かる
「近場に川とか海ってある?」
「歩いて行くには少し遠い」
「珍しい動植物は?」
「近くに竹林がある」
「じゃあそこかもねぇ」
ロビンフッドが地図を広げ、斎藤一とヘクトールはそこに身を寄せてマスターが居そうな場所に目星を付けていく
その様子を半ば呆然と眺めていた太公望がふと我に返って口を開く
「ちょっと急いで探した方がいいかもしれません」
その一言に3人が地図から顔を上げ、はてなマークを浮かべて太公望を見つめる
「僕がいつも乗ってる四不相くん、たぶんマスターが連れてます」
「「「は?」」」
さてさて、こちらはマスター側
4人の心配なんかつゆ知らず、
とっとことっとこ
と四不相に乗って森を駆けていた
「ヘブシッ」
「モ…」
「んー?だいじょぶ、だいじょぶ!誰か私のこと噂してるのかなぁ…?」
なんて呑気なことを抜かして四不相の頭を撫でる
「いやー、しかし、歩くよりも四不相くんの方が早いとは……途中まで歩いてた私がバカみたいだよ…」
「モ」
とっとことっとこ
と2人は駆けていく
2人がいる場所は竹林の近く…ではなく、そことは正反対の方向の森の中
今回はただの探検ではなく、マスターには明確なお目当てがあった
「こっちだと思うんだけど…あ、あれ!たぶんあれ!あっち!!」
指された方向にとっとこ駆けていく
「む………桃……じゃないね………?スモモ?プルーン?」
前回ここら辺に来た時に甘い香りが微かにしたので、今回隙を見て調べに来たのだ
同行サーヴァントとしてはいい迷惑であるが、マスターはそういうところにあまり気が回らないゆえ、幾度も単独行動で周りを悩ませたというのはまた別の機会にでも話そう
とにかく今回は、この甘い香りを放つ果実(?)がお目当てなのだ
四不相の背に立ち、さほど高くない木から果実をもぐ
スンスンと匂いを嗅ぎ、恐る恐る口に入れる
「これは…食べれる味!!」
他にサーヴァントがいたら卒倒しそうな発言である
毒が無い、食べれるものであるという確証もなく、よく分からない果実を口に入れてるのである
ゲンコツが降ってきてもおかしくない行動だが、今ここには、マスターと四不相だけである
四不相がゲンコツを降らせれる訳もなく…というか、どちらかと言うと果実に釣られてマスターと探検に出かけた共犯者なので、この場にマスターを咎めるものは無し
2人で果実を食し、のんびりとしていた
「あ〜!!!もう!!!!あの馬鹿マスター!!!」
怒気を孕んだ声が森に響く
声の主はロビンフッド
4人で竹林付近を捜索していたが、青い小鳥からの情報を聞いて声を荒らげていた
「なーに、何か新情報でも入った?」
と斎藤一が問う
彼も顔こそヘラヘラしてるが、漏れ出る怒気は隠せてない
「竹林とは反対方向に駆けていく1人と1頭を見たやつがいるんだとよ」
ため息混じりにロビンフッドは言う
「なあ太公望、あの四不相とか言うのおまえさんの使い魔かなんかだろ?お前さんの方から居場所を探ることって出来ないのか?」
とヘクトールが訊ねる
少しの沈黙が流れる
沈黙の間に、別の方を見ていたロビンフッドと斎藤一も手を止めて太公望の方を振り返る
「…ロビン殿、ヒントありがとうございます。たった今、居場所を特定しました」
「ん…?え、今?」
とロビンフッド
「えぇ、今特定しました」
「ていうか、アンタそういうことできたの?」
と斎藤一
「できるっちゃできるんですけど方向が定まってないと時間がかかるので…」
「なるほど」
とヘクトール
3人の質問に答えながら合間合間に何かを唱える太公望
「じゃあ、3人とも僕に近づいてください。一気に飛びます」
「え、飛ぶ?できるの?そんなこと?」
斎藤一が心底驚いた顔で言う
「色々条件はあるんですけど、今回は四不相くんの場所が分かったので飛べます」
「へぇ」
「ただ、普通に飛ぶと四不相くんの真上に出ちゃうので、少し座標を上下左右にずらしますね」
「具体的には?」
「10メートルずつくらいですかね。おのおの受け身の準備を!」
「あ、ザリガニ!!…ザリガニ…?カニ…?うーん…」
微睡む四不相の隣で川を覗き込んで木の棒で川の中を突っつく少女
マスターである
果実を食したら帰るつもりだったはずなのだが、近くに川があるのを見つけ、そちらに気を取られっぱなしであった
その時
ピカッ
と急に上空が光った
びっくりして顔を上げると空から降ってくるものがあった
降ってくる者が、あった
「待て待て待て待て!下、川なんだが?!」
川は想定外というのが発言から見て取れる斎藤一
「ちょ、川に落ちるのは勘弁…っと!」
トラップ用のワイヤーで華麗に木へ飛び移るロビンフッド
「あ?!ロビンが逃げた!太公望もいねぇ?!逃げたな?!!」
うっそだろ?!と言わんばかりに騒ぐ斎藤一
「あぁ、これ、落ちるわ」
諦め顔でへらっと笑うヘクトールの一言を最後に盛大に上がる水飛沫、もちろん2人分
「おぉ………」
その様子を傍観していたマスターは少し楽しそうな声を上げた
自分より年上がワーワー騒いでいるのを見るのはぶっちゃけかなり面白いと感じる部類である
「ああ、ここにいたんですね、マスター」
マスターの後ろから声が聞こえた
振り返れば太公望が涼し気な顔で立っていた
「川に落としたのってわざと?」
無邪気な顔で目を輝かせてマスターが太公望に訊ねる
「まさか」
わざとらしく肩を竦めて微笑む太公望
さらに、ガサガサと音を立てて、木からロビンフッドも降りてきた
「マースーターァーーーー」
こちらは太公望のように涼しい顔とはいかず、怒気が漏れていた
「おお…葉っぱまみれ……」
「誰のせいだと思ってんだ!」
ロビンフッドはズンズンとマスターに近づき、彼女の顔を思いっきりつねる
「あぅ…いひゃいいひゃい………」
涙目で手を退けるように訴えるも申請は却下される
「痛みがないと覚えないだろ!!ちゃんと報連相をしろって!!!!」
「あぅ…………」
びしょ濡れの斎藤一とヘクトールも合流する
「おじさんたちの労力うんぬんで済む話なら別にまだ良いんだけどさ、相談もなく単独行動されるとマスターが危険なんだよねぇ」
「そーいうこと、頼むから報連相はしてちょーだい、マスターちゃん?」
2人ともへらりと笑ってはいるが、水に落ちたせいか、若干弱々しげに見えた
怒っているロビンフッド、振り回されて疲れているかのようなヘクトールと斎藤一の姿に良心が痛み、年上3人からの正論詰めということもあってぐうの音も出ないマスター
「…あと、太公望、こういうことが起きる可能性があるから武器とか使い魔とかそういうのは自分が管理できる位置に置いとけ」
ついでのようにロビンフッドが後輩に釘を刺す
「そうですね、厄介事はあまり好きではないので以後気をつけます」
太公望はその言葉を素直に受け止めた
「マスターは帰ったら反省文な」
「う…」
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