星を見れば人は笑うみんな空を見たり星を見るのが好きなんだよね。わたしも好きだよ。
あなたはどう?
突然あづまにそんな事を言われて、御高祖御前は黙り込んだ。
冬の夜は星がよく見える、とよくわからない理由で、帰るのを引き止められた彼女は若干機嫌が悪かった。
彼女は星を知らない。眼中になかった。星など見たことがない。地上から見れば屑のような光。そんなものに彼女は興味がなかった。
それよりも宝石だとか豪華な刺繍を施された豪華な物ばかりを見ては満足していた。
「星なんて小さい物、見たって面白くともなんともないじゃない」
呆れたように御高祖御前が言った。
そんなものに興味を示すならずやら、このクジラのならずに呆れていた。なんだかとても野蛮なように感じられてしまった。
「星はね、とっても大きいんだよ」
「嘘おっしゃい」
あづまの言葉に、彼女は間髪入れずに厳しい言葉を投げつけた。
子供の突拍子もない言葉に相手をさせられる親の気持ちというものが分かってくるような気すらしてくる。
だがそんな言葉を言われた程度であづまは落ち込まない。良くも悪くも彼はマイペースで鈍感だ。だからこそならずでありながら付喪神である御高祖御前と対等に付き合おうとする。
「本当だよ。ここからじゃ米粒より小さいカケラに見えるけど、近くに行ったらとーーーーっても大きいんだ。わたしのからだよりもね」
あづまは上を見て目を細めた。それにつられて彼女も目線を上に向けた。
白や薄赤や青、色とりどりの星々が呼吸のように瞬いているのが見えた。
これまで目にも留めなかったそれらは、全てを失った今どんな高価なものよりも輝いているように見えた。
悪くないわね、と呟く御前にあづまは微笑んだ。
「あの星からはわたしたちはどう見えているんだろうね」
「どうかしらね」
あづまはしばらく黙り込んだ。
そしてようやく口を開いた。
「……あなたを宝石と呼ぶ人はもういないかもしれないけど、でも、わたしにはあの小さいきれいな星たちに見える」
「どういう意味よ」
回りくどい詩人めいた言い方に笑ってしまいそうになりながら、彼女は問いかけた。
「美しさの基準は変わっちゃったけど、きれいであることには変わりないって事」
御高祖御前は、口を噤んだ。そうだ、私の顔は、醜くなったんだ。と改めて思い出した。
でもそれでもこの愚直で愚鈍なならずは、きれいだといってくれた。彼なりに私を励まそうとしているんだ。
「……気を使うためにここに呼んだの?」
「ううん、ただ星を見せたかっただけ。ここだときれいに見えるからね」
その時、白い小粒が、一粒だけ空からちらちらと落ちるのが見えた。
「あ、流れ星。きっと明日はいい日になるよ」
あづまは嬉しそうに笑った。