淵源に灯るカムラの里に来たばかりの頃。
その時はまだ歳の近い友人だった奴と河原で話をした事があった
「ーじゃあ、クラウスはその…故郷を見つけたいの?」
「…今は子供だから無理でも、今より大きくなったら…とは思ってる」
今は故郷に生き残っている同族達はおそらくもう居ないのだろうと見当はついているが、何分この時は幼く、同族も赤子の妹以外居ない見知らぬ地で自分も心細かったのだ。夜中に突然起きて、其処には居ない父と母の姿を探した事だって一度や二度ではすまなかった。そんな自分を見つけたゴコク様が、現実に落ち込む自分を撫でて寝付くまで傍で話をしてくれた。
「見つけたら…もう、カムラには帰ってこない…?」
「……わからない…」
そう、分からなかった。故郷を見つけたとしても、そこに両親がいるのか、同族が生き残っていたとしても、そこからどうしたら良いのか
「そうなったら、俺…寂しいなぁ…その、せっかく仲良くなれたし…」
そんなにコイツが言う程仲良くはなってはいないと思うが、当時から物怖じせずにグイグイくるのでカムラの里での同世代の子供の中ではそれなりに話す方くらいのものだ。何気に俺と赤子の妹と初めて顔合わせした時に姉妹かと言ってきて自分を女扱いしてきたのは今思い出しても微妙に苛つくが、それでも
「…お前とか、俺と同じ子供とかの人間は、まだ…良いけど」
「うん」
「カムラの里の人は、良い人間が多いのは分かった…皆、他所から来た俺にも妹にも良くしてくれるしな」
実際、妹はまだ乳飲み子の赤子だったし、俺も子供だったので本当に助かったのだ
「でもな、」
「うん」
「まだ、あんまり馴染みが無いところで…人間に囲まれるのは、すこし…だけ、怖いのかもしれない」
腕に抱いた妹に顔をうずめる。
柔らかいミルクのような赤子特有の香りと、微かな花の様な香り、故郷の…母さんと似た、時々自分からも香る匂いはこうして深く吸い込むと荒んだ心が落ち着く。
そうして蹲る俺を見て、コイツは俺が泣いてるのだと思ったのだろう
熱い手で、不器用に恐る恐る俺の頭を撫でてきた
「ハ、…へたくそだな、おまえ」
「ええ……そうかなぁ」
◇◇◇
目の前にはカムラの里に危機を齎した元凶、その淵源
「また相まみえたな…イブシマキヒコ、ナルハタタヒメ」
求め焦がれた存在に逢えて嬉しいのだろう。
その気持ちはどれほどのものか俺にも分かる
だって、ずっとずっと、俺もあの地を焦がれ求めている
ーだが
「悪いな、カムラの里はもう俺の故郷だ」
ー守りたくなってしまった、亡くしたくないと思う程には大事になってしまった、馴染んで、混じって手放し難くなってしまった
ー今ここに共に立つ幼馴染達を始めとしたカムラの人々も、カムラの里も
大事なソレ等を脅かすお前達は番共々、俺の為に死んでくれ