恋は下心、愛は真心─百竜夜行は続くが落ち着きも取り戻しつつある今日この頃
任務も終わり午後はゆっくりできるなぁ、とウツシは首の凝りを解し、のんびりうさ団子を頬張りつつ里を見下ろすと河原の方に一人でぴょこぴょこ歩く淡黄蘗と薄桃色の見知った姿
「ぉおーい!やぁ小愛弟子!一人でいるの珍しいね!!しかも河原でなんて」
「わぁ教官だぁ教官お仕事終わったの?」
「そうだよ!」
庇護欲が湧いて近くに降り、周りを見渡してもやっぱり河原で一人私服でのんびりしている小愛弟子がそこには居た
「小愛弟子は此処で何をしていたんだい?釣り?」
「日光浴です〜」
「日光浴かぁ…」
いつもの様に愛想良くにこにこしながら小愛弟子は日光浴をしているのだ、と言う
ちんまりとしてぽやぽやしているこの小愛弟子が実を言うと剛力を誇る女傑だとは見てわかる者はそうはおるまいと神妙な顔をしてひとり頷いた
師のその様子を見て何を思ったか彼女はその場の手頃な岩場に座り、自分の隣をペチペチと叩く
「何だい?」
「きょーかん、お暇なら私と恋バナしましょ?」
「こ…っ!?!恋バナ!?!俺と!?!」
恋バナの相手に自分を選んでくる驚きに思わず叫んでしまい、河原から水鳥が羽ばたき、目の前の小愛弟子は耳を抑えて顔を顰めている
顔を顰めるとやっぱり兄妹なんだなぁ、似ている。
「きょうかん、うるさいよ…きょうかん、自分の声の大きさ把握した方がいいですよ…」
「ご、ごめんね小愛弟子…」
謝りつつ彼女に指定された通りに隣に腰を降ろす
「でも、何で俺なんだい?小愛弟子。そりゃあ俺は教官だからね、君が望むなら狩猟の事から今日の夕食の献立の相談だって話をするくらい何て事は無いけれども…恋の話だろう」
「だって教官、お兄ちゃんに求婚したでしょ」
「ンぐ!!!!!」
「なのに何故かお兄ちゃんと大社跡で大喧嘩してるし」
「ウッ!!!!」
「その後何か進展はお有りですか、きょーかん?」
「御座いません…っ」
「なんで?」
「あのね小愛弟子、付き合いが長いと話が拗れる事って結構多いんだよ…」
「さいですか」
「さいです」
心に何か鋭利な物が刺さった様な気がして思わず胸のあたりを撫でる
「お兄ちゃんね、教官に色々言ってきたでしょ」
「結構色々言われたなぁ…趣味が悪いとか、頭がおかしいとかゼンチ先生に診てもらえとか」
「それで教官も色々言ったんでしょ?」
「言ったなぁ…」
虚しさに自然と溜息が出てしまい
段々虚しくなってきて空を見上げる
嗚呼、あの鳥美味いかなぁ…
「…カゲロウさんもね」
「うん」
愛弟子の話は教官として然と聞いてあげなければいけないので姿勢を正して座り直した
「御付き合いに了承はしてくれたけれど、顔も素性も分からぬのに良いのですかってよく聞いてくるの。それでね、カゲロウさんなりに決意してくれて私にお顔を見せてくれようとするけどね、私恥ずかしいから今度で良いですって言っちゃった」
「そうなの…」
「でもね私、顔とか素性とかどうでも良いんです。カゲロウさんを好きになったの其処じゃ無いもの」
「ん?うん」
「それでね、お兄ちゃんとか教官の話を聞いて思ったんですけど」
小愛弟子はちらりと此方を見て首を傾げて微笑む
「男のひとって勝手にゴチャゴチャ考えて悩んで……かわいいねぇ、ね?教官」
「ゔっ!どこでそんなの覚えてきたんだい小愛弟子よ…」
狼狽える自分の様子を見て小愛弟子は笑みを深くする
「私ね、お兄ちゃんの事大好きよ」
「うん、よく…知ってるよ」
この兄妹はとても仲が良いのだ。妹の彼女はよく兄に引っ付いているし、兄の方は他の者には絶対しないような柔らかい対応を妹にする
「一応妹として聞きたいんですけど、お兄ちゃんの何処が好きなの教官は」
「ゑっ」
「言って」
「いや、その…ほら小愛弟子あのね」
「はやく」
圧が強い!!流石はカムラの里の猛き炎!!
「…、その…絶対に悪口じゃないって先に言っておくけどね小愛弟子。君の、お兄さんねクラウスの事だけど」
「うん」
「よくしかめっ面してるし大体不機嫌そうな顔をしてるか高飛車そうな顔をしてるじゃないか」
「まぁ、そうですね。私に対してはそんな事無いけど」
「アレが…」
「はい」
「崩れた瞬間が物凄く可愛くて…泣いてたりとか、笑ったりとか……それで、笑顔も勿論無邪気で大好きなんだけど、こう…その…涙を湛えた瞳がとても綺麗で何か見てるとグッとくると言うか…俺だけ見てて欲しくなると言うか…俺だけのものにしたくなると言うか…」
「…………」
何とも言い難い微妙な顔をして彼女は此方を見てくる。うん、そう言う反応すると思ったよ。その反応は正しいよ小愛弟子
「後、彼の淡黄蘗の絹糸みたいな髪が揺れてる所が昔から好きで…それに、なんかよく分からないんだけど…クラウス、薄いんだけど何か物凄く良い匂いがするし…」
「…それは分かる」
彼女は神妙な顔で頷いてくれた
◇◇◇◇
恋バナをしよう、とは言ったものの
その後はやれあのモンスターは此処が美味いだの、あの狩場にこんな物があっただのの話を色々したのだ
そうして彼女は満足して立ち上がり逆光でよく見えないが、恐らく俺に微笑んで言った
「私ね、教官の事も大好きよ」
「有難う小愛弟子、嬉しいよ!俺も小愛弟子の事はいつも昔から可愛くて可愛くて仕方ないし、妹みたいに思ってるし大好きだよ!」
「うふふ!だから一個だけ、特別に教えてあげますね」
そうして、彼女は座ったままの俺の耳元に手をかざして口を寄せ、ひそりと教えてくれた
「 」
耳元で密やかに語られるソレに目が見開いていく
─自分は、遠い昔に彼に問うて聞いた答えをそのままに受け取り過ぎて今もそうであると思い込んでいた、故に恋に焦った。何とかして自分に縛り付けようと藻掻いた。子供から大人になる程に時は流れたならば、あの時の答えも今とは違うと言う当たり前の事に、今更ながら彼の妹からの言葉で気付かされた
そうか
そうか、ならば
「有難う、小愛弟子」
後は、誠心誠意
真心で