萌え袖小話その2【萌え】とは
ある人や物に対して抱く、強い愛着心・情熱・欲望などの気持ちをいう俗語。必ずしも恋愛感情を意味するものではない
まぁつまり、愛おしさがスパークしてしまう事である
◇◇◇
先程まで小愛弟子と戯れて居たウツシであるが、ウツシが気配の消し方に花丸をあげた彼女は自分の知りたかった情報を得て満足したのか集会所から出て行ってしまった
まぁ小愛弟子はよく泣き言を言うがアレで狩猟本能が強いので気が向けばまた集会所に来て狩りに赴く事だろう。流石は小さくても猛き炎、今日も元気!!
集会所ではまだ他所のハンター達が多く語り合ったりクエストの掲示板を眺めていたりする。
─此れだけ里外のハンターが沢山いる日だと、愛弟子の方は今日は集会所には来ないかなぁ…
と、里外の人間が苦手な麗しき自らの伴侶に思いを馳せた
そうしていると昼時なのもあって腹からグゥ…っと音が鳴る。以前は集会所でうさ団子定食を頼んだり、屋根の上で里を見ながらうさ団子を口に運んでいたが、今の自分は何せ既婚者であるので!集会所に来ないのであれば自分達の家で昼餉を拵えている事だろう。ああ見えて伴侶は面倒見がとても良いのだ
ゴコク様に少し抜けますと一声掛けて足取り軽く家へと向かった
「帰ったよ〜!」
と、昼餉の良い香りが漂ってくる玄関の戸を引きながら言えば自らのオトモ、デンコウとライゴウ、そして彼のオトモのロルフとルディが出迎えてくれる。
そしてその向こう側で菜切包丁と大根を持って何か悩ましい顔をしている自らの番が此方に気付いたのか目線を寄越す
「クラウス、どうしたの?」
「おう、帰ったのか。おかえり」
「ただいま!!…で、どうしたの…大根持って悩ましい顔して」
「いや、なんだ…ワカナからこの大根分けて貰ったんだけどよ」
「うん」
「形が面白ぇから切るの勿体ねぇなと思って」
「形…?」
そう言ってクラウスが手に持つ大根を見遣れば、随分と色っぽいポーズで横たわっているかの様な形をしていたので思わず噴いてしまった
「ンぐっ、ふふっほんとだ…っ!ず、ずいぶん悩ましいね…ッ!フフッ!アッ、やめてやめてソレ近付けないでっ笑いが…っ!」
「フハハッ……よし、満足した」
そう言って彼は水を張っている桶の中にそっと大根をそのまま置いた
「え、育てるの…?」
「いや?昼餉は大体出来てるからコイツは晩飯に使う事にする」
「そっかぁ…っ、ンっフフフフフフフ」
桶の中でまるで入浴しているかの様な悩ましげな大根を見てまた笑いが込み上げてきた
◇◇◇
「嗚呼…美味しかったぁ……」
「お粗末さん」
くちくなった腹を撫でながら、やっぱり彼は料理上手だなぁ…と思う。家事は勿論それぞれ分担だし、自分も任務で家を空けたりクラウスも狩猟に行ったりでお互いに家を空けるので食事は一応基本家に居た方が作る、と言う決まりにしている。
自分も料理は出来るしそれなりに上手い方だと思うのだが、所謂男の料理と言うもので結構豪快なのだ。
一方、クラウスは幼少期から妹を育てあげる上で里の女性達に家事を習っていたり、味に厳しいハモンさんに色々聞いてたりと、本人曰く調合の類いが好きなので気付いたら何か拘ってたとの事だが、兎に角作る料理の悉くの味が美味く、バランスや見た目も良い。エルフな事も相まって見れば見る程に美人だし良いお嫁さんだなぁ…本当色々あったけど苦労の甲斐あって彼を伴侶に出来て良かった…っ!と幸せを噛み締めるウツシの様子を見てクラウスはまた何か変な事してるな…と怪訝な顔をしていた
食後の茶を啜りながら集会所での出来事を思い出してそう言えばと口に出す
「そう言えばね、今日の集会所は里外のハンターが多くてね」
「嗚呼…何か往来に人通りが多いとは思ったが…」
「それでまぁ俺は集会所で小愛弟子と戯れてたんだけど」
「おう」
「クラウスは萌え袖って知ってるかい?」
「もえ……?何だソレ」
「袖の部分が長すぎるから、着用者の手の甲とか手の部分や全部が袖に覆われている状態のことらしいよ。まぁ謂わばカゲロウ殿の袖みたいな感じだってさ」
「心底どうでもいいなソレは…」
「ソレで今思ったんだけどね」
「続くのか、その話」
「君がさ、ブリゲイド装備じゃなくてエーデル装備を着てる時あるだろ」
そう、花を模したエーデル装備。彼の妹たる小愛弟子ことクララが同じく花を模したメルホア装備と組み合わせて着用している可愛らしいお花の装備である。
男性のエーデル装備も勿論花を模したモノで、そこはかとなく妖しい色気も有りながら花の可愛らしさもある装備となっており、お兄ちゃんとお揃いにしたいと言う妹のおねだりを聞いたクラウスが時々着用している。普段彼が着用している真白と金のブリゲイド装備もとても良いが、藤色に着彩されたエーデル装備を着用してソレに合わせて髪型も変えている彼は何と言うかこう…惚れた欲目を抜きにしても芳しい程の色気があるので、ウツシは密かに目の保養として眺めていたりしたのだ
「?おう」
「アレも萌え袖とやらなんじゃないかと気付いたんだよ俺」
「…………」
「そう思ったらさ…何か、込み上げてくるモノがあってさ」
「…そのまま込み上げたモン飲み下せ」
「可愛いなって」
「はぁ……、エーデル装備がか?お前着れば良いじゃねぇか指さして笑ってやるぞ」
「いや、エーデル装備着た君が」
「……頭大丈夫か?」
「そう思ったらさ、うん…きっとこういう事なんだね…あのハンター達が言ってた萌え袖の愛おしさって…俺、アレ着た君好きだよ!袖ヒラヒラさせて動き回ってるの可愛い。アッ、普段のブリゲイド着てる君も勿論好きだよ!!」
「別にそんなん俺は聞いてないんだが…もうアレ着るのやめるか…」
「えぇ!何で!?…でもそんな事言ってもさ、君優しいから今後も着てくれるんだろ?小愛弟子も君がアレ着てるとお揃いって喜んでるし」
「……」
「何より、君…俺が髪の毛また伸ばしてくれないかって前に頼んだから…伸ばしてくれているんだろう…?我が妻よ…」
そう言って肩より少し伸びてきた淡黄蘗の髪を撫でる様に触ると眉を顰めた彼にうっとおしそうにその手を払われた。相変わらずつれない伴侶である。でもそこが猫の様で良いのだ、ごく偶に此方がやりたい様にさせてくれるところがまたとても堪らない
「…うっっぜぇコイツ…何か日に日に増していってねぇか…?ちょっと、いや大分ヤベぇ感じがして怖いぞお前…俺判断間違えたわ」
「怖くないよ!!?!距離取らないで!?!逃げないで!絶対に逃さないからね!!!!」
「あ"ー!!やめろテメェ!!!腰を抱くな!!!引き寄せるな!!飯食ったんならさっさと集会所に仕事しに戻りやがれ!!!おい!コラ嗅ぐな!!!深呼吸やめろ!!!ソレが怖えんだよお前!!!」
彼も里の英雄の片割れ、猛き炎の1人ではあるが、何せ自分は彼の教官でもあるので、暴れて抵抗する今は伴侶たる愛弟子を抑え付けるのは訳もないのである。
相変わらず凄く良い香りするなぁと細い腰を抱いたまま、彼に頭をはたかれながら思う
嗚呼、愛おしさがスパークしちゃうよ!