Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    furoku_26

    @furoku_26

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    furoku_26

    ☆quiet follow

    キバカブ

    ##キバカブ

    2021.4.1(エイプリルフール) 曇り続きの3月が終わり、ようやく晴れた暖かな4月。草花は新しい生命を絢爛に咲かせ、寒さが苦手なポケモンくんたちも巣穴から顔を覗かせ始めていた。
     この日は朝から年度初めのジムリーダーたちの会議があり、ぼくはその休憩中、席を立ったキバナくんを追いかけた。以前から企てていた計画を実行するためだった。あるいはそれを成 功させ、かれの驚く姿を見たいがためだ。計画と言ってももちろん大したことではない。いつの日か雑談をしていた時に、メロンさんが「あの子エイプリルフー ルとか好きそう」と言い出したので、じゃあ何かしてみようと思い立っただけのことである。たしかにかれはバレンタインに並々ならぬ気合いを入れていたし、 イベント事は確実に好きな性格だ。
     そしてエイプリルフールに何かをするとなれば、きっとあくタイプのネズくんが詳しいだろうとぼくはアドバイスを貰ってもいた。「こう言えばあいつは間違いなく面食らうはずですよ」と。ネズくんは言う時の仕草や雰囲気までを面倒見よく教えてくれた。
     時間は朝の10時前。キバナくんはのんびりと欠伸をしながら廊下の窓を開け、ヌメラくんのように上半身を窓の桟に垂れさせていた。眠気を誘う、春の暖かい風が吹き込んでくるのが感じられた。幸いなことに、ぼくたちの周りには誰もいなかった。
    「キバナくん」とぼくは声をかけた。
     かれは振り向いて「お、カブさんも気分転換?」と応えた。
    「ううん、ちょっと」ぼくは首を振ってかれを見上げた。教えられた通り右手でパーカーの裾を掴み、出来うる限りあざとく。「きみに伝えたいことがあるんだ」
    「……なんです?」かれは優しい微笑みを返してくれた。いつものようにぼくだけに向けられる優しい表情。少し首を傾けて、続きを待ってくれる柔らかい沈黙。その反応に少しだけ罪悪感が込み上げたけれど、それよりもその後の反応への期待が勝ってしまうのは仕方がなかった。
    「あのね、」とぼくは句読点を打つように呼吸を置き、背の高いかれを見上げて言った。「できちゃった」
     左手はぼくのお腹を指し示すように添えてみた。かれの反応を窺うと、時が止まったように固まっていた。言葉を失ってしまっていた。やがてそのままの体勢で、まばたきだけを何度も何度も繰り返していた。 まるで不意打ちを受けたトランセルくんみたいに。ぼくのエイプリルフールはどうやら成功してくれたようだった。かれはぼくのことをいつも可愛いと言うけれ ど、かれの方がよっぽど可愛い、とぼくは思う。

     つい悪乗りしてしまったエイプリルフールの話だ。

    「なんてね!」
     カブさんはそう無邪気に笑うと、小走りで会議室へ戻ってしまった。
     なんだあれ。なんだったんだ。台風のような天使か? いやむしろいっそ悪魔だろ。オレの寝不足の頭は完全に混乱状態に陥った。
     カブさんがいきなりジョークを言い出すのはぶっちゃけ予想していた。けど「できちゃっ た」までは予想外。規格外の爆弾にオレの頭は死んでしまった。ただでさえ寝不足で死にかけなのに。ちなみにオレがこうも寝不足なのは、日付が変わった瞬間からエイプリルフールをネタにSNSで騒いでいたから。おかげでほとんど寝ていない。そこにこの大爆弾が投下されたわけなのだ。
     休憩が終わって再開した会議の最中、オレは必死になって考えた。眠気は完全に吹っ飛んだし、賢い頭を必死になって回転させる。本日最後の超絶ハッピーな大嘘を考えなければならないのだ。このキバナさまがイベント事でやられたまんまでたまるかよ。
     オレはスマホをテーブルの下に忍ばせて、SNSの画面を開いた。ノールックでの文字打ちはもはやオレの特技だ。
     『この度、かねてよりお付き合いさせていただいていたカブさんと結婚することになりました。ジムリーダーとしてもパパとしても、より一層励んで参りますので、今後とも応援の程、よろしくお願いいたします!』
     よし、とチラリと確認だけして投稿ボタンをタップする。こういうのは全部勢いだ。 本当は手書きで書いてスキャンでもしたいところだが、贅沢は言っていられない。時間はギリギリの11時55分。お祭り騒ぎには間に合った。
     ふう、と一息ついて辺りを見回すと、ダンデがパシオに行った経験を活かそうとアレコレ考えを説明していた。瞳の色が輝いていて、春の太陽よりもスマホの画面よりも眩しいくらい。
     オレはしばらく達成感に浸りながら、ぼんやりとみんなを眺めていた。すると視界の端でメロンさんが静かに肩を震わせだし、ネズがわざとらしく呆れた顔で睨んできた。いやはや、サボり組は気付くのが早い。ダンデの話もちゃんと聴いてやれよな。オレほとんど聴いてなかったんだからさ。
     オレの結婚相手は相槌を打って真剣に聴いているようだ。メロンさんのニヤけ視線とネズの哀れみのこもった視線、それから旦那さまの愛のビームには気付かずに。
     さて、その後オレたちがどうなったかって? そいつはあんたの想像にお任せしたいところだが、一応簡潔に言っておこう。SNSも会議室も大炎上した、ってだけ。でも全部冷静に対処した。なんたってオレは優しいパパになるんだからな。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤💒💒💒❤💒💒💒💒😍👏👏👏☺☺☺💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works