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    譲介渡米前時空での勘違いと誤解で一也くんがひとりでぐるぐるしちゃう話。
    どちらかというと也→宮です。ひとりで考えて悶々してしまう思春期じみたあれやこれがとても好きです。
    画像だと見にくい人向けで内容は一緒です

    #也宮

    也宮が書きたくて仕方なかったので書いた話 さて、宮坂さんはどこにいるだろう。
     本日の業務を終えてイチさんお手製の夕食前に詩織の姿がなかったので、自然探しに出た一也は周囲をぐるりと見渡した。
     別に、一緒に食事をともにしなければいけないわけではない。
     忙しいときには食事もままならないから、食べられるときには食べろというのが鉄則だけれど、どうせなら美味しそうに食事をとる彼女を眺めながら夕食にしたかった。
     高校時代を共に過ごし、医大時代も駆け抜け研修医としてともにこのT村にやってきた、友人とも戦友とも呼べる詩織の食事風景を見ることが、一也はけっこう好きだった。あくまでも食事風景が。である。
     出会ったばかりの頃は食も細く、一也からすればおやつともとれる量すら持てあましていたくらいなのに、いまでは幸せそうに嬉しそうに食べている姿に自然とこちらも笑顔になってしまうくらいだ。
     今日はキーマカレーにする予定がスパイスを切らしていたとかで、急遽ミートスパゲティに変更になったと渋い顔で譲介が言っていたっけ。
     イチさんは昔から料理が上手だったけれど、最近は自分も知らないような各地の料理を用意してくれてすべてが美味しいからすごいなあ。
     自分もいくつになっても向上心を忘れずにいたい。
     そんなことを考えている間に、診療所内を見終えてしまった。
    「……ん?」
     そこまで広くない診療所内で行き違うはずもないと、外を見行きかけた一也の足が止まったのは、外からかすかに彼女の声が聞こえたからだ。
     詩織の声に導かれるように外に出て建物の裏手へ歩を進めながら、そういえば、と一也は気づいた。
     診療所メンバーはすでに全員食卓にいたはずだが、彼女は誰と話をしてるのだろうか。と。
     柔らかく楽しそうな声音は緊急性を感じられないから、村の誰かと雑談に興じているのか。それにしては聞こえてくるのは詩織の声だけだけれど。
    「ええ、わかってるわよ。明日はきちんとお休みを頂けたから。ドタキャンなんてしないわよ、私だってずっと楽しみにしてたんだからね」
     自然気配を殺して近づいてしまったのは許して欲しい。どうやら電話中だったようだ。
     楽しげな様子から親しい友人だろうとあたりをつけた一也は、邪魔をしないよう通話の終わりを待つことにした。
     宮坂さんの明るい声はいいな。こちらも元気をもらえるような心地になるから。なんて、呑気に立ち聞きのような真似をしたのが悪かったのかもしれない。
    「え? なによ、私の愛を疑うっていうの? そりゃあ忙しくてなかなか時間を取れないことの方が多いけど、いまでも変わらずずっと大好きよ」
     ――え?
    「……うん、じゃあ明日。楽しみにしてるわ」
     そんな声とともに彼女が自分がいるのとは逆の方向へ歩き出す気配がしてそのままいなくなってしまうのに、一也は一歩も動くことが出来なかった。
     いま、彼女はなんて言っていた?
     電話の相手に好きと言っていなかっただろうか。
     友達のノリというには詩織の声音はあまりにも柔らかくて、大切なものを愛おしむようなそんなものだった。それに詩織が友人にあんな声で好きと伝えたところを一也はみたことがない。なんなら、自分だってそこまでは言われたことはない。
     恋人、なのだろうか。
     彼女からそういった話を聞いたことはないけれど、出会ったばかりの頃に内緒にしてねと前置かれたことをクラス中に伝えてデリカシーがないと叱られたことを思い出せば、敢えて知らされていない可能性だってある。
     いつの間に。なんて思うが、詩織は一也からみてもとても素敵で可愛らしい女の子だ。すっかり大人の女性になったけれど、昔から自分が魅力的に思う部分は変わらず、いや増しているからいつだって側にいるとドキドキしてしまう。
     そんな彼女を周りが放っておくはずもない。
     ずっと一緒にいたいとは言われたけれど、あくまで自分は友達で、しかも放浪の旅に出ていたりちょくちょく離れていた時期にそういうことになっていれば。
    「…………いやだ」
     思わず声が漏れた。
     彼女のとなりに顔もしらない男が立つことを想像したら、どうしようもないくらいの嫌悪感が沸く。
     単なる友人でしかない自分に、そんなことを言う権利がないのは百も承知だけれど、それでも。
     胸の奥が、引き絞られるように痛かった。
     これまでの人生で数多くの修羅場を経験してきたけれど、ダメージはトップクラスだ。
     走馬灯のように詩織と出会ってから今日までの思い出が蘇るままにしていたら、背中に割と遠慮のない一撃を受けた。
    「オイ、こんなところでなにやってんだよ。お前が飯に来ねえからイチさん心配してんだろうが」
    「……譲介」
    「って、本当にどうしたよ。顔色悪いな」
    「いや、なんでもない。宮坂さんは?」
    「宮坂ァ? アイツなら明日大事な用があるって飯食ってさっさと帰ったぜ」
    「そうか」
     ずいぶんとここで自失してしまっていたらしい、いつの間にか空は暗く陰りはじめていた。まるでいまの自分の心をあらわすようだというのは言い過ぎだろうか。
    「そういやアイツ、妙にウキウキしてたっつーか浮き足立ってたな。わざわざ明日もK先生に希望して休みとったっていうし。あ、デートだったりしてな」
     ずんと。デートの三文字が大岩になって自分にのしかかってきたようだった。
     でも、本当にデートとかそういう類いのものであるなら、さっきの詩織の様子も頷けるというものだ。
     …………え、これどうすればいい?
     たしかにずっと友達の顔で傍に居続けることが出来たけど、この先どんな顔や態度で詩織と会えばいいのか。間違いなく自分がこれまで通りの態度でいられないことを自覚している一也は、ひとり思考の迷宮に落ちていくしかなかった。

     
     ぐるぐる巡る思考はその後譲介に引きずられるようにして連れられた診療所内でも続き、結局イチさんの心配は解消されなかったし、一人や麻上すら気遣わしげな様子を見せていて、結果一也は翌日の勤務を譲介に肩代わりされる形で突然の休みを言い渡された。
     この場合百パーセント一也への心配と言うよりは、人為的なミスを警戒している部分が強いような気もするが、心ここにあらずだとしても仕事に影響を出すつもりはなかったのに。
     まあ、朝の身支度でシャツのボタンを一つかけ間違えていたりはしていたが。
     譲介はなにやら腹を抱えて爆笑していたが、訳知り顔で今日の朝九時台のバスに乗って街に出てみればいいんじゃないか。なんて言って、勝手に一也の荷物を用意された上に押しつけられて診療所から追い出されてしまった。
     一人も麻上も止めてはくれず、なんともいえない表情で譲介の意見に頷いていたことや、客観的に自分をみてもあまりよくない精神状態である自覚もあったので、大人しくバス停へと向かっているわけだが。
     情けない。
     詩織に特定のパートナーがいるかもしれないことが現実になっただけで、ここまで精神的に落ちるとまでは思っていなかった。
     とはいえだ、たしかに診療所で悶々と過ごすくらいなら、本屋で気分転換もありだろう。そう思考を切り替えたところでバス停が見えてきた。
    「……あ」
     そこでようやく一也は思い至った。今日は彼女も出かける日だったことに。
     詩織は、可愛らしい明かに余所行きのワンピースを身に纏っていた。
     小柄な彼女は自分の背丈に合う服を探すのも大変らしく、あれは先日たまたま立ち寄ったお店で運命の出会いをしたのだと、麻上と楽しそうに話していたものだ。
     そう、麻上とである。
     詳しい名称はわからないが、シャツみたいな前ボタンがついていて腹あたりをくるりと巻きつけるみたいな紐で絞られた若草色のワンピースは、詩織によく似合っていてとてつもなく可愛い。
     ここぞというときに着るのよと明るい笑顔で言っていた通り、今日は彼女にとってここぞという日なんだろう。あ、胸が痛い。
     可愛らしく着飾った想い人に視線が縫い止められて動くことが出来なくなった一也に、ふとなにか気配を感じ取ったのか、視線を動かした詩織が気がついた。
    「あら、黒須くんじゃない。どうしたの? 今日は休みじゃなかったはずだけど」
    「ええと、なんか、色々あって休みになったんだ。それでちょっと街に出ようかなって……」
    「ふうん?」
     一也の要領を得ない説明に、詩織は気のない相槌を返すと腕時計を確認した。
    「宮坂さんは?」
     デートなの!
     輝くような笑顔で言われたらどうしよう。なんて考えながらも口は勝手に動いてしまう。
    「私は――」
     けれど彼女の答えは、近づいてくるバスの気配によって打ち切られた。
    「バス来ちゃったわね。続きは中で話しましょう」
    「うん……」
     死刑宣告が延びたような心地で頷いて、自然二人席に並んで腰かける。村からのバスはいつだって閑散としていて、この便の乗客は自分たちだけのようだった。
    「実はね、今日どうしてもいきたいところがあってK先生にお休みをお願いしていたのよ」
     知っているよ。とは言えずに頷けば、朗らかな笑みで両のてのひらの指先を揃えるようにして、詩織は一也の顔を覗き込むように見つめてくる。
     彼女はいつだって、相手の瞳をじっとみて会話しようとするんだ。
     そういう部分も一也が彼女を好ましく思うところのひとつだったのに、いまは、他の男にはもっと親密な態度を見せているのかと思うと、腹の奥がぐるぐると蠢いて気持ち悪ささえ感じてしまいそうだった。
    「それで用事なんだけど……、そうだ、黒須くんは今日時間ある? よかったら一緒に行かない?」
    「えっ?」
     君のデートに? オレも?
     へのへのもへじでしかない男と恋しい彼女に割って入る自分の姿をつい思い浮かべて、一也は心底から戸惑っているのに、気がつかない詩織はまるでいいアイディアとばかりに言葉をつなげる。
    「最近はご無沙汰だったけど黒須くんだって興味を持っていたじゃない、楽しめると思うのよね。もちろん、大声は厳禁だけど」
    「そりゃ。そんな大声は出さないと思うけど、……たぶん」
     冷静でいられる自信はないけれど。と、心の中でごちて了承すれば詩織は嬉しそうに窓の外へと視線を移した。
     木々ばかりが続く山道は、一也がここに来てからずっと変わらないままなのに、どうしてかしらない景色のように思えて落ち着かなかった。



     街に到着した詩織は、楽しげな様子のまま戸惑いっぱなしの一也を先導するように歩き出す。思えば、こういったことは度々あって、こうやって小さな身体にたくさんのエネルギーを内包するような背中を、何度面映ゆく眺めただろう。
     バス停から迷いのない足取りで進み、途中ケーキ屋でギフト用の焼き菓子を購入した詩織の背を追いかけること数分、ふと、周囲の景色に見覚えがあることに気がついた。
     そもそもここは地元のようなもので、村の診療所に居を移してから高校生までの間に歩きなれた街なので、それは当たり前なのだけどそういうことではなく。
    「さあ、着いたわよ黒須くん」
     呼び掛けに目を見張った。
     過去、自分はここへ着たことがある。あのときも詩織と二人で休日に待ち合わせまでして、連れていって欲しいと乞うたのだ。
    「大谷、育江刺繍展……?」
     どういうことかと目顔で詩織を見遣れば、彼女はどこか得意気に鼻を膨らませてむふーと笑って見せた。
    「覚えてる? 高校のときの私の刺繍の目標で、黒須くんが助けてくれた育江。今日からあの子の展示会がここではじまるからどうしても見に来たくて、K先生にお休みをお願いしたのよ」
    「そう、なの……?」
    「黒須くんも高校時代刺繍に興味を持ってくれてたけど、さすがに二人同時にお休みは難しいかと思って声をかけてなかったんだけど」
    「……そうなの」
     詩織の言葉を脳内で咀嚼しながら、一也はでも昨日の思わせ振りな会話はなんだったんだろうと問いを投げ掛けそうになってしまう。
     今日の予定がデートでなくとも、好きと伝える相手がいるんじゃないかって。
    「でも育江ったらひどいのよ、昨日無事に行けそうって連絡入れたら私の刺繍への愛を疑うんだもの。そりゃあ医師を目指してからは脇目もふらず勉強に専念していて刺繍をおろそかにしていたけど、出来ないだけで、いまでも変わらず好きなのに!」
    「え……」
    「えってなによ、黒須くんまで疑うの?」
    「いや、そうじゃなくて」
     そっちじゃなくて。
     そうかー、刺繍かー。そうかァ。
     それは間違いなく一也が聞いてしまった電話のことだろう。
     腑に落ちたらなんだかとてつもなく恥ずかしくなってきて、両手で顔を覆って呻くことでどうにかやり過ごそうとするけれど。うん、恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。
    「え、ちょ、黒須くん? 急にどうしたのよ具合悪い?」
    「……ううん、自分が情けなくなっただけ」
    「どういうこと?」
     心底わかりませんと眉を寄せる詩織に、本当のことなんてもちろん言えるはずもないけど、彼女が絡むとどうしたって冷静に判断が出来なくなってしまう自分を改めて認識した。
     知っていたはずなのに。
     高校のときの成績からすれば、見違えるほど高い評価で大学を卒業出来たのは、彼女がそれだけ日常のあらゆるものをなげうって勉強に打ち込んだからだって。
     多分それは誰よりも一也が近くで見てきたことなのに。
    「…………宮坂さん、誘ってくれたことが嬉しかったから、帰りになにか食事でも奢らせてよ」
    「別にいいわよ、私もどうせなら黒須くんと来たかったし」
     入り口のドアに手をかけて、詩織が言う。
     彼女の言葉に深い意味なんてないことは承知していても、少しばかり心臓に悪かった。
    「さー、育江に挨拶して展示見たら割り勘でご飯を食べて、それからイチさんにスパイスのお土産を買って帰りましょう。でも今日はせっかく二人とも休みだから、少しは楽しむわよ」
     ぐっと拳を作って笑む宮坂に、ようやく一也もいつもの呼吸を思い出したような心地で頷いた。
    「宮坂さん、オレ、頑張るよ」
    「なにを?」
     曖昧に笑って答えず一也はガラス製のドアの向こう、自分たちに気がついて待っていた詩織の目標で親友でもある女性を目線で示す。
     それだけで怪訝そうな表情がぱっと輝いたと思えば、ドアを開けて小走り気味に中へと入っていく。
     その背中に思う。
     君に、選ばれる自分になりたい。
     いつだって真っ直ぐに前だけを見て、すごいパワーで突き進んで難しい道だって苦しみながら努力でつかみ取ってきた彼女が、ふと立ち止まって誰かの手を取るときに、選ばれる自分になりたいと。
     まず、失恋かもしれないと自失しているようではまだまだだろう。
    「うん、頑張ろう」
     気持ちとしては大声で気合いを入れたいところだけれど、それはすでに釘を刺されているし、もうそんな年齢でもないので。
     ひとり胸の中で強く決意をした一也は詩織に続くように中へ足を踏み入れた。



    END
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    DOODLE2017年1月にあったペダル女子プチの記念アンソロさんに寄稿した
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    女の子のプチオンリーが嬉しくて嬉しくて大喜びで女子たくさん書くぞと意気込んだ記憶があります。
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    ktgn_pdl

    DOODLE真波くんは一揉みもしてません!!!!!
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    ひっどいタイトルと中身の差がすごいし色々二人の会話を思い出したくて2年時IH決勝のふたりのやり取り読み返してたらどんどん趣旨がそれました!
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    「ちょっと窓から出入りするのやめなさいって前から言ってるじゃない。落ちたらどうすんのよ!」
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    「今日がいいおっぱいの日だって聞いたら、委員長に会わなきゃって思って」
    「……?」
     一瞬真波がなにを言っているのかわからなくて、宮原は沈黙する。
     聞き間違いかもしれない。
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