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    POIPOI 42

    History4 呈仁CP
    台湾ワンドロ お題・家族

    家族 一日だけって言うお願いなんだけど、とムーレンの様子を伺いつつリーチェンが言う。僕はそんな経験がないし、助けになれないぞ? とランチを食べながら言うムーレンに、まあ大丈夫だろ、とリーチェンは少し困ったように笑う。リーチェンはムーレンと同じく未経験ではあるが、未体験ではないらしい。リーチェンは暫く食べるタイミングを失っていたおかずに漸く箸を付けると、そのまま口に含んだ。
     一日だけ子供を預かって欲しい、とリーチェンがメイファンから相談を受けたのは、つい先程の事だ。来週に遠方の腐女子仲間と会う約束をしており、元々は旦那に子守りを頼んでいたのだが、急に仕事が入ってしまった為、子守をしてくれる人間が居ないらしい。当初、子供を連れて行く事も考えていたようだが、今回腐女子仲間と会う場所が少し遠いという事もあり、連れて行くのは断念したようだ。そこで白羽の矢が立ったのが、彼女の親友であるリーチェンと言う訳だ。
     メイファンとリーチェンは元々幼馴染であり、五年前にムーレンと付き合う切っ掛けになった色々な事件を経て、今ではすっかり親友と言う関係になっている。そして、リーチェンは腐女子会でメイファンの子供と会った事があると言う事と、彼自身が姪っ子の子守をさせられていた事実を知っている彼女にとって、身近で一番頼み易いのがリーチェンだったのである。
    「取り敢えず、一度うちに連れて来て様子を見て欲しいって言っといた」
     ダメそうなら諦めるって、と残りのおかずを頬張りながらリーチェンが言う。折角遠方の腐女子仲間と会えるのだ、ゆっくりとメイファンに会わせてあげたいと言う気持ちがあるのだろう。ムーレンとて、その気持ちが分からない訳ではない。ただ、自分は子供と接した事が皆無だし、リーチェンの力になれないと言うだけだ。さっきも言ったみたいに、とムーレンがコーヒーカップに口を付けた。
    「僕は何にもできないからな、接し方が分からないから怖い」
     うん、分かってる、とリーチェンがナフキンで口を拭った。
    「何年姪っ子の面倒見てきたと思ってんだ、大丈夫だよ俺一人で」
     自由奔放な姉のせいで、と遠い目をして背もたれに背を預ける。リーチェンには歳の離れた姉がいる。相当なキャリアウーマンのようで、子供が産まれた後も弟であるリーチェンや両親に子供を預けて、仕事に没頭していたらしい。そんな彼の姪っ子もすくすく育ってもう中学生になる。
    「あんたは子供一人育てたようなもんなんだから、自分の時はノウハウあるから楽でしょ? なんて、どの口が言うんだっての」
     ぼそりと独りごちるリーチェンの言葉を、ムーレンは複雑な思いで聞いている。リーチェンと付き合って早五年。今でもずっとリーチェンの事は愛しているし、リーチェンも自分を愛してくれている。未来永劫、この関係が続けばいいと思っている。けれど、恋人と言う関係に不安がない訳ではない。それは結婚をすれば解消されるのかと言われれば、そうでもない。異性間ではなく、同性であるが故の不安。リーチェンと付き合ってからずっと考えないようにして来た事実。それをリーチェンに問う勇気は、まだムーレンにはない。

     メイファンがムーレンとリーチェンの家に子供を連れて来たのは、彼女がリーチェンに相談をしてから数日後の事だった。メイファンに連れられてきた小さな女の子は、リーファと言った。初めて来る家に、少し緊張しているようだ。メイファンのスカートを掴んだまま、彼女の後ろに隠れている。リーチェンはリーファの目線に合うようにしゃがむと、こんにちは、と目尻を下げた。その様子を警戒する様に見ていたリーファだったが、リーチェンの顔を思い出したのだろう、ぱっと表情が明るくなり、メイファンの背後から出てリーチェンに抱きついた。その様子に安心したリーチェンはそのままリーファを抱き上げる。
    「リーファはイケメンの事はちゃんと覚えてるんだもんな」
     そう言ってくすぐる様に彼女の頬に自分の頬を寄せると、きゃっきゃと笑い声が聞こえる。その様子に、流石リーチェンね、とメイファンも満足そうだ。その一部始終を見ていたムーレンは、リーチェンが言っていた事が大袈裟なものではないと感心した。リーチェンは元々子供が好きなのもあるのだろう、リーファと接する彼はとても楽しそうだ。きっと、メイファンがいない一日は、リーチェンも楽しんで子守をするに違いない。
    「ほらリーファ、後ろの美人さんがトントンだよ」
     急にリーチェンとリーファの視線を感じ、ムーレンは焦ったように瞬きをした。何かを言おうと思うが言葉が出てこない。ムーレンが言葉を発する前に、リーファが、トントンこんにちは、と小さく言った。トントン、リーファでさえ挨拶したぞ? と揶揄う様に言うリーチェンを一瞥して、漸くの思いで、こんにちは、と声に出す。これなら有名企業の社長に会って話する方が緊張しないな、と心の中で溜息をついた。子供は嫌いな訳ではないが、接し方が特殊すぎる。リーファを預かったとて、自分は本当に何も出来ないな、と再確認したムーレンは、お茶を用意すべくキッチンに向かった。
     リーチェンとすっかり仲良くなったリーファは、無事リーチェンに預けられることになった。当日、沢山のおもちゃと一緒に家を訪れたリーファは、リーチェンの顔を見るなり駆け寄ってリーチェンに抱きつく。リーチェンもよく来たな、とリーファを抱いた。
    「リーチェン、リーファをよろしくね」
     メイファンはそう言うと、リーファの頭を撫で、ママがいなくても大丈夫よね? とリーファにも問う。リーファはリーチェンの首に腕を回して、リーチェンがいるから平気! と嬉しそうだ。メイファンは安心したように頷くと、家を後にした。
     ムーレンが玄関に置きっぱなしになっているリーファのおもちゃ達を居間に運ぶと、もう既にきゃっきゃとリーチェンと遊んでいるリーファがいる。そして、ムーレンが持ってきたおもちゃの存在に気づくと、がさっと袋の中身をぶちまけた。リーチェンと遊ぶからいっぱい持ってきたよ、と得意げだ。そんなリーファの様子に、リーチェンも、じゃあ何して遊ぼうか、とおもちゃを手に取る。そんな二人の姿を見ながら、ムーレンはダイニングチェアに腰掛ける。リーファの面倒はリーチェンに任せて、自分はゆっくり本でも読んでいようか、と本を開いた瞬間、トントン! と可愛らしい声が響いた。
    「トントンもおままごと、一緒にするの!」
     そう言ってムーレンに駆け寄ると、ムーレンのズボンを引っ張る。まさか自分が遊ぼうと誘われるとは夢にも思っていなかったムーレンは、咄嗟の事に一瞬固まってしまった。そんなムーレンに構うこともなく、リーファは早く早く、とムーレンを急かす。助けを求めるようにリーチェンに視線をやると、もう観念しろ、とでも言いたげに笑っている。ムーレンは小さくため息をつくと、重い腰を上げた。リーファに、ここに座って、と言われるがままに座ると、そこには小さなキッチンのおもちゃや食べ物のおもちゃが所狭しと並んでいる。一体どんな遊びが始まるのかと戦々恐々としていると、はい、と小さなお皿を渡された。
    「ママはリーファ、パパはリーチェン、トントンは子供ね」
     そう言ってリーファがおもちゃの食材を使って料理をし始める。器用に食材を切っている姿を見て、トントンより料理が上手かもな、とリーチェンが笑った。お前の為に料理下手な僕は頑張って料理を勉強してるんだぞ、と言う言葉をグッと飲み込む。……子供と張り合ってどうするんだ、全く。暫くして料理ができたのだろう、ムーレンとリーチェンのお皿に食材が乗せられた。さあどうぞ! と言われるも、どうしたら良いのか分からずじっとしていると、隣から小さな声で、食べる真似、と聞こえた。リーファの視線を一身に受けているムーレンは、恐る恐る食材を手で掴み、食べる真似をした。
    「トントン! だめでしょ手で掴んじゃ!」
     隣で、ぷっと吹き出す声が聞こえた。子供のおままごとは自分の家庭を模していると言う。きっとリーファもこうしてメイファンに怒られているに違いない。ムーレンも思わず笑うと、フォークとナイフを頂戴、と言った。もしうちに子供がいたら、外で自分やリーチェンの真似をして笑われているに違いない。そう思うとなんだかほっこりとして、なんとも言えない気持ちになり、リーファの一挙一動がとても愛らしく思える。彼女は無意識に自分にとっての幸せな家庭を演じているのだ。ムーレンは堪らず、リーファの頭を撫でた。
     お腹すいた、と言うリーファの言葉で時計を見ると、もう午後三時を回っている。ホットケーキ焼いてあげようか、と言うムーレンの言葉に、リーファが嬉しそうに頷く。ムーレンは、待っててね、と言うとキッチンへ向かった。リーファの為にと材料を用意していたのだ。ムーレンが一人で準備していると、軽い足音がしてムーレンの足元に小さな気配がした。
    「ねぇ、トントンはリーチェンのママなの?」
     リーファの突然の問いに、ムーレンは意図を図りかねる。きっとリーチェンが何か言ったのだろうが、自分はリーチェンの母親ではないし、なんと答えて良いのか分からずに黙ってリーファを見つめていると、リーファそうじゃないよ、とリーチェンが彼女を抱き上げた。
    「俺がパパで、トントンがママなんだよ、分かる?」
     そう言うと、リーチェンがムーレンに軽く口付けた。咄嗟の事に驚いたムーレンは思わず後退り、子供に何てもの見せるんだ、と口をついて出そうになったが、納得したようなリーファの表情に口をつぐんだ。リーファのパパやママもするだろ?とリーチェンが言うと、うん、とリーファが元気に返事をする。
    「なーんにも間違ってない、な?」
     まるでムーレンの気持ちを見透かしたように微笑むリーチェンに、心が締め付けられる。
    「じゃ、今度はリーファがリーチェンとトントンの子供になってあげる」
     そう言ってはしゃぐリーファに、ホットケーキ食べてからな、とフライパンの中のホットケーキをひっくり返す。ふわりと広がった優しい甘い香りが、なんだかとても幸せに感じられて、ムーレンは軽く目を閉じた。

     メイファンがリーファを迎えに来たのは、日が暮れてすぐの頃だった。腐女子仲間と思い切り語り合って来たのだろう、未だ興奮冷めやらぬ感じだ。リーファと言えば、まだリーチェンやムーレンと遊び足りない様子で、おもちゃを片付けるのを嫌がっている。
     何とかリーファを宥めてメイファンが帰路に着いたのは、彼女を迎えに来てから2時間余り経った頃だった。二人を玄関で見送り、戻ってきたリビングは先程の騒しさとは異なり、心なしか寂しげな気がする。ムーレンはソファにどさりと座ると、そのまま身体を預けた。続いてリーチェンも、子守一日お疲れ様、と隣に腰を下ろした。初めの頃は、リーファにどう接したらいいか分からず戸惑っていたが、時間が経つに連れ遊び方のコツも掴み、それなりに遊べていたと思う。リーファも何となくは懐いてくれたようだ。
     心地よい疲れがムーレンを包む。ふと伸ばした指先に、何かが触れた。そっと手繰り寄せると、袋に詰め忘れたのだろう、リーファのおもちゃだった。ムーレンはそれを手に取ると、ゆっくりと撫でてみる。おままごととは言えど、あの瞬間僕らは小さな家族だった。愛するリーチェンと、愛する僕らの子供。何ものにも変え難い、幸せの瞬間。家族である幸せとは、きっとあの様な瞬間の事なのだと思うと、身体の奥から滲み出た暖かいものが溢れてくる。ムーレンは思わず隣に座っていたリーチェンを抱きしめた。
    「トントン、何泣いてるの?」
     リーチェンの手が優しくムーレンの髪を撫でる。
    「……お前がいて、リーファがいて、本物では無いにしろ、自分の家族がいるってこんなにも幸せな事なんだなって」
     何も悲しい事など無い。幸せの余韻が溢れ出ているだけだ。陽だまりのように優しい、それでいて、幸せなのに何故か切ないような気持ちが、ムーレンの瞳から流れ落ちる。それと同時にずっと考えない様にしていた事も思い出さざるを得ない。ムーレンでは、リーチェンに子を成してやる事ができない。永遠に、異性間の様な幸せを、リーチェンに与える事が出来ないのだ。愛しているから、与えたいから、それが出来ないが故のどうにもならないもどかしさが心の奥底で燻って、消える事はない。
    「でも僕は……世間では当たり前の幸せを、お前にあげることができないんだ」
     ムーレンの髪を撫でていたリーチェンの手が、そっとムーレンの背に回り、そのまま抱きしめる。そして、俺が何も考えてないと思ってた? と優しく囁いた。
    「トントン、俺と家族になろう」
     リーチェンの言葉に、ムーレンは思わず顔を上げた。驚きを隠せない表情のムーレンが、リーチェンの真摯な瞳に映る。
    「俺は何があろうとお前と添い遂げるつもりでいるし、お前以外と家族になろうとは思わない。お前と家族になって、誰にも負けないような幸せな家庭を築くつもりでいるよ」
     ムーレンは瞬きを忘れたかのようにリーチェンを見つめ、彼の言葉を聞いている。
    「勿論、俺たちの子供も欲しいよ。今の法律じゃなかなか難しい所もあるけど、方法はいくらでもある。当たり前の幸せを、俺たちだって手にする事は出来るんだ」
     俺たちの子は一度に二人のパパとママを手に入れるんだ、物凄いラッキーだよな、と笑うリーチェンに、どんどん視界が滲んでいく。
    「僕も……リーチェンと家族になりたい」
     嗚咽と共に口にした言葉は、上手くリーチェンに聞こえたかは分からない。けれど、ムーレンを抱く腕がさらに強くなった事で、ちゃんと伝わっているのだと感じる。ムーレンはそのままリーチェンの胸に顔を埋めた。リーチェンの何もかもが愛しい。ムーレンを包む暖かさ、そして彼の心地良い鼓動さえも。かけがえの無い、僕の半身。
    「俺の愛するトン・ムーレン、俺を選んでくれて、家族になってくれてありがとう」
     彼の言葉に再び顔を上げると、満面の笑みで迎えられる。けれど、その笑顔とは裏腹にリーチェンの瞳からは止めどなく涙が溢れていた。ムーレンは指で涙を拭ってやると、泣くか笑うかどっちかにしろよ、微笑んだ。
    「シャオ・リーチェン、僕が一生幸せにしてやるよ」
     愛してるよ、と言う言葉は、リーチェンの唇で塞がれた。全ての言葉に誓いを立てるような、柔らかい口付けを何度も交わす。どんな言葉より口付けだけでお互いの気持ちが通じ合う。彼の言葉や想いで、どれだけ救われた事か。ムーレンのネガティブな思いなど、リーチェンはいとも簡単に吹き飛ばす。そして何事もなかったかの様に、ムーレンの手をしっかりと繋いで歩き出すのだ。彼と一緒にいれば、きっと幸せになれる。そんな確信にも似た想いがムーレンを満たす。そして自分も、リーチェンの支えとなり彼を幸せにするのだ。彼と繋いだ手は絶対に離さない。そして、これから迎えるであろう、小さな手も。
     これからずっと、一緒に歳取って行こうな、と言うリーチェンに口付けで返事をする。勿論そのつもりだ、と言う想いを込めて。
     ムーレンを抱き直し、さて明日は宴会だな、と言うリーチェンに、なんでそうなる? と問い掛けると、さも不思議そうな顔でリーチェンが口を開いた。
    「いや、なんでって、俺とお前が家族になるって決まったんだから、友達呼んで大々的に結婚報告って流れだろ、どう考えても」
    「大々的にはしなくて良いだろ別に……メイファンとシンスーに言うぐらいで」
     リーチェンの提案にあまり乗り気ではないムーレンの言葉に、何言ってんだ、とリーチェンがムーレンの肩を掴んだ。
    「俺とトントンの結婚だぞ!? こんなめでたい事を周知しないでどうする!!」
     リーチェンはそう言って自分の携帯を取る為にソファから立ち上がった。きっと親しい友人に明日のアポイントを取るのだろう。どれだけ嬉しいんだあいつは、と思う反面、自分自身も思わず顔が綻んでしまう。これから二人、若しくは三人で新しい家庭を築くのだ。幸せな期待でワクワクしないはずはない。もしかしたら、リーチェン以上に自分の方が嬉しいのかも知れない。その証拠に、頬はずっと緩んだままだ。
    「お前のそう言う所も大好きだよ」
     こそりと呟いた言葉は、リーチェンには届いていないだろう。ムーレンは、慌ただしく友人達にメッセージを送るリーチェンを手伝うべく、ソファから腰を上げるのだった。
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