空閑汐♂デイリー【Memories】30「お嬢、他には何か見たいものあるか?」
柔らかな声がハンナ・シェルツに降り注ぐ。幼い頃に一度だけ出逢った初恋の人は、優しげな笑みを浮かべてシェルツを見つめていた。オジョウ、というシェルツからしてみれば異国の響きを持つ言葉でシェルツを呼ぶその人は、彼女の最短最速で始まり終わった初恋を知ってか知らずかこうして時折シェルツを連れ出し積極的に財布になろうとする。
「見たいものあるって言ったら、アマネさんまたすぐ買ってくれちゃうじゃないですか……!」
「まぁな。何か楽しくなってきて」
「その財布はヒロミさんに開けて下さいよ……」
「正直あっちはネタ切れだ。お互いあんまり物欲ないからなぁ」
地球に帰った時ツーリングする為にヒロミの分もバイク買ったら怒られてな。重ねられた汐見の言葉に思わずシェルツは頭を抱えていた。普段散財しない上に、危険手当だの飛行手当だのが加算されてそこそこの高給取りである汐見は堅実な貯蓄をしているらしい。らしいというのは、シェルツに対する財布の紐の緩さを見ていると信じられないので。
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