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    レンタル彼氏、テーマパークでデート!!

    レンタル彼氏4 魏嬰とテーマパークに行こうと約束した日から三週間後。私は魏嬰を一日貸し切って本当にテーマパークのゲート前に立っていた。
    「おはよう、藍湛」
    「あぁ」
     時間は朝の九時。一日貸し切る際には規定の十一時からという時間を前倒し出来る。
     だから、開園時間の少し後に待ち合わせたのだ。
     窓口でチケットを二枚買い、一枚を魏嬰に渡す。
     ゲートをくぐれば、拓けた広場。あちらこちらが花で彩られている。
    「ここ、時間によって色んなキャラクターが写真撮らせてくれに来るんだよ。一応規則的らしいけど、俺は詳しくないからどのタイミングかは判らない」
     カラカラと笑う魏嬰に、そんなことはどうでも良い……とは胸の裡でだけ。
     さ、行こっか、と園内の中央を指差す魏嬰に、私は頷いた。
     入り口から園内の中央に出るまでのメインストリートは大きなショッピングモールになっている。魏嬰は左右に並ぶ店をキョロキョロと見渡しながら、あ、確かあこそだ、と顔色を明るくして私の袖を引いた。
    「最初から土産を買うのか?」
     私の疑問に、まさかと笑う魏嬰。
     こっちこっちと連れて行かれたのはキャラクターの耳が付いたカチューシャや、帽子が売られているコーナーだった。
    「これこれ。折角着たんだから定番だよなー」
     うーん、と腕を組み品定めをする魏嬰。数分その姿を見ていたら、魏嬰は並び置かれたカチューシャのひとつを手にして、私の頭に乗せた。うさぎの耳に貝殻が着いているものだった。
    「これが良いな。メインキャラの季節限定カチューシャ」
    「……私は、」
    「嫌か?」
     下から顔を覗き込んでくる仕草はあざとく狡い。
     恋心までをも寄せている相手に嫌かと問われて頷ける訳がない。
    「俺はー、対になる方。女の子キャラだけど、ま、藍湛と対の方がデート感増すしな」
     そう云って同じようにウサギの耳に貝殻と、水玉模様のリボンが着いた耳を付けて、似合うか? なんて微笑まれる。
    「……似合う」
    「そりゃ良かった」
     んじゃあ、これふたつ、と自分と私の頭から外したカチューシャを握らされる。
     デートの際の交際費はすべて客持ちだ。
     会計でタグを切ってもらってそのまま耳を付けて店を出る。
    「藍湛、今日は見事に白ウサギだな」
     魏嬰がそう云って笑ったのは、私が今日白いセットアップを着ているからに違いない。
     因みに魏嬰は黒いオーバーサイズの半袖パーカーとベージュのハーフパンツにハイカットスニーカーといった装いだ。
     あとはー、アレが必須だよなと私の袖を引く魏嬰が目指したのは、メインストリートから出て少し左手に進んだ場所にあったワゴンカーだった。
     甘い香りをふわふわと漂わせているそれはポップコーンのワゴンカー。
    「ここまで来たならやっぱり限定バケット買わなきゃ勿体ない!」
     そう云ってワゴンカーの向こう側に居る女性に「これひとつ」と注文する魏嬰。慌てて財布を取り出す。
     甘い香りを目一杯詰め込んだバケットを受け取った魏嬰はちら、と私を見てからにやりと笑ってそれを私の首にぶら下げた。
    「魏嬰っ」
    「耳付けてポップコーンのバケットぶら下げた、いかにも浮かれてますー、みたいなのが藍忘機だなんて誰も思わないだろ?」
     ましてやサングラスもマスクもしてるし、これなら誰も気付きやしないって、とカラカラ笑う魏嬰は至極楽しそう。
     はぁ、と肩を落としつつも云われてみればそうだなと納得して私は首に掛けられたバケットの紐の長さを調節した。
     あの乗り物はファストパスを取っておいた方が良い。あっちは少ししか並ばないから大丈夫。ファストパスの時間が来るまではあっちの乗り物に乗ろう。
     こなれたペース配分は元来の性格からくるものなのか、それとも度重なる客相手で覚えたものなのか。後者だとしたら少々苦い気持ちになる。
     だがしかしそんなことをいちいち気にしていたら折角の魏嬰との時間が楽しめなくなる。
     今日の魏嬰は私だけのものなのだ。そちらに喜びを向けるべきだ。
    「藍湛は、こういうとこ興味なかった?」
     乗り物の待ち時間に問われ、うんともいやとも云わずに口許に手を遣る。
    「ただ、今まで来るような機会がなかっただけだ」
    「そうか。なら良い思い出作りしていかないとな!」
     また来たくなるようにってさ。
     魏嬰の顔からは朝からずっと笑みが絶えない。
     最初は穏やかな乗り物が多く、絵本の世界をゆったり動く乗り物に乗って眺めたり、世界中の衣装を纏った人形が並んだ展示の中を船で眺めたりするアトラクションを堪能した。
     それらをひと通り消化したら、魏嬰はこれからが本番だと足取りを弾ませて四十分待ちの列の後ろにくっ付いた。
     隣に並ぶ私のバケットからポップコーンを口に運ぶ魏嬰。
     食べるのならお前が持っていれば良いのでは? と云ったら、だからカモフラージュだろ、と魏嬰は肩を揺らした。
    「ほら、藍湛も食えよ。案外美味いぞ?」
     むぐ、と唇に押し当てられたポップコーン。キャラメルの甘い味が舌先をつついた。
     そこから三連続絶叫マシーンに乗せられた私は「次は〜」と軽い足取りの魏嬰の背衣を摘んだ。
    「魏嬰、少し休憩しないか」
    「何だよ藍湛、あれくらいの絶叫マシーンで疲れたのか?」
     だらしがないなと嫌味のない冗談をぶつけられ、それでも彼は空いているベンチを見付けてそこに私を座らせた。
    「メインの絶叫マシーンは今ので終わりだから、後はゆっくりのんびり回ろう」
     私の隣に腰を落として、うーんと大きく体を伸ばす魏嬰。
     パレードとかショーとか、藍湛の仕事の参考になるかな? と問われ、なるかも知れないなと頷く。
    「パレードは、まぁ俺たちの身長なら場所取りしなくても遠目から見れそうだし、出会したら見ることにしよう。ショーは時間が決まってるから、一応調べないとな」
     そうぶつぶつ云いながらゲートで貰っていたパンフレットを広げる魏嬰。
     幾つかある中のショーの時間を確かめて、これとこれが見れそうだと私にパンフレットの紹介文を見せてきた。
     朝から動きっぱなしの一日はしかし疲労を感じない。
     それは偏に一緒に居るのが魏嬰だからに他ならないだろう。
    「藍湛、藍湛」
    「なんだ?」
    「俺、勝手に夕飯のレストラン予約しちゃったんだけど、良かった?」
     事後報告で良いも悪いもないだろう。それに魏嬰が私と過ごす時間に計画を組み立ててくれたのだったら大歓迎だった。
     構わないと瞬きをすれば、良かったと魏嬰が肩を揺らす。
    「俺実は入ったことないレストランでさ」
     いつも予約いっぱいで。今回念願叶って予約が取れたんだよ、なんて云う真偽は判らない。
     だが、レストランに入って店内をぐるりと見渡したり、メニューを真剣な眼差しで見詰める様子を鑑みるに、恐らく本当なのだろうと思った。
     そのレストランはアトラクションの中洲にテーブルが並ぶレストランだった。
     さっきアレ乗っただろ? と云われて、あの時見えたレストランはここだったのかと合点する。
     このテーマパークで酒類の販売はない。
     それが少し残念だとぼやきつつ、魏嬰は肉料理をつつきながらアップルソーダのグラスを傾けた。
     閉園時間は二十二時。
     二十一時頃にはテーマパークを出ようかと思っていたが、魏嬰が最後まで居ようと私を引き止めた。
    「最後、花火が上がるから」
     それ見て帰ろうと云われてしまえば、私に拒否権はない。
     折角だからと菓子類の土産を買ってから、園内中央の尖塔が幾つもある城がよく見える場所を陣取って暫く立ち話に興じる。
     バン、ババン、と唐突に鳴り響いた花火の音。
     城を彩るように大きな花火が幾つも上がる。
    「藍湛っ、」
    「う、ん?」
     名前を呼ばれたと同時に腕を組まれて彼共々反転させられる。
     顔の斜め上に翳されたのはスマートフォン。
     カシャリ、とシャッター音が響いた。
    「よし、上手く花火が入った!」
     ほら、と見せられたディスプレイには花火をバックにした私と魏嬰のツーショット。
    「携帯では送れないけど、プリントは出来るから、今度会う時にプリントアウトして行くな」
     極々自然に彼の口から『今度会う時』という言葉が出たことに心が弾む。
     帰りの電車は当然の如く満員で。
     私は特に意識もせず魏嬰を人混みから守るように立っていた。
    「紳士だよなぁ、お前って」
     魏嬰は人混みの中では私の名前を呼ばなかった。
     それが私の身バレを防ぐ配慮だとは考えるまでもない。
    「あーあ、一日早かった!」
    「……私もだ」
    「初めての経験はどうだった?」
     悪戯に問われ、淡く笑む。
    「お前と一緒だったから楽しかった」
     飾らない言葉で返したら、魏嬰は満面の笑みを浮かべて私の革靴の爪先を軽く蹴った。
    「お前にそう云われたら勘違いしそうだ」
     何が? と問うより先に電車が目的地に辿り着く。
    「来週、予約入ってるよな」
    「あぁ、入れてある」
    「楽しみにしてる」
     にっ、と歯を見せて笑う魏嬰は、一瞬だけ私の指先に指先を絡めてからじゃあ、と背を向けた。
    「またな」
    「あぁ」
    「気を付けて帰れよ」
    「お前こそ」
    「俺は大丈夫だよ。じゃあ」
     また、と繰り返して魏嬰は人並みの中に消えて行った。
     一瞬だけ絡まった指先を口許に持って行く。
     そこは火傷でもしたかのようにヒリヒリしていた。
    「また、か」
     その「また」が私だけのものになれば良いのに……などと思うのは浅ましいだろうか。
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