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    umeno0420

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    [どっかの時空(お互い30歳過ぎくらい?)で寄席の場をポケモンバトルだと勘違いしているペースと距離感と荒らし方で全国漫遊しながら噺をかけるふたりの話]

    #あかね噺
    #阿良川あかね
    #阿良川魁生
    #桜咲朱音
    #朱魁

    ここは花道、また来て奈落冗談のように美しいおとこだと思った。どこかでズルでもしているみたいに。

    初めて会ったとき、ほんの一瞬だけそう考えたことを思い出す。あっという間に覆された第一印象だったから、今まですっかり忘れていた。忘れていたから、目を奪われてしまった。だから私は、壁に貼りたくられたポスターをただ見つめる。

    写真の中でゆらりと微笑む彼は、すっかり一般名詞として膾炙された顔をしていた。印刷されているからだろうか。切り上がった目尻だって、人に害のないようすっかりやすり掛けされて見える。春の訪れを囁く淡い髪色に、濤乱刃の虹彩。脱色された皮膚の上で、持ち上げられた唇の端にだけ赤が滲んだ。赤だ。その色はほんの少しだけ意識をささくれ立たせるけれど、それだけ。殺傷能力なんてとんでもない。

    ここにあるのは無害な虚像だ。いくつものレンズとたくさんの眼差しによって濾過されたそれは、正しく鑑賞されるための彼の姿だった。

    ズルでもしているみたい。今はもう、そんなことは思わない。いっそズルでもしていた方がまだ良かったなァ、なんて、甘ったれた感慨が脳裏を過った。本当は良いことなんて、ひとつだってないだろうに。

    「見惚れてくれてるんだ」

    男がいると、知っていた。振り返りもせず、私は応える。

    「はい。写真だと、綺麗なお顔に見えますね」
    「それはありがとう。実物は?」

    開演前の楽屋裏。人通りは絶えて久しい。どこにも観客もいない薄暗い廊下を、男がひとり、塗り替えた。

    「倒し甲斐のある顔」

    阿良川魁生が私を見る。

    だからここは、地獄の花道。

    よれたビニル皮の床は、山と積まれた骨の白。天井で、古ぼけた電熱灯がジィと鳴いた。それはまるで、焼かれるために飛んだ蠅が死ぬ音のようだった。舞台上のスポットライトには存在し得ない、炎に似た揺らめきを抱く光。けれど、だからこそ、この灯こそが今の私たちに相応しい。焦げて、焦がれた、世間様に笑われる愚かしいものどもを、芸事に身投げした私たちを照らすのに、うってつけ。

    ぬるい業火の下で彼は、煙草を吐き捨てる仕草で嘲笑した。ぎらり。虹彩の刀身が光を帯びる。ひずんだ唇の陰で、糸切り歯が黒く塗りたくられた。ぐいと引き絞られる目尻は何を動力としているのだろう。悋気だと嬉しい。今の私ならそれくらいしてもらえると、自惚れても良くないかな。

    「誰に口、利いてるんだか」

    彼のまとう羽織の裾は落ち沈み、緞帳のように強制的なおしまいを示唆した。嫋やかでありながらも優しさは駆逐された撫で肩。顎は既に引かれている。それはまあ、受け身の基本ではあるけど。春の花を散らすように私の髪の毛先まで眺めて、ぴたりと彼の目が据わる。こちらを見て、必ず殺してやると突き付ける瞳。石突きのない片刃は振りかぶられ、ただ私の喉へ狙いを定めた。光栄なことだ。光栄なことでしょう? いちばんに喉を、私の言葉を奪うと示してもらえたのだから。だから、笑う。

    「私の噺に目をかけてくれた人に、です」

    今、丸くなった、彼の瞳がいっとう好きだ。

    正しく研磨された刃物の両目。芸事に魅せられて、これまでにどれほどの熱を帯びてきたのだろう。幾人の観客を、落語家を刺し殺してきたのだろう。何度限界を超えて叩き延ばされたのだろう。いつから天秤じみた底冷えを湛えているのだろう。

    どうやったら、私だけを見てくれるだろう?

    なんて、答えはもう分かっているのだ。だから挫かせたいと思う。膝をつかせたら、背の高いこの男は私を見上げる。彼の運命を切り替えた師匠よりも、同率を煽り立てられる男すらも忘れて、きっと私だけを見る。でもどれだけ圧倒的に負かしても、絶対に惚けた顔はしないんだろうな。彼は抜き身の刃に似ているけれど、折れても曲がってもそれを肥やしとすると知っている。というか、そうでなきゃ倒し甲斐がない。

    「あァ、そう。確かに僕は、芸を見る目は昔からあったんだ」

    負ける気はない、なんてもう眠たい。お前を取り殺してやると望まれたのだ。ならば、それ相応のもので応えなければ。

    いい加減、と彼は言う。今日こそは、と私は応える。

    「死んでおくれよ、あかねちゃん」
    「殺してあげます、魁生兄さん」

    奈落に落として差し上げましょう。そのときの私は微笑みながら高座に座り、舞台袖から落ちていくあなたを見つめる。数多の噺のなかで情欲に溺れた阿呆共よりずっと熱心に、一心に、本当の恋でもしているように。

    だからあなた、いつまでも、私を殺しに来なさいね。


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    umeno0420

    DONE※タグ、キャプションをご覧の上、ご閲覧ください。
    帝襟アンリさんが「元々私はなでしこジャパンに憧れてサッカー始めたんですけどやっぱり日本って女子サッカー界のクリスタルトーキョーになるべきでは?」「アンリちゃん、今の子はセーラームーン知らないよ」と言い出した感じでブルーロック内の男女比が240:60になっています。
    りんばち♀で未来捏造で同棲です。
    愛されてるって当たり前!たくさんおしゃべりがしたいなら、小さめの手仕事をもっとたくさん用意しなさい。

    そう教えてくれたのは優だった。だから今日の夕飯は、手作り餃子にすると決めたのだ。なんでって、凛ちゃんが久しぶりに日本へ帰ってきたからである。

    ブルーロックとかいうイカれたフットボールデスゲーム施設で、私と凛ちゃんは出会った。そうしてたまたま踏んだ影の寂しさがほんのり重なったことをきっかけに、私たちはどうにも絡まってしまったようだ。ぐにゃぐにゃのままお互いの手を掴んでみたり、間違えた片結びでみんなをたくさん振り回したり、最終的に国境を何度も超えてターンしたり! めちゃくちゃに転がり回った末に、彼が私を捕まえた。

    ここ数年は私が日本のチームでプレイしていて、凛ちゃんはヨーロッパリーグのあちこち武者修行中だから、凛ちゃんのオフシーズンだけ日本で一緒に暮らしている。そして今回のお休みのため、昨日の深夜に帰ってきたところ。移動の疲れと時差ぼけでとろけた凛ちゃんをお布団で包んだとき、明日は餃子を作ろうと決めた。
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    umeno0420

    DONE※※※ 一切合切あなたの自己責任においてご閲覧ください ※※※

    夭折したミヒャエル・カイザーの天文学的遺産を相続した潔世一が、それを元手に社会貢献活動をすると決める話。ビジネスフレンド出演、御影玲王。

    作中の相続に関する描写は全てフィクションです。現実の法制度等には一切準じておりません。予めご承知おきください。

    2ページ目は付録です。
    地獄の沙汰まで余らせないミヒャエル・カイザーが死んだのは、彼が現役を引退した1年後のことであった。

    世間には病死であるとだけ発表されたが、正確に言うならば癌だった。発見されたときにはもう全身くまなく転移しており、緩和ケア以外の治療の選択肢がほとんどなかったという。本人から聞かされた話だから、多分本当のことだ。

    「この癌といや遺伝的形質を持つことで有名だが、あいにく俺の親戚は癌になるほど長生きしないクズばかりでな。お陰で気づくのも遅れてこのザマ」

    昨年に行われたカイザーの引退試合はそれはもう華々しくて、いや本当これでサッカーを辞める選手とは思えないほど悪辣で元気いっぱいだった。相手チームの心をベキベキにへし折りながら当然のように勝利し、やつはピッチの上を去った。マスコミもコーチ陣もチームの運営もみんなして引退の理由と今後の予定を尋ねたが、カイザーは決してまともな返答をしなかった。やけに芝居がかった台詞で、きっぱりと未練がないことだけを語っていた。
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