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    umeno0420

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    #Fate/GrandOrder
    #ビリー・ザ・キッド(FGO)
    billyTheKid

    生者の為にこそ在れ21人殺して、21で死んで、僕は物語に為った。
    枯れた供花。廃れた御伽話。擦り切れた毛布。
    全てがすべて、生きとし生けるもののために。


    #


     さて、砂嵐である。

     僕が意識を取り戻しすと、そこは荒野であった。しかも間の悪いことに砂嵐の気配がする。だからまあ、こんなことわざわざ考えるまでもないんだけど、マスターと分断されたみたいだ。おかしいな。一瞬前まで戦間期の西欧の墓地にレイシフトしていたはずなんだけど。ああでも、今回の敵は幻覚を使う可能性があると聞かされていたっけ。それじゃあ考えたって仕方ない。なんて、僕も魔術とかいう神秘主義に随分と毒されてしまったものだ。

     そう。僕はもう、後手に回されている。もはや意味のない呼吸を意識して行う。幸い今回は僕以外にもサーヴァントは同行している。それこそ魔術に明るいヒトもいた。だから、逸るな。意識して、息を止める。肋の浮いた犬のように駆けて、いたずらに投石で殺されたくなければ、機を伺え。息を吐く。どうせ僕には、ひとりで戦況を変える力もないのだから。意識して、息を、吐く。

     ところで、こんな言葉を聞いたことがあるだろうか? 砂嵐に、足を止めてはいけない、と。

     霊体化することも考えたけど、敵には既に補足されているのだから止めておいた。可能な限りきつく、首元のスカーフで口と鼻と耳を覆う。この時に多少の息苦しさなんて気にしてはいけない。でないと砂で溺死しちまう。そもそも生きてないんだから苦しくも死ぬこともないんだけど、それはそれ。まだ吹き飛ばされていなかった帽子を深に被り固定した。そうして足を前に、まあ、足を踏み出した方を前と呼ぶことに決めた。だってこの中で止まっていたらあっという間に石像で、そのまま墓標になるより他にないのだから。

     なるべく静かに足を動かしながら、僕から僕の外へ繋がる血管の気配を探る。体を巡るエーテルの赤を、熱を、ゆっく辿っていく。この身の内にはない、生物の鼓動を。その先にいる、僕のマスターを。

     マスターのことを、考えていた。

     マスターは普通の人間だ。強いて、そう語られるべきだ。

     例えば武器を向けられたのなら、自分も武器を取ることができる。罵詈雑言にはその境遇に至るまの共感と、人倫を礎とする反論を述べられる。八つ当たりの慟哭には人として示すべき同情と、その上でも変わらない結論を手向ける。剥がれかけの爪で善良さに固執しながら、悪逆に目を伏せる甘さは既に摩耗した。己でも掴みきれないところで絶対に譲れないものを定めているけれど、それが目の前に敵として立つものの胸にも同様に抱かれていることを知っている。

     マスターは、理想的なほどに標準化された人間に見受けられる。誰もがかつての自らの姿を、自らの愛した者の姿を、自らの望んだ未来を、その在り方に投影せざるを得ない。まさしく人類のメジアンだ。そのように、鋳造されつつある。いくつもの絶滅が、捨象が、元々の姿を削いだ末として。個性がないのではない。取り零しただけ。

     砂嵐に、足を止めてはいけない。どこへ行くのか分からずとも。

     風が強くなっきたようだ。僕は足を止めないまま周囲を確認する。といって砂に遮られてほとんど何も見えはしないのだけど。砂嵐は今まさ地層にならんと折り重なり、あらる物体の輪郭を食い散らかす。砂粒は装備と思考に存在する隙間とい隙間に入り込み、僅か露出する体表と自我へ貼りつき、前進を諦めここに固着すよう促した。僕は足を止めない。止めらない。だからただ、縁から欠けていく。

     砂嵐。足を、止めてはいけない。億千の砂に鑢をかけられ、記憶は千々に縫合される。砂嵐。足をとられ、耳を削がれ、手を捥がれ、口を塞がれ、自ら閉じた眼の裏のなんと暗いこと! 砂嵐。

     マスターは凡例として挙げるに相応しい人間で、じゃあ、僕はどんな人間だった?

     僕。僕は、ビー、ウィリア、りーで、少年あ、あ? 21でキッドはねえだろ。アメ、ぁめりか、のイプ、る、西部開時代の代表、お仕着せのばかな評価だ。違う足、あしを動かなくちゃ。ここにいてはならない、だって、追手、刺殺した、保安官、射殺、タンスと、やめろやめろやめろ! 砂嵐に、あを止めてはいけない。死神のしの速さを、忘れたわけでないだう。じきこされてしまう、また殺されか、ら? 生きてもいないせに? なそんこと。第一も何も死で、殺れ、いや21で死なきゃ足らな。それ、れがお前、お前のかで、僕、僕ではな英霊の、僕の、僕は。

     英霊に、己など、あるのか?

     僕は、僕を、強いて考えさせられている。無差別たる砂嵐の暴力性ゆえに。理解の、分解のために。

     砂嵐。すなあらし。すならし。すなら。すな。な。なあ。

     僕の血液はブルーブラックのインキ。僕の皮膚は活版に凹まされる前の藁半紙。僕の瞳は感光したナイトレートフィルム。僕の衣服はタブロイド紙の書き割り。僕の髪は銀幕に辿り着く前の映写の煌めき。僕の記憶は誰かの安い寝物語。つまりはソープオペラでパルプフィクションなのだから、他者に顧みられる余地もない。

     僕は伝承。僕は物語。僕は虚構。

     僕は、語られたもの。それこそがこの、ビリー・ザ・キッドの正体だ。

     しまった、答えを得てしまった。結論は終着だ。もう固着するより他にない。進めない。砂嵐に足を止めてしまったから、僕は僕ではいられなくなる。ざらざらと分解する。ばらばらと了解されていく。自我は解かれ、自認は廃れ、自己は塗り潰される。ただの砂へと解剖される。取るに足らない、必要のない、無数に存在する、煩わしい砂粒へ。僕は物語なのだから。ウィリアムとかいう有象無象の生涯を数多の唇が、幾多の指先が、面白おかしく愚かしく転変させた。故にこそ、ここに固有のものはない。遍在するのだから存在に価値はない。だからこそ、僕だけに許された思いなどない。それならば、僕は僕の足をここに留める他にない。

     本当に?

    「ビリー・ザ・キッドは」

     とうに喪った鼓動が、僕の向こうで跳ねる。

     それが僕のものではないことが、ひどく嬉しかった。

    「伝説のアウトローだからね!」

     そう言って君、笑っただろ? ここにいる僕にではないけれど、だからこそ、僕は僕として認められていると思った。思えたんだ。

     ねえ、マスター。僕は、君が物語る、僕に為りたい。

     他人の鼓動が僕の活力。僕の、今ここに在る理由。ああそうだ、ビリー・ザ・キッドは嘘っぱちで、タブロイドの書き散らしだ。でもそんなことが、今ここにあるこの僕の意志に何の関係があるっていうんだ?

     砂嵐に、足を止めてはいけない。纏わりつくもの、追い縋るもの、全てを足蹴に進め。

     悪食の砂嵐の中で目を見開いた。

     そこに額縁が見えたのは、たぶん運が良かっただけ。

     中に収められていたのは、掌ほどの小さな砂絵であった。古ぼけたダイニングテーブルの上で、花束が安置されている情景がひっそりと描き出されている。そういえば、ここは墓地であったか。そんなことを自然と思い出させるような、郷愁と冥福をありったけ託された創作物。窓から差す赤を帯びた光は、朝焼けなのか夕焼けなのかも判然としない。文字通り、どこにも進みきれずに時間は止まった。転じてここにいることを、ここにあり続けることを観測者へと望む描写だった。どこにも行かないでと花は項垂れる。私に寄り添ってと葉は萎れる。死んでほしくなかったのにと硝子瓶はくすむ。いずれも果たされない約束だと、一瞥のうちに理解できた。

     ひとつひとつは、きっと当然の願いだ。死者が向けられるべき、ありふれた感情。けれど墓地に置き去りにされた花束の絵画は、何らかの魔術に中てられたのだろう。だからこそ、折り重ねられた願望の自重で変質した。ヒトを分解し、自らに塗り付けその内に留め置く怪異に。ある意味では、僕とこの絵はよく似ている。栞を挟む余地すらないほど終わってるところとか。だから許せない。許さない。

     僕は輪郭のぼけた左手でコルトM1877を抜く。瓦解しかけのバレル、砂に変わりかけの銃把、けれど引金だけは慣れ親しんだもののままだった。間に合ったのかな。いいや、意地かも。もう眼球すら崩壊しかけているのか、視界はどうにも曖昧だ。それでも目を閉じることは選ばない。銃口を絵画へ向けた。それからひたすらに、僕の外にある鼓動を信じる。赤くて、熱くて、死者だからこそありありと感じられるうつくしさ。生きとし生けるものとの繋がりを辿って、今。

     何にだって、この足を止められてなるものか。マスターはまだ、諦めていないのだから。

    「喰らいな」

     美しかった花束。君は、生者の慰めのためにこそ在るべきだった。


    #


     目を開けば、僕は元の墓地に立っていた。遠くからマスターと、愉快な仲間たちが駆けてくるので大袈裟に手を振った。もみくちゃにされながら聞かされた話をまとめると、やっぱりあのマジカルな砂嵐はサーヴァントを分解して取り込むための魔術だったらしい。中核に据えられたのがあの砂絵。僕が宝具でそれを破壊したから、向こうも僕の現在地を把握できたらしい。というか僕以外はもっと早くに脱出できていた。曲がりなりにも三騎士クラスなんだから対魔力くらいデフォルトで付けておいてくれよな。本当に。

     ともかく大きめの罠は破壊できたので、大元までの道のりも、それの規模も見えてきた。今度はきちんとこちらも結界を張って、敵の本陣へと乗り込むらしい。

     足を踏み出そうとした僕の肩をマスターが叩いた。ひらひらと振られた掌には、いくつもの傷口やひび割れのみたいな壊死の跡が残されている。良かった、もう砂になるのは治ったみたいだねと、マスターは笑った。僕も笑うしかなかった。もうあんなのはこりごりだよ! いや、本当にね。

    「大丈夫だよ、マスター。分解されかけたって捨てられなかったんだ。忘れられない。僕はビリー。ビリー・ザ・キッド 。21人殺して、21歳で殺された少年悪漢王で、それから」

     伝承で、物語で、虚構。それは紛れもない真実だ。誰かに語られるまでもない。自分でちゃんと、理解している。

     だけど僕が僕自身を語るなら、こう言いたいんだ。

    「君の拳銃」

     許してくれるかい。僕の、マスターよ。









    ////////////

    ※一部の脱字は演出です。読みにくくて申し訳ありません。

    祝砲:21より先はなくとも、ただ幸福のために放つもの。

    オンリーイベントをご企画いただきました主催者の皆様、本当にありがとうございます。とても楽しみにしておりました。
    本作がイベントに少しでも彩を添えられていれば、こんなに嬉しいことはございません。

    ということで、本作のテーマは『拳銃と花束』でお送りしました。勝手に。お読みいただきありがとうございました。

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    umeno0420

    DONE※タグ、キャプションをご覧の上、ご閲覧ください。
    帝襟アンリさんが「元々私はなでしこジャパンに憧れてサッカー始めたんですけどやっぱり日本って女子サッカー界のクリスタルトーキョーになるべきでは?」「アンリちゃん、今の子はセーラームーン知らないよ」と言い出した感じでブルーロック内の男女比が240:60になっています。
    りんばち♀で未来捏造で同棲です。
    愛されてるって当たり前!たくさんおしゃべりがしたいなら、小さめの手仕事をもっとたくさん用意しなさい。

    そう教えてくれたのは優だった。だから今日の夕飯は、手作り餃子にすると決めたのだ。なんでって、凛ちゃんが久しぶりに日本へ帰ってきたからである。

    ブルーロックとかいうイカれたフットボールデスゲーム施設で、私と凛ちゃんは出会った。そうしてたまたま踏んだ影の寂しさがほんのり重なったことをきっかけに、私たちはどうにも絡まってしまったようだ。ぐにゃぐにゃのままお互いの手を掴んでみたり、間違えた片結びでみんなをたくさん振り回したり、最終的に国境を何度も超えてターンしたり! めちゃくちゃに転がり回った末に、彼が私を捕まえた。

    ここ数年は私が日本のチームでプレイしていて、凛ちゃんはヨーロッパリーグのあちこち武者修行中だから、凛ちゃんのオフシーズンだけ日本で一緒に暮らしている。そして今回のお休みのため、昨日の深夜に帰ってきたところ。移動の疲れと時差ぼけでとろけた凛ちゃんをお布団で包んだとき、明日は餃子を作ろうと決めた。
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    umeno0420

    DONE※※※ 一切合切あなたの自己責任においてご閲覧ください ※※※

    夭折したミヒャエル・カイザーの天文学的遺産を相続した潔世一が、それを元手に社会貢献活動をすると決める話。ビジネスフレンド出演、御影玲王。

    作中の相続に関する描写は全てフィクションです。現実の法制度等には一切準じておりません。予めご承知おきください。

    2ページ目は付録です。
    地獄の沙汰まで余らせないミヒャエル・カイザーが死んだのは、彼が現役を引退した1年後のことであった。

    世間には病死であるとだけ発表されたが、正確に言うならば癌だった。発見されたときにはもう全身くまなく転移しており、緩和ケア以外の治療の選択肢がほとんどなかったという。本人から聞かされた話だから、多分本当のことだ。

    「この癌といや遺伝的形質を持つことで有名だが、あいにく俺の親戚は癌になるほど長生きしないクズばかりでな。お陰で気づくのも遅れてこのザマ」

    昨年に行われたカイザーの引退試合はそれはもう華々しくて、いや本当これでサッカーを辞める選手とは思えないほど悪辣で元気いっぱいだった。相手チームの心をベキベキにへし折りながら当然のように勝利し、やつはピッチの上を去った。マスコミもコーチ陣もチームの運営もみんなして引退の理由と今後の予定を尋ねたが、カイザーは決してまともな返答をしなかった。やけに芝居がかった台詞で、きっぱりと未練がないことだけを語っていた。
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