むらさきのあめ今日は朝から冷たい雨が降っている。
こんな日に、この屋敷まで出向いてもらうのは悪い気もするが、俺の心は踊っていた。いつもと同じ廊下なのに、夢主の来る日は雲の上でも歩いているかのような気分だ。
夢主は、杏寿郎よりすこし年上の女性。
煉獄家に女手がない事から、月に何度か手伝いに来くれる優しい女性だ。杏寿郎は、そんな夢主に密かに好意を抱いていた。
時折花が咲くように笑ったと思えば、ふと遠くを見つめ切なげな表情をする時がある。しかし多くを語らない夢主をもっと知りたいと思った。
俺ももう大人といえる年齢だが、これまで剣術にばかり没頭しており異性に好意を抱くのは初めての事だ。俺はどこか夢主に子供扱いされている気がする。異性として、男として見られていない。だから、ただ簡単に言葉で思いを伝えるだけでは、夢主には足りないと思う。
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