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    新(あらた)

    @ArataTsusima
    文章描いたり、お絵描きしたり。
    竜仁、たか仁を中心にツシマの仁さん受け書いてます。

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    新(あらた)

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    仁さんとねこの話。
    イキノ譚のフライングで書いておきたかった
    CPなし。

    じんさんとねこ「動けぬでは無いか」


    視線を落とせば、膝の上で眠る仔猫。
    そっと毛並みに沿って背中を撫でてやれば、すべすべでふわふわの感触が剣だこだらけの手に伝わる。

    ああ、あたたかい。

    ふっくらとした体が、緩く上下している。
    そっとなで続けると、何だか自分も眠たくなって来る気がしてくる。
    そもそも、何故仔猫が膝の上にいるのか。
    先程の出来事を思い出す。



    猛る気持ちを鎮める為に尺八を吹くのは常ではあったが、ここ壱岐では時折動物が寄ってくる事もある。
    その都度、触れ合う事で心穏やかになっていたりはしたが、先程現れた仔猫は触れ合った後も帰ることなく、俺の後を何故か着いてくるのだった。
    よちよちとおぼつかない足取りで一生懸命俺の後ろを歩く姿は、何とも愛らしいものではある。
    しかし、このままでは次の目的に行くこともままならない。
    このまま賊にでも出くわせば、あのような小さな体は踏み潰されてしまうかもしれない。
    一緒に行動するのは危険だ。
    俺は適当な石に腰を下ろし、仔猫の方を向いた。
    仔猫は俺の足元にちょこんと座り、こちらを見上げている。

    「おぬし、母親はどうしたのだ」

    みゃあ。

    「俺といると危ないぞ、帰れ」

    みゃあ。

    「みゃあではない」

    みゃあ。


    これは弱った。
    元々話が通じるとは思ってはいなかったが、仔猫は帰る気は無いらしい。
    もしや母猫とはぐれたのか。
    無精髭だらけの顎をさすり、どうしたものかと思案していると、突然子猫が俺の膝上に飛び乗って来た。
    袴越しに伝わる小さな体重。
    落としてはならぬと、太ももを動かさないように一瞬力が入る。
    そんな俺の緊張など露知らず、仔猫は一度欠伸をすると体を丸め、目を閉じた。

    「まさか、おぬし……ここで昼寝をするつもりか」

    ……みゃあ。

    何故か今ようやく会話が成立した気がした。
    それより後は、俺が何を言おうとも仔猫からの返事はなく、すぴすぴと小さく寝息が聞こえるだけだった。
    そうなってしまってはもう、仔猫を起こすには忍びなく。
    俺は静かに体勢を維持し続けることしか出来なくなってしまった。
    ゆっくり毛並みに沿って背中を撫でてやれば、すべすべでふわふわの感触が剣だこだらけの手に伝わる。

    ああ、あたたかい。

    ふっくらとした体が、緩く上下している。
    なで続けると、何だか自分も眠たくなるような。
    このまま眠ってしまえれば、どんなに気持ち良いだろうか。
    仔猫を撫でていると、時間の感覚がどんどん鈍っていく気がする。
    撫でながらふと視線を起こせば、遠くに猫がもう1匹こちらを伺うようにして見ている事に気づいた。
    膝の上にいる仔猫より、明らかに大きい。

    「もしや、この仔猫の母親か」

    思わず声に出すと、猫はゆっくりと、しかし真っ直ぐこちらへ歩いてくる。
    鋭い瞳は、正しく野生のそれであった。
    体勢を低くしながら、猫は先の仔猫と同じように俺の足元に座った。

    「こやつはおぬしの子供であろう? すまぬが、連れ帰ってはくれぬか」

    苦笑いしながら、猫に声をかける。
    眠る子供を起こすのは、動物であろうと人間であろうと気が引けるものだ。
    俺の言葉に猫は低くにゃあと鳴くと、勢いよく膝に飛び乗ってきた。
    先程よりも重い感触。
    母猫は、子猫の首筋を噛んで持ち上げる。
    ああこれでようやく動けるようになると安堵していると。

    「なぜ」

    大きい猫は、小さい猫を包み込むようにして、体を丸めて寝そべる。
    母猫は仔猫の位置を調節しただけで、自分も同じように俺の膝の上で眠り始めたのだった。

    膝上の猫が二匹になった。

    これではますます動けないではないか。
    とりあえず、母猫の背も撫でてみる。
    仔猫と違い毛に硬さはあるものの、これもまた滑らかで良い手触りだった。
    俺は手の甲で口元を隠しながら、小さく欠伸をする。

    「これは……父親が来るまで待たねばならんか」

    困った母子ではあるが、膝に感じる重みと柔らかさが心地よい。
    父猫よ、早く現れてくれ。
    俺が一緒に眠ってしまう前に。


    結局、父猫が現れたのは、日が傾き俺が船を漕ぎ始める直前。
    父猫も同じように俺の足元にやって来て、俺の膝に乗ろうと前足をむずむずと動かしたが、『さすがに勘弁して欲しい』と俺は疲れた笑いを浮かべながら、未だに眠る母子を父猫の横に下ろしたのだった。



    おしまい。
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