そうして、砂漠の大賢者は偉大な王へとなりました。
めでたしめでたし。
へーっと間抜けな声を出しながらカリムがキラキラした目で絵本を見てる。
この本を選んだのは失敗だった。目が覚めてしまったようだ。折角読み聞かせをしていたのにこれではいつまでも家に帰れない。今日は久々に妹もお役目がないから一緒に星を見ようと約束していたのに。
ジャミルは、この今にもランプを探しに行きそうな真っ白な御主人様の従者だ。
御主人様はわがままだ。毎日3つどころか両手で数えきれないぐらい俺がおねがいを叶えてやってるのにまだ足りないなんて。ごーよくな御主人様には現実を分からせないとなと意地悪な気持ちが湧き上がった。
呪文を唱えてランプの魔神が飛び出すシーンを開いて必死に呪文を覚えようとしているカリムのふわふわな頭を押さえつける。
「残念だったな〜カリム。魔法のランプはお伽話なんかじゃない。今だって王様の宝物庫にあるんだ。俺たちには触れられないものだよ」
えーと素直に残念がるカリムの声が心地いい。大体お前がダイヤの原石なもんか!精々親の金で遊んでろ、そうすれば俺らみたいな使用人がああご主人様なんなりとって叶えていくさ。
不貞腐れた気持ちになりながらさてどうやって寝かしつけたものかと思案しているとガバッと文字通り飛び起きたカリムが窓に置かれた金色の水差しに手を伸ばした。
月夜に映える真っ白な袖を手繰り寄せて、まるで宝石を愛でるように水差しを擦った。
冒険心に溢れた瞳で瞬きもせず笑って言った。
「死なない飯が食いたいです!」
元気いっぱいはしゃぐような声音で祈ったそれが何をバカなと言いかけた俺の口を塞ぐ。
その後も、美味しいのがいいとかジャミルも一緒に食べたいとか煩わしい願いを口にしていたが俺の耳には入ってこなかった。
なんでそれを願うんだよ。
願うならもっと別のにしろ。
願うならもっと、悲しそうにしろ。
そう言ってやりたいのに出てくるのは涙だけで、あいつにそれは水差しだとも言ってやれなかった。