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    ネムリブカ

    @oysm_nemuribuka

    深海の片隅で文章を書くネムリブカです。
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    ネムリブカ

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    原作牧台。
    n年後に転生した記憶なしウルフウッドと、最期を迎えるヴァッシュが会う話。

    百万光年先のきみへ やぁ、久しぶり。なんて書くのもおかしいのかな。時間の流れが一緒かどうかも分からないのに。いや、そんなことはどうでもいいか。僕にとっては久しぶりなんだから、こう書かせてもらうよ。
     久しぶり、ウルフウッド。
     改めて手紙を書くなんて変な気分だし、おかしなことをしているって自分でも思うよ。だけど、口にするのもなんだか照れ臭いからさ、こういった形なのを許してくれよ。自己満足だとしてもさ。
     お前が居なくなってから、何年経ったのかな。何十年に一度しか見られない彗星を何回眺めたっけ。流れる星を見る度にいろんなことを思い出すよ。あれも、お前と一緒に見たかったなぁ。知ってるか?お前を埋めた二年後に彗星の周期がきたんだぜ。
     そんなことはどうでもいいか。まずは手紙を書いたわけを話しておくよ。
     墓標代わりのパニッシャーをコンクリートで固めることにしたんだ。なんて言うと、きっとお前は怒るだろうけど。これにも理由があるんだよ。
     今はもう、世界はすっかり平和になって、地球と繋がるゲートも自由に行き来ができるようになった。まだ犯罪率はゼロではないし、武器の個人所有は認められているけれど、ほぼ必要ないと言っていいレベルだ。
     そんな中に、こいつの存在は異端過ぎる。弾も抜いてあるし、武器として扱える人間なんていないけど、一応過去のロストテクノロジーも入っているような代物、政府に見つかったら押収されちまう。
     だから、表面をコンクリートで固めて、本物の墓石にすることにした。お前の相棒だったんだ。墓が残る間は傍に置いてやりたいと思ってさ。
     それで、もうこいつに直接触れることもないのかと考えたら、手紙を書こうと閃いたんだ。いよいよ最後なんだと思ってさ。
     あれから色々あったけど、ふとした時にお前のことを思い出すんだ。今だってそうだ。
     ずっとずっと、そうなんだ。何年経っても、お前のことだけが思い出にできなくて。
     おかしいよな。レムとナイブズと同じように、もう居ないって分かってるはずなのに。振り向いたら居るんじゃないか、角を曲がった先で立ってるんじゃないかって、姿を探しちまうんだ。
     こんなに お前のことが好きだなんて知らなかったよ。
     ばかだよな。年を追うごとに自分の気持ちを思い知らされる。朝が来るたびに打ちのめされるんだ。

     だから、これがいい区切りだと思って。この手紙に気持ちを込めて、一緒に封じることにしたよ。

     たぶん、恋だった。
     ありがとう。

     +++

    「……とんでもないラブレターやん」
     これは読んではいけないものだった、と部屋の隅で古ぼけた紙を両手にした少年は呟いた。
     少年は、牧師の父と、母、弟と共に教会で暮らしている。毎日の日課は正門から始まり、墓場で終わる教会全体の掃除だ。弟と二人で手分けしてやるが、幽霊がどうこうと言って怯える弟の代わりに墓場の清掃を行うのは彼の役目だった。
     年代がばらばらに存在する墓場には何百年も前からあるような墓もあって、その中の一つにやたらと巨大な墓標のものが存在している。二メートルはあるコンクリートの塊でできた十字架と、その下にある、消えかけた十字の刻まれた墓石。
     一際目を引くそれは名前も書いてないが、ずっと大事にされてきたらしい。毎年定期的に花も供えられているし、誰かが手入れもしているようだ。その誰かは、誰も見たことがないが。
     そんな墓を含めて、少年は毎日箒で砂埃を払い、雑草を抜いて清掃をしている。今日も、いつも通りに墓標を順番に竹箒で撫でていると、巨大な十字架のコンクリートが一部欠け落ちた。
     墓石に比べると新しいが、この十字架も相当に古いものである。経年劣化というやつだ、と少年は気にしなかったが、ふと目に入ったものに、次へ行こうとしていた足を止めた。
    「なんや、これ」
     コンクリートの十字架の中に、何かが入っている。十字架の下部なので分かりにくいが、欠けたコンクリートの下に、何か別の素材のものが覗いていた。
    「芯みたいなモンか……?」
     それにしては、なんだか妙な感じがして、少年はコンクリートの中を覗き込む。
    「ん?」
     そうして見つけたのが、古い手紙だった。コンクリートと芯材のようなものの間に挟まれたそれを隙間から引っ張り出すと、宛名は『親愛なるニコラス・D・ウルフウッドへ』となっている。
    「……ワイの名前……?」
     偶然にも、少年の名前は手紙の宛名と同じであった。
     別人だろうとは思いつつも、ニコラス少年はその手紙を自室へと持ち帰り、部屋の隅でそうっと開いたのである。

    「なんか、十字架の中身も武器っぽいこと書いてあったし、絶対これ読んだらアカンやつやったやん」
     見なかったことにしよう、と決めたニコラスは、手紙も元の場所へと戻すことにした。
     そして翌日、清掃のついでに戻そう、とポケットに手紙を忍ばせたニコラスは、例の墓の前に誰かが蹲っているのを見つけて口をぽかんと開ける。
    「え、」
     ニコラスは、己の目を疑った。
     墓の前に、天使がいる。
     何度か瞬きをした彼はじっと天使を凝視し、一旦背を向けた。深呼吸をし、数秒目を瞑る。そして、再度墓石のほうを見た。
    「いや、やっぱおるわ! 見間違いちゃう!」
     ニコラスは小声で叫び、頭を抱える。
     墓の前には、真っ赤な服の天使が墓石に両手をつくようにして座り込んでいた。背中から羽が生えているので、天使と称して間違いないだろう。
     ニコラスのことは気がついていないのか、天使はじっと墓石を見下ろしている。
     真っ白で長めの髪に少し隠れているが、その横顔は整っていることが遠目にも分かった。信じられないと思いながらも、好奇心に背中を押されたニコラスはそろそろと近づいて天使に声を掛ける。
    「なぁ、アンタ……天使か?」
     すると、天使はゆっくりとニコラスを見上げ、驚いたように目を開いた。その彼と目が合ったニコラスも、思ったよりも天使が年老いていることと、その瞳の色の美しさに驚く。
     二人はしばらく見つめ合っていたが、やがて天使が目を逸らす。
    「……神さまは僕を許してくれないよ」
     うっすらと微笑む彼の言うことはよく分からなかったが、どうも天使ではないらしい。いや、どうだろうか。神の話をしてくるのだから、やはり天使なのかもしれない。
     だが、それにしては、随分と年老いている。ニコラスの知る天使というのは、赤ん坊か若い青年の姿だ。こんな老人の天使なんているのだろうかと首を傾げながらも、ニコラスは天使の羽を見つめた。
    「えっと……ここで何してるん?」
    「……ここに、好きな人がいるんだ」
    「は……」
    「だから、最期はここに居たくて」
     よく見れば、天使の羽は片方しかない。身につけているのは、老いた姿には不釣り合いな真っ赤で古びたコート。少し色褪せたそれはボロボロで、複雑な形を保っているのが不思議なくらいである。
     見慣れない姿は非現実的で、この古すぎる墓に眠る人物と知り合いだったと言われても何故だか納得ができた。
    「し、死ぬんか?」
    「そう、だね。これが、死ぬってことなんだと思う」
     天使は返事をくれるが、ニコラスを見ることもなく、墓石を撫でている。ずっと、愛おしげに。
    「墓、入りたいんか」
    「……でも、開けたくないんだ」
     怖くて。天使の声音が少し震えた。ニコラスが言葉の意味を考えるより先に、天使は言葉を紡ぐ。
    「埋めたのは俺なのに、おかしいよな。でも、怖いんだ。何が怖いのか分からないけど」
     独り言なのか、彼はぎりぎり聞こえる程度の声量で呟いた。痴呆老人にも似た姿を見たニコラスは、意を決して彼の隣にしゃがみ込む。おそらく人間ではないが、助けを求めている老人を助けないわけにもいかない。
    「なぁ、わいが墓開けたるから」
    「え?」
    「一緒、居りたいんやろ」
     言うが早いか、ニコラスは墓石に手をかけた。見るからに分厚い石だったが、少しずらすくらいならなんとかなるだろうと思ったのだ。
    「んぎぎ……おっも……っちょ、お! じいちゃんも手伝ってや!」
    「あ、ああ……ごめんね」
     開けてやる、などと大口を叩いたニコラスだったが、あまりの重さにすぐに根をあげ、天使へ助けを求めた。天使は戸惑った様子で、けれどのろのろと手を出す。
    「せぇの、で押すからな」
    「うん」
    「せぇ、の!」
     天使は意外と力があったらしい。ニコラス一人ではびくともしなかった石が簡単にずれて、墓が開かれた。
    「開いた!」
    『お疲れさん』
    「へ?」
     両手をあげるニコラスに、耳障りの良いバリトンボイスが声を掛けてくる。誰だ、と振り向いたニコラスは『ちょっと借りるで』という声と共に意識を失った。

    『久しぶりやな、トンガリ』
    「ウルフウッド」
    『何びっくりしとんねん』
    「いや、だって」
     寿命が近いと感じてやってきた、かつての友の墓。そこへ現れた、友・ウルフウッドにそっくりな少年。記憶は無い様子だったのに、墓を開けた途端、その少年から懐かしい低音が聞こえてくれば、誰だって驚くだろう。
    「さっきまで何も知らない子だったよ」
    『ちょっとな、依代的なヤツにな』
    「取り憑いてる……悪霊だ……」
    『そう言いなや。最期に迎えに来たったんやから』
     ウルフウッドによく似た面差しの少年が、彼と同じ表情で笑う。若干引いていたヴァッシュはそれを見て、仕方ないなと言うように眦を緩め、そのままボロボロと涙を溢した。
    『トンガリ』
    「う、うるふうっど、ぉ」
    『よお頑張ったな』
     俯くヴァッシュの頭を、少年の手が撫でる。小さな手の筈なのに、かつてのウルフウッドの手を思い出させる感触に、ヴァッシュは小さく笑った。
    『あとな』
    「ん」
    『ラブレターも、ありがとうな』
    「んん」
     ウルフウッドの発言に、涙を引っ込めたヴァッシュが勢いよく顔を上げる。やや恥ずかしそうにニヤニヤとするウルフウッドは、思い出すように遠くを見ていた。
    『熱烈やったなぁ』
    「うぐ、ぐ、見てたのかよ……」
    『そりゃあなぁ。ずっと見とったで』
    「見てたのかよぉ……」
     穴があったら入りたい、とヴァッシュは背中を丸める。ウルフウッドはその頭をまたポンポンと撫でてやった。
    『嬉しかった』
    「……うん」
    『せやから、わいも返事したらなアカンなと思て』
     優しく『顔あげて』と促されて、ヴァッシュはゆっくりとウルフウッドを見上げた。彼の姿はいつの間にか子供ではなくなり、ヴァッシュもまた、二人で旅をしていた頃のものに戻っている。
    『ずっと一緒に居って』
    「うん……」
    『ワイの隣で笑っとってや』
    「うん……!」
     ぎゅうと抱き締められて、ヴァッシュは広い背に腕を回した。
     その瞬間、張り詰めていたものが弾けたようにヴァッシュの羽が逆立ち、見る間に全身を覆い尽くす。
     少年の体でウルフウッドは、肉体を失った赤いコートと残された義手を胸に引き寄せた。
    『おやすみ、ヴァッシュ』

    「ニコ、どうしたん? 中々帰ってこんから……」
    「え……」
     父親に声をかけられ、ハッとしたニコラスは振り向いた。その顔を見た父親が、驚いて声をあげる。
    「泣いとる! どうしたん? って、墓開いとるやんけ!」
    「え」
     ニコラスを上から下まで見た父親が、視線を下ろした拍子に息子の傍らの墓の状態に気がついて更に叫ぶ。ニコラスは驚いて、自分の足元を見た。
    「お前が開けたんか」
    「いや……」
     記憶にない、と口にしながら、ニコラスの目は墓から離せない。少しずらされた墓石の、隙間から見えるものから。
    「なんや、墓荒らしか? でもこんな古い墓にええモンなんか、なんも……」
     近づいて来た父親が、ひょいと墓の中を覗き込む。そして、肩を竦めた。「やっぱなんもないな」と。
     墓の中には、黒いスーツらしき布と、それに包まれるようにして左手だけの義手があった。
    「物好き……いや、罰当たりなやっちゃな」
     ぶつくさ言いながら、父親が墓石を元に戻すのを、ニコラスはじっと見つめていた。無意識に、ぎゅっと胸元を握りしめて。
     その姿を見た父親が心配そうにニコラスの顔を覗き込んだ。
    「ニコ? 気分でも悪いんか」
     問われ、ニコラスは父親の顔を見上げる。見慣れた彼の顔を見た瞬間、ニコラスは、ふっと何もかもを忘れた。寝起きに握りしめていた夢の尻尾を手放すように。
    「いや、全然」
    「なんやねん」
    「腹減ってきたわ。おとん、はよ朝飯食べよ」
    「いや、お前が戻ってこんから迎え来て……まぁええわ。行こか」
     親子は賑やかに話しながら、墓場を後にする。
     墓石の隙間に、彼らが見逃した羽根が一枚挟まっていたが、やがて風に溶けるようにして消えた。

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