美醜青い光に照らされた大きな水槽には
蛇のような鯨のような、そのどちらでもあって、どちらでもない
奇形の生物が漂っていた。
全てが金属とガラスで作られたここは彼の実験棟であり
愛玩動物を飼う檻だった。
その部屋にただ1つ置かれた大きなベッドは僕という奇形のためのものだ。
目が覚めると彼はそのお気に入りの水槽の前に立ち
大きな水槽をただようその醜い生物を慈しむ様に見ていた。
水の中をゆらりふわりと巨体が漂う。
僕が目覚めたことを振り返りもせずに察したらしい彼が
独り言のようにつぶやく。
「これは、むかし人間が賢かったこの生物を生物兵器として
利用すするために別の攻撃性の高い生物と掛け合わせ生まれた生き物だ。」
水槽の中のソレが水槽にかざされた彼の手に甘えるように鼻先をよせる。
「あげく遺伝子を操作してより攻撃性をたかめた結果…知能を失い
その凶暴性をコントロール出来ずにもてまして海の底に遺棄した。」
ふわり、ゆらり…とソレがまた大きな水槽を泳ぎだす。
「結果奴らは絶滅した。そしてコレはそのDNAを模したコピーだ。」
泳ぐソレをひとしきり眺めると、彼は水槽から手を離してこちらを向いた。
「コレを美しいと思うか?」
歪んで避けた口からのぞく大きな牙、人の手のようにも見えるヒレ…
人が見ればソレは美しさからは最も遠い生き物に違いないけれど。
そう思うことは僕には出来なかった。
むしろ仲間だとさえ今は思う。
僕も奇形だ、人でもシードでもない。
「美しいのは人ばかりなのか?」
彼の手がソレを慈しんだのと同じ仕草で僕の頬に触れた。
青い光が水槽を照らした反射光が逆光になって彼の顔は見れないけれど。
彼はきっと僕を美しいと褒めたのだ。