そっか。
平安時代に出陣した際に、鶴丸が自身の相方に対して行った仕打ちの話を聞いた清麿は淡々と答えた。
別に怒り狂えなどと言うつもりはないけれど、三日月を誘き寄せるための餌に突然したのだ。あまりにも理不尽であることは大倶利伽羅だって分かっていた。清麿も怒るだろうと覚悟していたのだがあっさりと受け入れられるとは思わなかった。
「……随分とあっさりだな」
「ふふ、怒った方がよかった?」
そうは言っていないと目を伏せれば清麿は読んでいた本をぱたんと閉じた。
「そうだね、僕個人としては今すぐにでも殴りに行きたいところではあるよ」
けれど、清麿は静かに本の表紙を撫でた。随分と古い歴史書のようだ。怨霊として有名な名前が書かれている。
「でも、水心子が彼を許しているから。水心子がそのことを話さないと決めているから。……僕は、何も知らない顔で隣にいるよ」
大切な人を傷つけられた痛みもそれを隠された苦しみもあるだろうに、柔らかく優しげに笑みを浮かべる彼に大倶利伽羅は目を伏せた。
「強いな」
「僕じゃない、水心子がすごいやつなんだよ」
へにゃりと笑った清麿の顔に少しだけ寂しさが滲んでいて、大倶利伽羅はただ視線を逸らすことしかできなかった。