それはまるで、人のように。しとしとと雨が降る。水心子は本からふと視線を外して窓から空を見上げた。
この雨で桜は散ってしまうだろうか。せっかく綺麗に咲き誇っていたのに。花当番をしていたからか散ってしまうことに寂しさを感じていた。
そういえば、鶴丸から言われていた。水心子正秀は本丸一心優しい刀剣男士なのだと。
果たしてそれが事実かは水心子には判断できないけれど、優しさというよりも甘いだけだと思っていた。こうして花の散り際にも心が揺れるのだから。
刀剣男士としてあるべき姿ではないのかもしれない。まるで人のように揺れていては刃は鈍らになってしまう。
水心子正秀は刀剣男士だ。新々刀の祖で、刀剣男士たる姿を求めてきた。
けれどたまに、境界線を見失う。死に、思いに、人に引き摺られてふらりと足を踏み外しかける。その度に清麿や他の男士によって引き留められているものの、いつか本当に堕ちてしまう時が来てしまうかもしれない。
水心子は目を伏せて細く、小さく溜息をついた。祖としてはもちろん、刀剣男士としても望ましくないだろうと自覚もしていた。
「水心子はすごいやつなんだよ」
伏せた瞼の裏に浮かぶ親友の、柔らかい笑みに水心子は思わず口元を緩ませた。
水心子からすれば彼こそすごいやつなのに、何度も言葉にしてくれる親友の声に胸の内が少し軽くなった。
変わるべきか、変わらないべきか。結局判断できないことをつい考えてしまう。
いや、考えたところできっと。きっと水心子は変われない。
水心子は結局甘いままで、同情してしまうのだ。ふらふらと境界線に近付いていってしまうのだろう。
ああ、ほら今だって、散りゆく花弁に寂しさを覚えてしまう。あの境目であの子が見せた感情も、鶴丸の三日月への気持ちも、歴史の中で敗けて死んでいった者たちの無念も、全部、全部。
「……」
刀剣男士のあるべき姿、とは。歴史を守るために、ただ忠実に。甘い感情は捨てて心を閉ざすべきなのかもしれない。
けれど、それはどこか違うようにも思えてまた人のように、迷うばかりなのだ。