真夜中の影「おやすみ」
囁き声が上から降ってきて、獅子神はびくりと震えそうになる体を抑えた。
真夜中の、明かりの落ちた真っ暗な部屋だ。
獅子神の家だ。
獅子神は、リビングの毛足の長いラグに身を横たえ、毛布を被り、もうずっと眠ったフリを―――している。
これはここ最近の獅子神の癖のようなもので。
なぜなら、最近親しくなり、他の友人らとともに獅子神の家に泊まりがけで遊ぶようになった、先程獅子神に声をかけた男。
叶黎明。
この男が、このように毎晩、誰よりも最後まで起きて。
こうして誰も起きていないことを確認するように、声を落としていくからだった。
―――こえーよ。殺人鬼かよ。
叶黎明は得体が知れない。
獅子神がこの男について知っていることといえば、真経津にギャンブルで負け、その後友人になったこと。村雨を一方的に慕っていること。そして、異様なまでに観察力に優れており、「見ること」と「見られること」に異様なほど執着している、それだけだ。過去も職業も、犯罪者かどうかさえも何一つ知らない。ネット配信を行っているらしいが、それが「表」の職業なのかすら定かではない。
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