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    しゃもちゃん

    5000以下の短め練習をベースに時折イラストなど。文字は最後pixivに収録します。
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    しゃもちゃん

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    【アル+ユリ】要らんなと思った本の十年前回想シーンを供養。騎士団入隊時捏造。

    #アルユリ
    AlbertYurius
    ##あゆ

    渇望と羨望──十年前 騎士団詰所
     城壁に囲まれた広場でユリウスは片膝を突く。激しい運動で軽い貧血を起こしていたが、なんとか自身を奮い立たせる。
     騎士団入隊試験の時の事だ。髪を後ろに結い上げ、騎士見習いの衣装を身に纏って、たくさんの同年代の少年少女の中にいた。
     ユリウスにとっては初めての経験だ。公爵家に預けられてからというもの、同世代との関わりは特に薄かった。
     剣術の経験など、簡単なマナー程度にしか家庭教師は行わなかったから、ユリウスは周囲からは明らかに浮いていた。
     ただ知識だけで立ち回り、剣を振るっている。
     模擬剣とはいえ当たれば痛いし、相手も入団の為ならば容赦はない。しかし後がないのはユリウスも同じで、ふらつく足取りのまま何戦かを終えた。

     息が上がる。眩暈もする。どかっと木の陰に座り込んだ。体から力を抜けば、泥のように起き上がる事が億劫になってしまいそうだった。
    『何故そこまでがんばるんだい? 君の入団は確定しているのに』
     何処からともなく声が掛けられた。ユリウスの選んだ木陰に当代の騎士団長が佇んでいる。誰もいない場所を選んで座り込んだので、この言葉は自分へのだとユリウスは察する。
     そして、返事はしなかった。返事をする前に騎士団長は広場で歓声があがる試合の観戦に行ってしまった。ユリウスの視線もそちらに向けられる。
     ──頭一つとび抜けた真剣勝負がそこでは繰り広げられていた。
     事実、周囲より少し小柄な少年がだれよりも巧みな剣捌きに電雷を乗せ、そして跳躍し、広場を疾駆する。
     相手は今回の入団試験には少しとうのたったドラフの青年だ。明らかな体格差を、その俊敏さと応用魔法で埋めてみせた。
     本来鉄製の剣に纏わせているであろう雷電は、木製のそれでは見掛け倒しに過ぎなかったが、試合により一層の気迫を感じさせた。
    「──やめ! この試合、引き分けとする」
     凛とした声がその試合を止めた。
     両者とも息を乱していたが、それでもユリウスの呼吸程ではなかった。
     小柄な少年は入団試験の実技を一位で通過して、形式ばかりの筆記試験へと彼らは挑んだが、ユリウスの頭の中から騎士団長の言葉が離れる事はなかった。
     筆記は所謂「エリートコース」というものだ。軍師としての才覚を見出すもので、騎士団への入団には直接関係はない。
     手を抜いた訳では無いが、ユリウスは筆記でも苦戦した。一般常識だけでは足りぬ戦術の応用に舌を巻く。それでも、かの少年や実技で優秀な成績を残したドラフの青年、そのほか数多の一般枠からの入団希望者よりは、ずっといい成績だったが、当時のユリウスにとってそれは知る由もない。
     実技、筆記ときて、入団試験最後は体力測定だった。
    基礎的な柔軟、瞬発力、持久力。ユリウスにとって特に苦痛なものだった。知識でどうにかなるものでなく、本人に宿る性質でしか数えられない類のもの。
     特別愚鈍な身体では無かったが、貧弱な体力だけはどうしようもなかった。走るにつれ引き攣る筋肉。頭は上下に揺れ、それがさらに吐き気を誘う。
     腕はもう衣服を掴むだけになった。呼吸は乱れるだけの量を持たずただ吐き出されるだけ肺を締め付ける。しかし、最後尾にだけにはなりたくないという意志だけでユリウスの足は前へ前へと進んだ。
     朦朧とする意識の中で、とうとうユリウスは足がもつれて転んでしまった。砂利が膝と手のひらを傷付けたが、再び立ち上がり、最後尾の幾名かに追い抜かれないよう必死で周回を追い付こうと走った。先頭の集団がユリウスの横を通り過ぎようとしている。いったいいつまで──思考を削られて、今自分が何周遅れかどうか、数える余裕すら無くなっていく。
     先頭を走るのはあの少年だ。少し灰色がかった、色の抜けたようなくすんだ金髪。麦よりも淡く柔らかい髪をした少年が、集団を抜けて戻って来た。
    「血はでていないか?」
     酷く優しい声だった。柔和な、声変わり前の声。夕陽のようなオレンジがかった緋色の瞳。手を差し伸べられて、ユリウスは蒼褪めた。
    「……要らない。行きたまえよ、後ろが追ってくる」
     払いのけはしなかったが、掴みもしなかった。
    立ち上がって砂を払う。
     ユリウスの声を聴いて、彼は再び走り出した。あっという間に先頭集団に再び追い付き、そして最先頭を競いあった。
     拍子抜けしてしまったユリウスは、呼吸を整えて一歩を踏み出す。こめかみを伝う汗、はやまる鼓動、白んでいく視界。
     視界の端に、僅かに迸る雷光をみた。
     終わりの見えない持久走は夕暮れまで続いた。
     曇天が夕陽で色を変える。みな一様にして汗水を垂らし座り込む中、彼だけは已然たち続けていたが、彼だけは違って見えた。
    じっと見詰める視線に気付いたのか、葡萄色の天を仰ぐ彼と視線が合った。
     たたた、と駆け寄られて、小柄な、と思っていた彼は自分そう身長が変わらない事にユリウスは気付く。先程は膝を突いていたから分からなかったのだろうか、それとも彼の周りにいるのがドラフやすらっとした長身のエルーンばかりだっただろうか。
     あどけない顔をしている、と我にもなく考えた。
    「先程のケガはもう手当てしたのか?」
    「あ、ああ……たいした怪我じゃない。擦りむいただけだ」
    「……」
    「何か?」
    「あ、いや……違ったらすまない。同世代が珍しくて」
    「!、君も? ……いくつなんだい」
    「十五になる。入団が決まる頃には十六に」
    「同じだ……、私も、今年十五になった」
    「私? 失礼、女性だったのか」
    「いや、男だよ。家柄で見くびられる事が多くてね。……君は、どこの家だい?」
    「地方から来た。地元では騎士見習いとして小さな自警団に入っていたよ」
    「道理で、実践的な戦い方だと思った……」
    「今の王は男も女も、年齢も関係なく武に秀でていれば近衛騎士団に入れると聞いたから王都まで出て来たんだ。実際、騎士団の入団試験が受けられて願ったりかなったりだよ」
    「それは良い事だ。……入団できると、いいね……」
    「ああ! 地元では実は同年代があまりいなかったんだ! 偶然だが同い年どおし、良ければ仲良くしてほしい」
     そう言って彼は明るい笑みを浮かべて手を伸ばした。
    「いや、多分私は落ちたよ。最後の体力測定でほとほと理解した。……だけど、君の合格を祈っている」
     その手を握り返す事は出来なかった。
     模擬試合の中で言われた騎士団長の言葉が頭に張り付いて離れない。
     踵を返して、ユリウスはその場を立ち去る。
    「あ……名前……」
     もう走れないとさえ思ったのに、早くこの場を去りたくてユリウスは駆けだした。
     俺はアルベールだ、と叫ぶ声が聞こえた。アルベール。アルベール。きっと忘れない。こんなにも自らの事を恥じたことは無い。

     一筋の閃光が激しい嫉妬を沸き立たせる。
     妬ましいと──羨ましいと。
     その真っ直ぐな激情に民衆は惹かれる。
     欲して止まない、その眩しい程の光を。
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