午前1時、共同浴場にて湯船に足を突っ込んで、ゆっくりと中へ入っていく。湯の中に腰を沈めるとじんわりと熱さが広がっていき、自然とため息を吐いた。
私はフィガロの向かいに陣取り、かつ彼女は私の方を向いて座っているので、その表情がよく見えた。目を閉じて心地良さげにしている。つられてこちらも顔が緩んだ。それからしばらくの間私たちに会話はなく、湯船に湯が足される水音だけが2人きりの浴場内に木霊していた。
そういえばフィガロの紋章は右肋にあると言っていたが、全く見えなかったな。なんてことを考えつつ彼女の方を眺めていると、突然ぱちりと目が開かれた。慌てて目を逸らしたが、くすりと笑われてしまう。
内心酷く焦りながらも何食わぬ顔で紋章について訊くと、ああ、と納得したあと、見せてあげようかと言ってくれたのでお願いすることにした。
フィガロはこちらに向かって手招きをしてきたため、私は誘われるがままに湯をかき分けて彼女の方に近づいた。それを確認した彼女は湯から上がり、その動きに合わせてちゃぽんと水飛沫が跳ねる。フィガロは私から紋章が見えやすい位置に移動してくれるようで、湯槽の縁に腰掛けた。
でも、フィガロの肌の上に刻まれていたものは、やはり私には見えない。
期待でもぞもぞしていると、次第に彼女の左手が右胸にゆっくりと近づいていく。何事かと思って見つめていると、ふわふわのおっぱいを掬うように手を置いた後、くいっとそれを上に持ち上げた。豊満な胸がぐにりと変形して歪になる。
持ち上げられた乳房の付け根には、百合の紋が刻まれていた。
立ち込める湯気の中、しとどに濡れた白い肌に刻まれた黒の刻印は、なんだかとても倒錯的で、アンバランスで、何か覗いてはいけないものを覗いている気がして、瞼がぴくりと痙攣してしまう。
「持ち上げないと見えないんだよね。これ」
彼女は苦笑しながら言ったあと、手を離す。支えを失ったそれは重力に従って下に落ちていった。