商売柄、客の顔はそれなりに覚えている。特に飯を食ったあとの表情は次に店に来た時出す料理の味付けの参考になるし。
もちろん、忘れてしまったり思い出すまでに時間がかかることもあるけど、その思い出せない相手のことをいつまでもどこで会ったのか思い出そうとする自分というのはあまり覚えがなかった。
眇めた目で俺のことをみていた天狗の男。桔梗色の瞳や、枯れ草色の柔らかそうな髪にはどことなく覚えがある気がして、男が店を出てからもずっと気にかかっているままだ。
下がり気味の眉、薄い唇。厚着していても痩躯だとわかる身体付き。小さなひとくちに、食べたときに目を見張る癖。
そう、あの表情を俺はどこかで見たことがある。美味いか?と聞いた時見張った目が和むように細められて美味しい、と答える幸せそうな声もきっと。
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