君を初めて見たあの瞬間、俺の世界が明るく見えるようになったんだ。「俺と一緒に来ないか?」って君に尋ねると、小さな温かい手が俺の手を優しくぎゅっと握ってくれて嬉しかった。同時に弱くて小さな君を守らなければとも思った。小さくてまだ生まれたばかりの弱い国。放っておけば、直ぐに呑み込まれてしまいそうな国。俺が守らなければ誰が守るというのだ。決して彼奴には渡さない。
なんてかっこつけたことを考えていたよ。今の君にそんなことを言えば「僕にそんな価値なんてありませんよ」と言ってきっと笑い飛ばすんだろうね。
でもね、俺にとって本当に君は大切だったんだ。君の成長をずっと見守りたかった。……傍に居たかった。
君と過ごした日々が昨日の事のように思い出せるよ。君の一つ一つの行動に一喜一憂して、子育てってこんなにも大変なのか……って思ったこともある。でも、君はそんな俺に気を使って我儘を一度も言ってくれなかったね。……最後まで言ってくれなかった。今言うのは狡いかもしれない。それでも、言いたいんだ。俺はずっと君が我儘を言ってくれるのを待っていた。
「なーんて、やっぱり今こんなことを君に言うのは狡いかな?」
だって仕方ないじゃないか。今お酒の力を借りないときっと言う機会は今日しかない。ずっと守ってきた可愛い子。いつ間にか気持ちは変わってしまったけど、大切にしたいという気持ちは変わらずにある。
まあでも当の本人はぐっすり隣に寝てるんだけどね。可愛い顔をして寝てる。寝言でもいいから俺の名前を呼んでくれないかな。
「ねえ、マシュー。俺は君に幸せを教えてもらったよ」
俺はマシューの額に一つキスを落とした。この子が幸せになりますように。目が覚めたら俺の事を好きになってくれますように。そんな願いを込めて。