せめて、あらしのなかでは嵐の前の静けさ、なのだろうか。
午前八時の陵南高校前駅は、陵南高校生、通称南高(ナンコー)生が一番多い時間帯だ。早朝からの雨が通学時間に本降りとなり、改札を通り億劫そうに傘を差す生徒達。住宅街の急な坂を上る塊の中に、ひときわ目立つ長身の男子生徒を目が良い植草は難なく見つけた。
「福田、おはよ」
「はよ」
相変わらずの仏頂面だが、一年半と同じチームメイトとして過ごしただけあって決して機嫌が悪いわけではないことは分かる。だが機嫌が良いわけでは無さそうだ。
雨のせいか?
「どした。なんかあった?」
「………」
植草たち二年生は、夏の県大会後に魚住ら三年生が卒部したことで部内の最高学年になった。冬の選抜予選まで一人も残らなかったことは、戦力ダウンだけではない、何ともやり切れない思いだった。チーム内の精神的中枢、それは間違い無くエース仙道だ。だが、仙道にとっての精神的中枢は確かに魚住だった。言葉にこそしたことは終ぞ無かったが、植草は、夏の県大会最終試合に痛感させられた。だからという訳では無いが、植草はチームメイトの機微に少しばかり敏感になっている。特に福田のように、口数少なくストレスを溜め込んでしまうようなやつには。とにかく吐き出させて、少しでも心を軽くさせる。主将クラスには話しにくいことでも、植草なら話せることがある。自分の役割りだと、植草は密かに自負していた。
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